2006年、サージュ・ミシェル(現オーナー)とクロード・グライスラー(ディレクター、マスター・ウォッチメーカー)は、マスター・ウォッチメーカーであり創業者であるアーミン・シュトロームから彼の名を冠するブランドを譲り受けた。そのわずか2年後の2008年に、ふたりの幼なじみはスイスのビエンヌにマニュファクチュールを開き、初の自社製ムーブメントを発表した。
今回WatchTime編集部(以下WT)は、ミシェル(以下SM)とグライスラー(以下CG)にインタビューを行い、スイスの独立系時計メーカーとしてのビジョン、比較的若いブランドとしての挑戦、そして精度に対する共通の情熱について話を聞いた。
Text by Roger Ruegger
2022年3月8日掲載記事
「精度の安定性を目指すことは、何日も、何週間も、何カ月にもわたって、完璧な時間を刻み続ける時計を実現することだ」(クロード・グライスラー)
WT:おふたりともスイスのブルグドルフご出身で、学校も同じでいらっしゃいます。どのような経緯でアーミン・シュトロームの舵取りをすることになったのでしょうか?
SM:クロードと私が子どもの頃、地元出身の時計師、アーミン・シュトロームは有名なだけでなく、尊敬される人柄で私たちは大いに関心がありました。機会があれば、彼の小さな工房で何が起きているか、わずかでも知ろうとしていたものです。シュトローム氏は定期的に海外に出掛け、手仕上げで芸術的なシースルー加工が施された時計を、厳選された顧客に届けているという噂もありました。ギネスの世界記録保持者でもあるような有名人でしたから、彼の人生は私たちにとって非常に魅力的に映ったものです。その頃、自分でも気が付いていなかったのですが、私の内に時計への抗しがたい情熱が芽生えていたのです。私はマーケティング分野の勉強を始めましたが、幼なじみのクロード・グライスラーはアーミン・シュトロームと同じ道を歩み、才能ある時計師として名を馳せました。クロードは高級で革新的な有名時計ブランドで、時計作りとデザインを一から学んでいたのです。私たちは友人であり続けましたが、この頃はまだ一緒に初恋のアーミン・シュトロームというブランドでビジネスパートナーとなるとは思ってもいませんでした。アーミン・シュトロームの後継者探しにあたり、彼は私の家族に連絡を取ってきました。その時、これが子どもの頃の夢を、アーミン・シュトロームについての同じ記憶を共有するクロードと実現するチャンスだと思ったのです。
WT:創業からこれまでに得た最大のものはなんですか?
CG:昔も今も、最も大切なことは、常に改善と発展を続けることです。私はこのことを、ビジネスと自分自身の時計作りにおける完成度の向上につなげています。
WT:現在の年産はどれくらいですか?
SM:現在、私たちの生産能力は年間数百本しかなく、それを新作と既存コレクションで慎重に振り分けなければなりません。現在、従業員は23名で、そのうち半数以上が時計職人です。
WT:一番人気のあるモデルは何ですか?
SM:レゾナンス機構搭載モデルは非常に人気があります。精度の高い安定化を図るレゾナンスという複雑機構は、時計作りの因習を打破した独自技術だから注目されているのでしょう。試作から実現に至るまでの段階で、レゾナンス搭載の難しさに直面するほとんどの時計ブランドが諦めてしまいますが、アーミン・シュトロームは敢えてそれに向かうことを選び、自らの精神に忠実に、この技術を習得していったのです。
WT:複雑機構では何がお好きですか?
CG:もちろんレゾナンスですね。またアーミン・シュトロームのレゾナンスウォッチの文字盤上で鑑賞できる、魔法のような機械の動きも大好きです。
WT:おふたりはどのように仕事を分担されているのですか?
SM:私は営業と社内の営業部の責任者、クロードは商品開発と製造の管理を担当しています。そして会社全体のマネジメントをふたりで分担しています。
WT:アーミン・シュトロームのスピリットとはどのようなものでしょうか?
CG:透明性のある機械への情熱です。私たちは時計作りのクラフツマンシップは決して文字盤の後ろに隠されてはならないと信じています。私たちは現在、アーミンのシースルー加工の伝統を再解釈しています。目に見えるムーブメントは機械的な面だけでなく、視覚的な面も大切です。
WT:シュトローム一族とは現在も繋がりがありますか?
SM:はい、アーミンは私たち家族と親しい友人で、最近も工房を訪ねてきてくれました。彼はブランドが発展していく様子や現在のアーミン・シュトロームの時計におけるシースルー加工の再解釈を喜んでくれています。
WT:アーミン・シュトロームにとって2021年はどのような年でしたか?
CG:創業以来、最も好調な年でした。私たちを含め、独立系ブランドに対する強いトレンドを感じました。もちろん、それは私たちにとってとても誇らしく、幸せなことです。パンデミックによって、人々がオンラインで商品について調べる時間が増え、よく知られた主流とはかけ離れた、真のクラフツマンシップの価値を持つ非凡な時計を選ぶようになってきたことも、この傾向を強めていると思います。
WT:需要の増加によってビジネスにはどのような影響がありますか?
SM:コロナ禍において、受注本数は2倍以上に増え、一部のモデルはウェイティングリストができています。もちろんお客様に長くお待ちいただくことがないよう全力を尽くしています。アーミン・シュトロームの工房の独立性は、明らかな利点であることが証明されています。私たちはサプライヤーに依存せず、あらゆる点で柔軟性があり、すべての行動において選択の自由があります。
WT:最大の課題は何ですか?
SM:高まる時計の需要に対応することです。これにはクオリティを維持しながらの生産力の拡充、技能の高い時計師の確保が関係してきます。コレクターと直接会うことが難しいコロナ禍では、連絡を取り続けることも課題です。しかし、WhatsApp、オンラインミーティング、Eメール、電話などの簡単なデジタルツールで、かなりうまくいっていると思います。
WT:アーミン・シュトロームについて、ひとつ知ってもらいたいとすればそれは何でしょうか?
CG:私たちは作り出す時計のすべてのディテールに熱意を注いでいます。ムーブメント開発、エンボス加工、ガルバニック処理、ムーブメントの手作業での装飾仕上げなどです。アーミン・シュトロームのコレクターの方々は何度も鑑賞して楽しまれることを存じ上げていますので、高級時計における最高レベルの水準を大切にしています。
WT:レゾナンス技術の5周年を祝い、プラチナ製の「ツァイトガイスト」を発表されましたね。この時計はすでに販売されていますか?
SM:ツァイトガイストのユニークピースはすでにお客様の手に渡っています。この時計に対する需要は非常に高かったため、さらなるバージョンでの展開を検討しています。ツァイトガイストはクロードと私のお気に入りの時計であることを申し添えておきます。
WT:レゾナンス技術の最大の利点とはなんでしょうか?
CG:レゾナンスは、時間の経過とともに精度を調整する科学的原理を採用することで、計時機能の安定性を最大限引き出すことができます。時計学では、精度は高級時計の究極の目標であるとしばしば謳われますが、実際には、精度だけでは優れた計時機能にはなりません。精度の安定性こそが、時計に何日も、何週間も、また何カ月も完璧な時刻を刻ませるのです。
アーミン・シュトロームの最新世代のレゾナンスは、市場で最も信頼性が高く、レゾナンスを使用する他のどの時計よりも速く同期させることができます。ふたつのヒゲゼンマイとテンプをつなぐ柔軟なサスペンションであるレゾナンス・クラッチ・スプリングのおかげで、アーミン・シュトロームのすべてのレゾナンス・ウォッチは、衝撃や振動に対する耐性も向上しているのです。
WT:「レゾナンス・クラッチ・スプリング」の開発で、最も苦労した点は何ですか?
CG:特定の複雑機構に関する既存の概念を打ち破ることでした。
WT:将来的にはもう少し入手しやすい時計の取り扱いを考えていますか?
SM:「システム 78」コレクションは、高級時計としての完璧な仕上げや、革新的な数々の特徴を有しつつ、手の届きやすい価格帯を実現しており、その需要は非常に高いものとなっています。このコレクションの生産能力は実際の需要に対してかなり低いのですが、私たちは限られた生産本数をこのコレクションに充て、高級時計へのアクセスを広げることを目指しています。
またマスターピース・コレクションは、私たちの時計作りにおける哲学、技術力、芸術的感性の頂点を表現するものです。これらの特別なタイムピースは、常に非常に限られた数量しか製造されません。
レゾナンス・コレクションに代表される共鳴現象は、時計製造の歴史における真のマイルストーンであり、私たちにとって非常に身近な存在です。今後もアーミン・シュトロームのキーコレクションとして存在し続けるでしょう。そして最近発表されたツァイトガイストのユニークピースは、レゾナンス・ウォッチの次の章を飾る作品なのです。
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