ジラール・ペルゴから、1970年代のLEDウォッチを復刻させた「キャスケット2.0」が発売された。アイコニックなスタイリングを踏襲した見た目と、LEDウォッチながら50万円を超える価格設定が話題を呼んでいるが、セラミックス製のケースとブレスレットによる外装のクオリティを知れば、この金額は決して高くない。
Photographs by Ryotaro Horiuchi
細田雄人(クロノス日本版):文
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
2022年3月15日掲載記事
クォーツ(Cal.GP03980)。ブラックセラミックス×Ti(縦42.4mm×横33.6mm、厚さ14.64mm)。50m防水。世界限定820本。56万1000円(税込み)。
〝2.0〟にアップデートされたLEDウォッチ
2022年2月22日、伝説的なLEDウォッチが復活を遂げた。ジラール・ペルゴ「キャスケット2.0」だ。オリジナルとなる時計は1976年の発売当時、モデル名らしい名称が付けられておらず、単にリファレンス番号と素材名で区別されるだけだった。しかし、特徴的なヘッド部分の形状がハンチング帽に似ていることから次第に“キャスケット”の愛称が定着している。つまり今回発売された新作によって、ペットネームが正式名称に昇格した形だ。
とはいえ今作はモデルにもある通り“2.0”、つまりアップデートモデルだ。オリジナルから何を引き継ぎ、そしてどのように改良されたのか。40年以上の時を経て復活した新生キャスケットを見ていこう。
高級感を付与したセラミックケース
近年、“ラグジュアリースポーツ”という大きなトレンドの影でひっそりと盛り上がりを見せているのが、70年代風デザインの時計だ。69年のクォーツウォッチ誕生を経て腕時計の価値観がガラッと変わったこの時代は、カラフルな文字盤や当時はまだ分厚かったクォーツムーブメントを納めるための分厚いケースなど、機械式時計全盛期とは一風変わったデザインの時計が多く生み出されていた。
そんな“70年代風時計”は、長らく異質なものとして時計愛好家ならびにメーカーからみなされていた。そのため、復刻時計ブームの中においてもこの時代の時計は意図的に避けられていた感がある。70年代風時計が世間に再評価されるのには、復刻時計ブームが1周した2010年代後半まで待つ必要があった。ひと通りの“王道デザイン”が復刻された結果、風変わりとされていた1970年代風時計はむしろ“新鮮”に映ったのだ。
そのような経緯の中で、この年代の象徴でもあったLEDウォッチもまた、レトロフューチャーなスタイリングが再評価を受け、復刻モデルがいくつか出てきはじめている。もちろん、キャスケット2.0もそのうちのひとつだ。
とはいえキャスケット2.0は、先駆けて登場したLEDウォッチとは決定的に異なる点がある。販売価格だ。ジラール・ペルゴの名を冠した時計が2022年に他社のLEDウォッチと同様、10万円台で売られることはブランディング的にもあってはならないのである。
しかし、すでにコモディティー化されたLEDウォッチをそのまま再現しただけのものに“高級クォーツ”の値付けをしても、決して目の肥えた現代の時計愛好家には響かない。対してジラール・ペルゴが採ったのは、キャスケット2.0に高級な外装を与えるというアプローチだ。
オリジナルではマクロロンと呼ばれるポリカーボネート系素材、もしくはSS、SS+ゴールドプレートのケースとブレスレットを使用していたが、本作で用いるのはブラックセラミックス。このケースとブレスレットが白眉の出来なのである。
ケースの造形は基本的にオリジナルを踏襲しているが、ケースの角をゆるやかなカーブとしていたオリジナルと異なり、キャスケット2.0では新たに面を与えて、6角形のようなデザインとした。よりシャープな稜線な与えることで2.0は現代らしさを手に入れたのだ。
また多くの面はざらつきを意図的に持たせることで、マクロロンのような質感を表現しているが、キャスケットの特徴でもある庇の部分にのみポリッシュ仕上げを施した。こうすることで時刻を見ようと手首を返したときに、美しいハイライトがポリッシュ面にのみ入り込む。最も見せたい部分にのみスポットライトを当てる、“引き算”による高級感の見せ方は、さすがにロレアートを作り続けてきた同社だけあり、手慣れたものだ。
ケースと同様、セラミックスで作られたブレスレットもまた、触れば触るほどに感心してしまうくらいによく出来ている。基本的にセラミックスという素材は“硬い”ため傷が付きづらいが、“固い”訳ではないから、衝撃によって割れてしまうリスクがある。そのためにセラミックブレスレットの場合は、意図的にコマとコマのクリアランスを取るモデルが大半だ。
しかし、キャスケット2.0のブレスレットはコマとコマの間隔をかなり詰めている。では上下のコマが接触することで発生する破損対策はどうしているのかというと、コマを中空にし、中にラバーを嵌め込んだのだ。こうすることによって、ねじれ方向への可動域(しなり)を取りつつも、コマ同士がぶつかることを避けている。しなやかな動きを可能にしたリンクの遊びはまさに適切だ。
なお、ケースとブレスレットの大半をセラミックス、裏蓋とバックルをチタンで構成するキャスケット2.0は総重量が107gと非常に軽い。よく出来たブレスレットと併せて、同作は非常に軽快な装着感を得ている。
多種多様な表示機能
加工の難しいセラミックスを用いて、高級機らしい外装を与えたキャスケット2.0。とはいえ、もちろん外だけではなく、ムーブメントも進化を遂げている。分かりやすいのが表示機能の多様さだ。オリジナルの「時」「分」「秒」「曜日」「日付」に加え、本作ではさらに「年」と「GMT」が表示される。
またクロノグラフが追加された上、任意で設定した「年月日」を毎日指定の時間に点灯させる「シークレットデイト」機能も搭載された。先の日付を入力してリマインダーとして活用するのもよし。結婚記念日を入れて、平穏な夫婦生活に一役買ってもらうのもよしだ。
キャスケットが復活すると聞いたとき、まずその事実に驚き、次に税込み56万1000円という価格設定に驚いた。しかしその後、ケースとブレスレットがセラミックスであることを知り、手にとってそのクオリティーの高さを認識すると、むしろこの価格で販売できることに驚くこととなった。
確かに56万円を超える価格はLEDウォッチとしては破格だろう。しかし、それがハッタリではないことは実機を触れば明らかだ。かつてのアイコンを旧来からの愛好家に納得してもらう内容で復刻させるだけでもひと苦労だろうが、キャスケットではそれに加えて、ブランディングを守るための価格設定とそれを正当化させるための説得力を盛り込む必要があった。そんな途方もない戦いの中で、ジラール・ペルゴはキャスケット2.0というウルトラCを見事にやってのけたのである。
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