高級時計売買プラットフォーム「WatchBox」は、年初から市場のシェアを拡大してきた。また他にもこの分野で目を引く「A Collected Man」は売り上げが2倍になったと発表し、Chrono24も成長を続けているようである。販売のデジタル化に加え、コロナ禍における特定ブランドへの傾倒が、中古時計プラットフォームの人気をこれまで以上に高めているのだろうか?
Text by Serge Maillard
2022年3月22日掲載記事
拡大する高級時計の二次市場
経営コンサル会社の「ボストン コンサルティング グループ(BCG)」によると、高級時計の二次市場は現在、年間16億ユーロ近くに上ると推定されている。この数字を、2020年1月から8月までのスイス時計の累計輸出額10億スイスフラン以下(スイス時計協会FH調べ)と比べてみる。素晴らしいことにこの数字は販売価格ではなく輸出価格であり、そして今年の状況は例外的なものであった。この比較情報は目を奪うものであり、二次市場の力強い成長を示している。
何かを売ろうとするとき、時間の消耗に抵抗するさまざまなチャネルが存在する。オークション、小売店、マーケットといった物理的なものから、最近ではオンライン取り引きも増えている(ただし驚くべきことに、BCGの調査ではオンライン取り引きの割り合いはわずか35%である)。
この構成には同じように多くの選択肢がある。売れ残った時計の在庫や象徴的な時計への投機からなる儚いグレーマーケットの背後には、多くの素晴らしいヴィンテージウォッチ、専門化したリテーラーがおり、熱心なコレクター、無数のフォーラム、オンラインマーケットプレイスなどの間で取り引きが行われているのだ。
事業への影響はない
またBCGによると高級消費財に関する二次市場は毎年8%の伸びを見せており、一次市場よりも成長が早いということである。コロナ危機のインパクトは、中古時計市場においてどのようなものであったろうか?
「コロナ禍の初期に一時的に売り上げが落ち込んだものの、その後数字は回復し、現在はコロナ危機が起こる前よりも13%増加しています」と語るのは、Chrono24創業者兼共同CEOのティム・シュトラッケだ。Chrono24は世界最大級の高級時計専門オンラインマーケットプレイスで、2019年には同社に約47万5000個の時計が出品され、取り引き額は17億USドルに上る。特にオーデマ ピゲ、パテック フィリップ、ロレックス、オメガ、チューダーなどは過去5年で価格上昇が目覚ましく、コロナ危機に際し数字が鈍化した現象は見られないどころか、むしろその逆である。
高級時計専門店WatchBox(Chrono24とは異なり、仲介業者としてではなく、自社で中古時計の在庫を持つ)は、2020年上半期の売り上げが上昇し、EBITDAが25%以上増加したと発表した。コロナ危機の最中にあって、この結果はいっそう驚くべきものだ。
2017年にジャスティン・レイス、ダニー・ゴバーグ、リアム・ウィー・テイによって設立された同社は、この分野において最も活発なプラットフォームのひとつである。フィラデルフィアでスタートし、現在はスイス、香港、シンガポール、そして最近では大手小売業者「Seddiqi」との提携によりドバイに支店を設立している。
WatchBoxのCEOに就任するため、2020年1月にシンガポールからフィラデルフィアに居を移したジャスティン・レイスは、このプラットフォームが「従来の小売りにあった制約を排除して運営できるように設計されている」と強調する。その結果として、「コロナ危機の中にあっても顧客のニーズに遠隔でサポートを行うことができた」という。
ビジネスの世界に着想を得る
8000万USドル相当の在庫を持つWatchBoxは、上半期において1万6000件以上の取り引きを行った。そこには売買両方が含まれ、この間の中古時計の平均販売価格(ASP)は1万2000USドルから1万8000USドルへと上昇している。アジアにおけるASPは3万2000USドルと約2倍である。世界の取り引きのうち20%以上が1万USドルを超えており、この期間に販売された時計1点の最高額は60万USドル以上となった。
「私たちのコンセプトは2016年に生まれました」とジャスティン・レイスは語る。「金融の世界から来た私は、時計市場と90年代の債券市場の運営方法に興味深い類似性を見いだしました。時計業界に精通した者が関与した状態で、透明性と取り引きの容易さを融合させることにより、同様の進化を垂直方向に遂げることができるという明確な可能性があったのです」。
現在このプラットフォームは、世界各地の拠点を通した時計の取り引きをコンセプトにしていることで知られている。目的はテクノロジーと従来の顧客サービスを結び付けることだ。中古時計市場は歴史的に欧米が強く(BCGによると、ヨーロッパは今でも世界の高級時計の二次販売において50%を占めている)、それはジャスティン・レイスが「計り知れない可能性」を見いだすアジアにも波及している。
彼はこう続ける。「私たちのビジネスモデルは、煩雑な物理的ネットワークに直面しつつも、デジタル技術の柔軟性の上に築き上げられています。今回のコロナ危機も、私たちのビジネスには何の影響も与えていません。多くの企業が迫られているようような自己改革をする必要はないのです」。
一次市場と二次市場の結び付きは深まっている
WatchBoxは専用スタジオで独自の動画やコンテンツを制作している。これは激しい競争性のある二次市場において、単なる値引きや価格論とは対照的に、信頼性の獲得が重要視されていることを表す。
「私たちは初期段階からパーソナライズされたコミュニケーションに投資を行ってきました。顧客ロイヤリティを高めるために、品質保証を確立し、サービスにも気を配っています。今後さらなるオーダーメイドの経験ができるようになるでしょう。そこに投資する価値はありますから」とジャスティン・レイスは語る。
コロナ危機が襲来したことにより、大手ブランドと独立系ブランドには安泰が訪れ、しかし中堅ブランドにとってはより厳しい未来が待っているとレイスは予想している。特に「多くの場合で過剰生産に苦しんでおり、特にそれはグループレベルの生産計画と販売予想に起因する」と語る。F.P.ジュルヌからH.モーザーに至るまで、希少価値の上に築かれてきた独立系ブランドは、相互関連のある一次・二次市場どちらでも有利な立場にあるといえる。
特定のリテーラーとの提携
時計ブランド自体も、自社で認定中古品の販売プラットフォームを立ち上げるなど、二次市場への挑戦を進めている。ジャスティン・レイスは、これはこの市場の統合が進んでいることの表れだと考えている。しかし、すでに確立されたマルチブランドのプラットフォームに潤沢な在庫をもって競合することは困難であると強調する。
また近年の記録的な状況にも関わらず、レイスは従来のオークションハウスのビジネスモデルは、販売プロセスの即時化につながる顧客体験のデジタル化に取り組む方向性へ流されていくであろうと考えている。
「現在の戦いは情報をめぐるものです。そこには時計の展示会も含まれており、現在非常に熱い議論が交わされています」とレイスは語る。
レイスはWatchBoxとSeddiqiのパートナーシップに、未来のモデルを見いだしている。「小売り業界におけるキープレイヤーである彼らは、二次市場が一時的な"現象"ではなく、その逆であることを認識している。彼らは保証も何もないデジタルスーパーマーケットよりも、信頼できる解決策を求めているコレクターの巨大なネットワークを持っているのです」と語る。レイスは現在アジアとヨーロッパのリテーラーと話を詰めており、WatchBoxの共同創業者であるダニー・ゴバーグもアメリカのリテーラーである。
優良ブランドがその恩恵を受ける
一次市場、二次市場どちらであっても、コロナ危機は時計ブランドの二極化を促進した。いくつかの優良ブランド、特に大手独立系や著名な職人たちの弾力性は、新品と中古の垣根を超越させる状況において際立っている。ブランドへの羨望が、自然と照準を合わせる形となっているのだ。おそらくこの二極化が一番大きな変化であろう。例えその延長線上として、WatchBoxのようなプラットフォームの成功促進が説明されるとしてもである。
F.P.ジュルヌやカリ・ヴティライネンなどのレアモデルを専門に扱うオンラインプラットフォーム「A Collected Man」は、このことを証明できるだろう。創業者のサイラス・ウォルトンは、2020年上半期の総売上高が2倍になったと話した。コロナ危機は、いくつかの「危機に強い」ブランドやモデルを中心に市場の集中を加速させると同時に、Eコマースや中古部門の正当性をさらに高めているのである。
サイラス・ウォルトンは、「中古のコレクターズウォッチをオンラインで販売することに対する業界の消極的な姿勢は、まったく根拠のないものであることが証明されました。ふたつの市場は相互に供給を行っており、二次市場において信頼できる顧客が増えていくと、それは新品の市場にとってもより良い影響を与えていくでしょう」とコメントしている。
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