詩情豊かな表現で、時を描き出すヴァン クリーフ&アーペル。しかし、その下に超絶技巧が隠されていることも、時計愛好家ならば良く知るところだ。ダイアルに咲く12輪の花で時を知らせる新作「レディ アーペル ユール フローラル」。その秘密の一端を解き明かしてみよう。
自動巻き。1時間ごとにひとつずつ花が開き、時刻を教える機械式の花時計。18KRG(直径38mm)。予価3102万円。
[2022年3月掲載]
エナメルと細密彫金で表現された現代の花時計
「レディ アーペル ユール フローラル」のダイアルを飾るのは、細密彫金とエナメル装飾の技法で彩られた12輪の花。5枚の花弁を持つこの花は、1時間に1輪ずつ開き、時を知らせてくれる。ケース側面の9時位置に分表示を持つものの、やはりざっくりとしか時刻は分からない。
これはまさに、18世紀の植物学者カール・フォン・リンネが考案した「花時計」だ。リンネは1日の中で開花時間の異なる花たちで庭を埋め尽くせば、庭園そのものを時計にできると考えた。その現代的な、機械工学的な解釈が、ユール フローラルのコンセプトだ。
“時”を刻むのは、ランダムに咲く12輪の花
しかしダイアルを飾る花が開く順番が午前と午後で異なり、さらに日付が変わると、また開花順序が変化すると言えば、機構的にはかなり複雑になることが想像される。さらに言えば、花はひとつずつ開いてゆくのではなく、一度閉じてから、異なった場所の花が開く。
つまり1時に開いている花はひとつだが、2時になると単純にもう1カ所開いている場所が増えるのではなく、一度すべてが閉じて、異なった2カ所が開くのだ。ダイアルの上で表現される詩的な演出に対し、それをコントロールする機構部分が複雑さを極めるのもヴァン クリーフ&アーペルの常だろう。
開花をコントロールするのは166コンポーネント/歯車266枚
ランダムに花が開くとは言っても、そこに規則性がまったくなければ機械として成立しない。しかしユール フローラルの開花ローテーションは3サイクル制となっているため、ある日の午前中と、その翌日の午後といったタイミングで同じサイクルに復帰する。
このローテーションを掌握し、完全にコントロールしているのが全166コンポーネントに振り分けられた、266枚もの歯車だ。ユール フローラルでは一部にカムを併用するものの、ほとんどの動作を歯車の連動だけで行っている。その起点となるのが、ミニッツ表示を兼ねる外周リングだ。