シリル・ヴィニュロンのもと、アイコニックなモデルに回帰する近年のカルティエ。2022年は、なんと「パシャ ドゥ カルティエ」にグリッド付きが復活したほか、「タンク」や「サントス デュモン」にはカラフルな文字盤が加わった。また「動き」を強調したモデルには、カルティエの新しい方向性が見て取れる。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
「パシャ ドゥ カルティエ」にはグリッドが付いた!
自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYG(直径41mm、厚さ9.55mm)。100m防水。予価227万4000円(税込み)。
個人的なビッグニュースが、「パシャ ドゥ カルティエ」にグリッドが備わったことだ。新しくなったパシャを、クロノスでは褒めてきた。ムーブメントの仕上げが傑出しているわけではないし、パワーリザーブも正直、長くない。しかし、巻き上げ効率は非常に良いため、女性が使っても十分に巻き上がる。加えて、自社製の外装は、今のカルティエらしく傑出している。かつての「パシャ C」に失望した筆者としては、最初期のパシャのような質感を持つ、新しいパシャは非常に好きだ。
そのパシャに、新しく加わったのがグリッド付きだ。1943年のモデルに範をとったグリッドは、風防を保護するためのものだ。以前もグリッド付きは存在したが、外装の加工が良くなったため、グリッドの固定方法が洗練された。ベゼルの内側に、バヨネット上の切り欠きがあり、そこにグリッドを引っ掛けるのである。外す時は、グリッドを軽く押して90度回すだけ。外してしまうと、普通のパシャと見た目は全く同じだ。以前のグリッドと異なり、普通のモデルとほぼ同じ見た目を持つところに、カルティエの進化がある。
残念なのは、現時点では18Kゴールドモデルしかないこと。もっとも、SS素材では、グリッドに弾性を持たせるのが難しいのかもしれない。あるいは、カルティエは、パシャのハイエンドにのみ、グリッドを付けるのかもしれない。
搭載するのは自動巻きのCal.1847 MCである。パワーリザーブは短いし、ムーブメントの仕上げも傑出しているわけではないが、大変によく巻き上がるし、最新版は耐磁性能も改善されている。女性が普段使いしても、時計がすぐ止まるようなことはなさそうだ。今の1847 MCをパシャに合わせたのは良いと思う。
「タンク」は色で勝負
手巻き(Cal.1917 MC。19石。2万1600振動/時。18KYG(縦33.7mm×横25.5mm、厚さ6.6mm)。30m防水。予価158万4000円(税込み)。
長年、シルバーのギヨシェ風文字盤を好んできたカルティエだが、近年は文字盤に新しい表現を加えるようになった。2022年に目立ったのは、タンクのカラフルな文字盤だ。赤とシルバーの文字盤は、電解処理でエングレーブした下地の上に(カルティエ曰く、時計での採用は世界初とのこと)に、ラッカーで赤を施している。黒はラッカー、そしてシルバーはメッキ仕上げだ。ラッカーはポリッシュ仕上げで、赤とシルバーは、表面に軽くマットのラッカーを吹いている。カルティエの文字盤に対する保守的な姿勢を考えれば意外なほどに、マットのコントロールはうまい。
いずれも、ムーブメントにはCal.1917 MCを搭載する。これは、ジャガー・ルクルトの846系を改良したものだ。振動数は2万1600/時しかないが、テンワを大きくすることで、理論上の等時性は改善されている。またこれらのモデルは、今のカルティエらしく、ケースの仕上げが大変に良い。歪みの小さなケースは、タンクの造形によく合っている。個人的なお勧めはブラックと、レッドのラッカー文字盤だ。ちなみに前者には、SSケースのクォーツモデルもある。こちらはタンク ルイ カルティエではなく「タンク マスト」の扱いになる。