今年ブランド創立190周年を迎えるロンジンは、2世紀近くもスイス時計産業を牽引してきた大御所だ。その時計づくりの理念を語る代表作といえば、「ロンジン マスターコレクション」。その名称に象徴されるように、メカニズムとデザインに精通するロンジンのエッセンスを楽しむことができる価値ある逸品だ。
菅原茂:取材・文 Text by Shigeru Sugawara
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]
ムーブメント、外装、そしてデザインに高い完成度が行き渡るマスターピース
日本でも古くから親しまれてきたロンジンは、スイスを代表する時計ブランドのひとつ。機械式全盛期から精巧なムーブメントやクロノグラフ、エレガントな薄型ドレスウォッチで名を馳せ、今も世界中に多くの愛好者や収集家がいる。
2005年に誕生した「ロンジンマスターコレクション」は、そうしたロンジンの歴史的業績を現在の時計づくりに生かし、未来へとつないでいく重要な役割を担った時計。「マスター」と命名されているように、機械式ムーブメントと美的デザインの両方に熟達の技を注いで、ひとつひとつのモデルを現代のマスターピースへと仕立てている。
ベーシックな3針の自動巻きに、ひと味異なる味わいを醸すのは、ムーンフェイズとポインターデイトを6時位置に配したこのモデル。現代のライフスタイルにフィットする、エレガントなスタイリングも秀逸。自動巻き(Cal.L899.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径40mm、厚さ11.1mm)。3気圧防水。32万2300円(税込み)。
(右)ロンジン マスターコレクション L2.673.4.92.0
ふたつの小窓とポインターデイトを組み合わせたクラシカルなトリプルカレンダーおよびムーンフェイズ表示を加え、クロノグラフを一段と魅力的に演出。ブルーの彩りもスタイリッシュな印象を与える。自動巻き(Cal.L687.5)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。SS(直径40mm、厚さ14.30mm)。3気圧防水。44万円(税込み)。
代表的なモデルは、クロノグラフ、トリプルカレンダー、ムーンフェイズを併せ持つ贅沢な複雑時計である。目ざとい時計好きならダイアルレイアウトを見て、搭載ムーブメントは名機の誉れ高いETA(旧バルジュー)7751と気付くだろう。しかし、表示機能は同様でも実際にこのモデルが搭載するロンジン専用のキャリバーL687.5は、似て非なるものと言える。クロノグラフ機構を制御するカムはコラムホイールに置き換えられ、パワーリザーブを約66時間に延長するなど、大きく進化を遂げているのである。クロノグラフで実績を積んだロンジンらしい、コラムホイール制御という伝統技術と、今や次世代ムーブメントに必須とされる長時間パワーリザーブの最新技術が投入され、ベースになったETA7751を凌ぐ高性能を手に入れたわけだ。
卓越性の追求は、ムーブメントに美観をもたらすペルラージュ装飾やコート・ド・ジュネーブ仕上げ、ブルーで強調したコラムホイールなどにも見られる。高級機の評価を得るには、メカの精密な機構や高い性能と同じくらいパーツの装飾や仕上げにも細心の注意を払うことが欠かせないが、このコレクションに用いられるすべての自動巻きムーブメントに、そうした価値観が鮮明に表れている。
腕時計の印象を大きく左右するダイアルに関してもそれは一貫している。クロノグラフとカレンダー機能を融合した複雑なダイアルは、針とインデックス、サブダイアルのディテールなどが視認性と同時に調和を生むようにデザインされ、繊細な輝きを生むサンレイ模様とブルーラッカーが全体を引き立て、クラシカルなダイアルに現在のライフスタイルにマッチする現代的な美観を創出しているところが絶妙である。ここでもムーブメントと同じようにパフォーマンスとエステティックが同等に重視され、すべてはロンジンが大切にするエレガンスへと帰結するように巧みに計算されているのだ。
スウォッチ グループは、時計製造に必要なあらゆるリソースを擁し、価格以上の価値を生み出す腕時計の開発に余念がない。グループ内で中心的な役割を担ってきたロンジンはまさにそうだ。価格的にはミドルレンジだが、技術とデザインで明らかにその上を追求する。また最近は、専用ムーブメントにおけるシリコン製ヒゲゼンマイの標準仕様化も進むロンジン。マスターコレクションのさらなる進化から目が離せない。
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