航空計器がモチーフのベル&ロス「フライト・インストゥルメント」コレクション、17年にわたる進化の過程

FEATUREWatchTime
2023.10.16

ダッシュボード・クロックに着想を得た「BR 01 インストゥルメント」で腕時計のデザインに革命を巻き起こしたベル&ロスは、その成功にあぐらをかくことなく、レーダースクリーンから高度計、ジャイロコンパスに至るまで飛行機に搭載されるさまざまな航空計器に着目し、独創的な「フライト・インストゥルメント」コレクションを展開してきた。各モデルの解説を加えながら、現在までの歩みを振り返る。

ダッシュボード

ベル&ロス「フライト・インストゥルメント」コレクションの着想源となったさまざまな航空計器。
Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo
2022年4月13日掲載記事


航空機の制御パネルに搭載されたさまざまな計器を腕時計で再現する「フライト・インストゥルメント」コレクション

 ブルーノ・ベラミッシュ(Bell)とカルロス・ロシロ(Ross)のふたりのフランス人によって設立されたベル&ロス。同社の創業は1994年だが、ブランドアイデンティティの分岐点は2005年の「BR 01 インストゥルメント」の発表によって訪れた。航空機のダッシュボードに搭載されたクロックを巧みに転用したこのモデルによって、航空分野に影響を受けたブランドの定義が、大胆でダークなスクエアケースの美学として確立された。BR 01とその後継モデルがモダンアイコンとしての地位を確立するにつれ、デザイナーのベラミッシュとビジネスマンのロシロは、そこからさらに何をするかを既に考えていたことは明白である。その答えが全体を「フライト・インストゥルメント」コレクションと名付けた革新的で特徴的なシリーズとなったことも明らかだ。後継モデルたちは全てが画期的なオリジナルのBR 01をテンプレートとして用い、過去10年にわたって世に送り出されていった。それぞれが航空機の制御パネルに搭載されたさまざまな重要機器から着想を得ている。

ダッシュボード

実際のダッシュボードの計器パネル。

「多くの時計ブランドが航空機からインスピレーションを得ていますが、私たちはこのコンセプトをさらに推し進めたいと思いました。つまり手首にダッシュボードを装着するということは、飛行機をコントロールすることになり、自分が飛行機の一部になるのです。これは、確固たる立ち位置の表明になると思います。ブルーノのBR 01のデザインはとてもクリーンで長く愛されるもので、最初のアイディアの後、時計だけでなくコックピットの他の計器も含めて考慮したいという思いに至りました」。


2010-2011年/「BR 01-92 レーダー」「BR 01 レッド レーダー」

 ベル&ロスは2010年、ダッシュボード・クロック以外の時計のデザインに初めて着手し、飛行中に最も重要な計器のひとつである機内のレーダー・スクリーンに注目した。500本限定生産のオリジナルモデル「BR 01-92 レーダー」は、従来の針の代わりに、それぞれ異なる色の線が施された3枚の同心円状のディスクを用いて考案された文字盤で、時計界に大きな衝撃を与えた。サファイアクリスタルの下面には、レーダースクリーンの表示を模した十字の同心円がプリントされ、回転する円盤の線が時・分・秒を表している。最初のレーダーモデルは、スクエアなBR 01スタイルの直径46mmケースにブラックDLCコーティングを施したもので、瞬く間にカルト的なヒット商品となった。

 続いて2011年には、透明なレッドカラーのサファイアクリスタルの「レーダースクリーン」を採用した「BR 01 レッド レーダー」を投入。「レーダーを考案するにあたって、ブルーノは自由に楽しんでいました」とロシロは思い起こす。「もしレーダーがヒットしなかったとしたら、継続しなかったでしょう。幸いにも大きな成功を収めたので、その後6つの限定モデルを発表しました」。

BR 01-92 レッドレーダー

2011年に発表された「BR 01-92 レッド レーダー」。3枚の同心円状のディスクを用いて時分秒を表示する。


2012年/「BR 01 アルティメーター」「BR 01 ホライゾン」「BR 01 ターン・コーディネーター」

「BR 01-92 レーダー」「BR 01 レッド レーダー」の成功により、ベル&ロスは時計のインスピレーションの源としてコックピットのダッシュボードを対象とし続け、2012年のバーゼルワールドにおいて「BR 01 アルティメーター」「BR 01 ホライゾン」「BR 01 ターン・コーディネーター」の3モデルを発表した。

 アルティメーター(高度計)は気圧に基づいて高度を測るのに使用される。航空機において高度は地上や海、等圧などの基準点から計算される。この高度計をベースにした「BR 01 アルティメーター」は気圧を表示する3時位置をデイト表示に置き換え、2枚の独立したディスクでその数字を示す。6時位置にはインジケーターを模した模様と、高度計を示す「ALT」の表示がある。針とインデックスもダッシュボードの装置を模したもので、白い蓄光塗料によりコントラストを成している。またケースのマットブラックカーボンの仕上げも、ダッシュボード装置を彷彿とさせるものだ。

BR 01 アルティメーター

2012年に発表された、高度計を着想源とした「BR 01 アルティメーター」。

 機体の角度を確認できる人工水平儀(姿勢指示器)をデザインのベースとしたのは「BR 01 ホライゾン」だ。文字盤は2層構造になっており、視認性を高めるために上層文字盤にアワーマーカーがあしらわれている。下層文字盤は3時と9時を結ぶ水平線を境に、グレー(空)とブラック(地球)で色分けされている。計器盤を模した形状のブリッジが針の取り付け部を覆い隠しているが、12時位置には開口部があるためにブリッジ下に針が来た場合も視認性を確保している。

BR 01 ホライゾン

人工水平儀(姿勢指示器)をデザインのベースにした「BR 01 ホライゾン」。

「BR 01 ターン・コーディネーター」は、旋回中の機体のバランスを確認し、正確な旋回を行なうための計器である旋回計(ターン・コーディネーター)を着想源としたモデルだ。レーダーモデル同様にこの文字盤も2枚の独立した同心円状の回転ディスクによって構成されている。外側が時、内側が分を示しており、12時位置の垂直な白色のマーカー位置で時刻を読み取る。旋回計の旋回速度や方位変化の表示のように、時計にも文字盤の上部と、不透明な下部を飛行機の形の地平線が切り分けている。そしてレーダーモデルの精神を受け継ぎ、ターン・コーディネーターのディスクは変形と摩擦を回避し、尚且つパワーリザーブを維持するために超軽量である必要があった。

 2012年に発表されたこれらの3作はいずれも999本の限定生産で、ETAのベースキャリバー(ホライゾン、ターン・コーディネーターにはETA2892、アルティメーターには2896)を用いて巧みな時刻表示を実現している。

BR 01 ターン・コーディネーター

旋回計を模した「BR 01 ターン・コーディネーター」。


2013年/「BR 01-92 エアスピード」「BR 01-97 クライム」「BR 01-92 ヘディング・インディケーター」

 2013年にも、飛行機のコックピットの計器からインスピレーションを受けた新たな限定モデル3作が発表された。「BR 01-92 エアスピード」は風力計からヒントを得たもので、風力計とは機体と大気との関係性における速度を計測するものである。「BR 01-97 クライム」は、気圧を利用して上昇中か下降中か水平飛行中かを計測する昇降計という計器にインスパイアされている。「BR 01-92 ヘディング・インディケーター」はジャイロコンパス(コースまたはヘディング・インディケーターとも呼ばれる)をベースにしており、これは機体のコースを手動または自動操縦の間に示すものである。

「BR 01-92 エアスピード」は、風力計の外観的特徴を取り入れた斬新な時刻表示を行う。オリジナルの計器に倣って時、分、秒の目盛りが区分されており、メインダイアルに分表示、センターに時間表示が配置されている。コックピットの風力計で臨界点を示す3色、グリーン、ホワイト、イエローが文字盤の外周に配され、15分ごとを表している。針とインデックスには、白色の蓄光塗料が塗布されている。

BR 01-92 エアスピード

風力計からヒントを得た「BR 01-92 エアスピード」。

「BR 01-97 クライム」は昇降計のデザインを取り入れ、元となった計器の速度表示に代わるパワーリザーブ表示を備えている。このインジケーターはイエローで、ブラックダイアルとコントラストをなし、ホワイトの数字とインデックスを際立たせている。3時位置には日付が表示される。"UP"と"DOWN"のフォントは、この文字盤のモチーフとなった計器と同じだ。また昇降計は1本の白い針しか使わないため、時針はダークカラーで暗くし、他の針や数字には蓄光塗料を塗布するなど、より計器と近い様相を呈するように仕上げられている。

BR 01-97 クライム

昇降計のデザインを取り入れた「BR 01-97 クライム」。

 飛行方位計を模した「BR 01-92 ヘディング・インディケーター」の文字盤は、同心円状の3つの独立したディスクで構成され、時・分用の目盛りが配されている。時表示は外側のディスクにある黄色い三角形のポインター、分表示は2枚目のディスクだ。中央の秒表示ディスクには目盛りがなく、黄色い針が採用されている。ジャイロコンパスと同様に、W、E、S(西、東、南)の表示は外側のディスクに配され、N(北)の表示は時表示を行う黄色の三角形に置き換えられている。他にもオリジナルの計器に習い、黄色い飛行機のアウトラインがあしらわれている。それぞれのディスクの重さは一般的な時計の針1本の30倍もの重さがあるため、変形や摩擦に耐えながらもパワーリザーブや時計の精度に影響を及ぼさないよう超軽量である必要がある。そのためベル&ロスの設計師たちは特別な素材と新しい技術を開発する必要があった。また回転ディスクは、ミクロン単位での調整により平行が保たれている。

BR 01-92 ヘディング・インディケーター

飛行方位計を模した「BR 01-92 ヘディング・インディケーター」。

 既存作同様、2013年に発表されたこれら3作はいずれもブラックカーボンPVD加工が施された直径46mmのステンレススティールケースを採用し、100m防水となっている。「BR 01-92 エアスピード」と「BR 01-92 ヘディング・インディケーター」に搭載されている自動巻きムーブメントはETA 2892、パワーリザーブとデイト表示を備えた「BR 01-97 クライム」はETA 2897をベースにしたものだ。いずれもラバーとヘビーデューティー仕様の合成繊維ストラップが付属しており、999本の限定となっている。そのうち最初の99本は、2012年と2013年の全6モデルすべてを納めた、飛行機のコントロールパネルを模した専用のコレクターズボックスで販売された。


2019-2020年/「BR 03-92 バイ コンパス」「BR 03-92 H.U.D.」

 「フライト・インストゥルメント」6モデルが決定版コレクションとしてまとめられたものの、ベル&ロスはさらにコレクションへの追加投入を試み、2019年にコックピットのダッシュボードの再解釈を行った。ヴィンテージのラジオコンパスをモチーフにしたデザインの「BR 03-92 バイ コンパス」は、3つの同心円状のディスクで構成されている。最も内側にあるのは回転するアワーディスクで、シーフォームグリーンカラーの蓄光塗料が塗布された三角形のポインターを備えている。このポインターは2番目のゾーンに配置されたアラビア数字とインデックスを指すことで時間を表示する。外側のサークルは他のサークルより一段高く作られており、クリーム色の蓄光塗料が塗布されたインデックスとセンター針で分表示を行う。4時30分位置には同色の日付窓がある。ケースの色調はアメリカ海軍が使用している航空計器に合わせたマットブラックのセラミックス製だ。サイズはそれまで「BR 01」シリーズで展開してきた直径46mmよりも控えめな42mmとなっている。BR 01内蔵する自動巻きキャリバーBR-CAL.302はETA製ではなくセリタSW300-1をベースとし、約40時間のパワーリザーブを保持する。

BR 03-92 バイ-コンパス

電波の到来方向を探知するための計器であるラジオコンパスをモチーフとした「BR 03-92 バイ コンパス」。自動巻き(Cal.BR-CAL.302./セリタSW300-1ベース)。パワーリザーブ約40時間。セラミックスケース(直径42mm)。100m防水。世界限定999本。51万7000円(税込み)。

「BR 03-92 バイ コンパス」の後継モデルであり、ベル&ロスが「フライト・インストゥルメント」コレクションの完成を宣言したのが、BR 03をさらにアレンジし、セリタ製ムーブメントを採用した「BR 03-92 H.U.D.」である。H.U.D.とはHeads Up Displayの頭文字で、飛行機の操縦室の透明な風防ガラスにパイロットが必要とする高度や速度、方向などの情報が映し出されるものだ。この目的は前方のターゲットに向けたパイロットの視点を極力阻害せずに情報を供給することにある。1950年代から軍事分野で使われてきたこの技術は、現在は民間旅客機や自動車業界でも応用されている。マットブラックセラミックスの直径42mmケースに収められた時計は、3層構造の文字盤により、このハイテク・スクリーンを再現している。

BR 03-92 H.U.D.

ヘッドアップディスプレイをデザインコンセプトにした「BR 03-92 H.U.D.」。自動巻き(Cal.BR-CAL.302./セリタSW300-1ベース)。パワーリザーブ約40時間。セラミックスケース(直径42mm)。100m防水。世界限定999本。52万8000円(税込み)。

 グリーンに着色されたサファイアガラスは四隅にH.U.D.の視線枠を表す4つのブラケットがプリントされている。時間を示す三角形のマーカー、同心円状に配置された時・分の数字とインデックスは、スーパールミノバC3の塗布により鮮やかなグリーンに輝いている。このグリーンは、マットブラックとのコントラストにより、H.U.D.インジケーターのグラフィックディスプレイを再現したものだ。このモデルにはブラックPVDコーティングを施したピンバックル付きのブラックラバーストラップと、ヘビーデューティー仕様の合成繊維のファブリックストラップも付属している。


2021年/「BR 03-92 レッド レーダー セラミック」

 直近においてベル&ロスは「フライト・インストゥルメント」の先駆けとなった風変わりなモデル、「レーダー」に回帰した。2011年の最初の「BR 01 レッド レーダー」同様、2021年の「BR 03-92 レッド レーダー セラミック」は、機上のレーダースクリーンをビームマークがスキャンする様子を再現している。赤色のサファイアクリスタル風防の下では、2枚の超軽量な同心円状のディスクが従来の時・分針の役割を担っている。しかし初期モデルから大幅に改良され、これらのディスクにはスクリーンにプリントされた小さな2機の飛行機が描かれている。2機は実在の飛行機と同じように、それぞれ異なる速度で飛行しており、大きい方は12時間ごとに、小さい方は60分ごとに文字盤を一周する。サファイアクリスタルの裏側にはアワースケールがプリントされ、赤くスリムなセンターアナログ針が同心円のディスクを運針して秒を表示し、レーダースクリーンのリアルな様相を完成させている。

 オリジナルのレーダーモデルと「BR 03-92 レッド レーダー セラミック」のその他の相違点はケースの素材とサイズで、前者は直径46mmのステンレススティールだったのに対し、本モデルは軽量で傷に強いマットブラックセラミックスを採用した直径42mmケースだ。搭載するのはセリタのムーブメントをベースとした自動巻きキャリバーBR-CAL.302である。

BR 03-92 レッドレーダー セラミック

「BR 03-92 レッド レーダー セラミック」。自動巻き(Cal.BR.302)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。セラミックスケース(直径42mm)。100m防水。世界限定999本。49万5000円(税込み)。

「BR 03-92 レッド レーダー セラミック」はよりモダンで、(やはり独特ではあるが)より見やすくなった時刻表示により、「フライト・インストゥルメント」の他のモデルよりも新しく尚且つアップグレードされたものである感覚を覚えるのではないだろうか? そこに言及するのはまだ早いかもしれないが、ベル&ロスの創業者と彼らの創造的な実験への情熱に対する評価は歴史が示している。ロシロは「時計業界の素晴らしさは、技術やテクノロジーが進化するところにある」と語った。



Contact info: ベル&ロス 銀座ブティック Tel.03-6264-3989


昨年完売したベル&ロス 日本限定のレッドダイアルに続き、2作目は「BR 05 レッド スティール」

https://www.webchronos.net/news/72420/
旅立ちの時は目前だ! ベル&ロスの新作「BR 05 GMT」

https://www.webchronos.net/news/69776/
航空機のレーダースクリーンに着想を得たベル&ロスの「 BR 03-92 Red Radar Ceramic 」

https://www.webchronos.net/news/66566/