ルイ・ヴィトン初のウォッチコレクション「タンブール」誕生20周年を祝うふたつのハイエンドピース

2022.04.24

タンブールの創造から幕を開けたルイ・ヴィトンのウォッチメイキングが20周年を迎えた。それを記念したスキーリゾートでの展示会で、興味深い2本のハイエンドピースが発表された。

中村方美:文 Text by Masami Nakamura Fueg
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]


時計製作20年の節目を飾る新機軸のコンプリケーション

タンブール スピン・タイム エアー クァンタム

タンブール スピン・タイム エアー クァンタム
石英ガラスのキューブ内にLED照明を反射させ、オンデマンドでのライトアップを可能にしたモデル。1回の点灯時間は約3秒。自動巻き(Cal.LV68)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約35時間。Ti+ブラックDLC(直径42.5mm、厚さ12.3mm)。50m防水。参考価格1075万円(税込み)。

 2002年に発表された「タンブール」を起点とするルイ・ヴィトンの時計製作が20周年を迎え、ハイエンドピースを発表するイベントが、フランス有数のスキーリゾート地であるメジェーヴで、そしてジュネーブで行われた。欧州では新型コロナへの規制が大幅に緩和され、主にヨーロッパ各国から約30名のジャーナリストが参加した。

 現在ルイ・ヴィトンは、主要な時計見本市のすべてに参加していない。ストアのネットワークは確立されているし、特にメゾンの世界観が感じられる雰囲気に浸りながら、ゆっくりと作品を紹介したいという考えからだ。ラグジュアリーな空間を、メゾンを象徴するトランクやアイテムでパーソナライズし、人生を楽しむことを忘れない面もゲストと共有する。確かに今回のイベントを通しても、メゾンを包括的に満喫できるおもてなしをするという気持ちが伝わってきた。

 今回のイベントでは、高級感溢れるシャレー(山小屋)に、これまで発表されたハイエンドピースが一挙に90点近く展示された。これらはライトアップされたスタンドの上にセットされ、ガラス越しではなく、詳細に見ることができた。そしてハイライト。今回新たに発表された「タンブール スピン・タイム エアー クァンタム」のための暗い空間に、ルイ・ヴィトンの時計全般を担当するマーケティング・マネージャーが案内してくれた。

 ブランド名の12文字が配された石英ガラスのキューブは空洞で、ツヤ消しの加工が施されている。それらは外周に位置するLEDにより照らされ、自然の中の昆虫や植物から発光されるような、ぼんやりとしたイエローグリーンの光を放つ。黒とコントラストを生みだす中央の分針にも同色のスーパールミノバが塗布され、暗い場所でもリュウズを押すことで幻想的に時刻を知ることができる。

 この電子回路は、メタリック加工されたサファイアクリスタルケースバックにより巧妙に隠されている。ケースやバックルはDLCコーティングが施されたチタン製。近未来的なスタイルを持っていても、中央部分のDLCコーティングの下に施されたコート・ド・ジュネーブ、底部に施されたペルラージュ仕上げにより、時計製造の伝統的な面も添えている。搭載されたふたつの電池は、各エリアのテクニカルセンターで交換できるのはユーザーフレンドリー。

 採用されたスピン・タイム機構は、12の各オブジェに備わるマルタ十字を、フックのついた12時間に1/4回転するディスクが回転させるとともに位置を固定する。多くのエネルギーを消費しそうだが、1時間をかけてエネルギーをバネに蓄積し、それを正時に開放して瞬時に回転をさせるため、実際にはわずかなエネルギーしか消費しない。

タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー

タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー
長年にわたって熟成されてきたスピン・タイムの瞬転機構を応用したジャンピングアワー&ミニッツ。8時と4時位置のカードで時を表示。ヴィヴィエンヌの胸元から伸びる針で分を表示する。自動巻き(Cal.LV180)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYG(直径38.0mm、厚さ12.21mm)。50m防水。参考価格1240万円(税込み)。

 このスピン・タイムの機構から着想を得たもうひとつの新作が、同じくこの場で発表された「タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー」だ。2017年に生まれたメゾンのマスコットであるヴィヴィエンヌが、昨年に続いて複雑時計に採用されたのである。マルタ十字の特徴的な12の歯(フック)を備えたひとつの車を持ち、バネを使わず輪列のみでディスクの回転を制御し、ルビーのカムで瞬時にジャンプをさせる。

 通常のレバーやバネを使ったジャンピングアワーだと、これらの部品の強弱でジャンプの不足や超過という問題が起きやすい。しかし、この機構は歯車の噛み合いのみで回転させ、このような問題を避けている。数字とテーマの柄の時間表示と分針を備え、可愛らしいヴィヴィエンヌと戯れることができる。自社製のダイアル加工の進化を結集させたかのように、天然石やマザー・オブ・パールをベースに使い、ハンドペイント、転写、セッティングを駆使して、カジノ、占い、サーカスという3つのテーマを遊び心たっぷりに表現している。

 ルイ・ヴィトンの時計すべてを担当する同マネージャーに「他のブランドで頻繁に話題に上がるデザインコードや、継続的に採用される要素が感じられない」と勇気をもって告げてみた。しかし返ってきた彼の返答には驚かされた。実際、同じ質問をデザイナーにも投げてみたのだが、答えはまったく同じだった。「デザインコードなるものには、意図的にまったくこだわっていない」と言う。時計はブランド特有の自由なクリエイティビティを発揮する最高の舞台となるのだ。

 実際ルイ・ヴィトンは、他の時計専業ブランドのような長い歴史を持っておらず、本格的に時計製作を始めてからまだ20年しか経っていない。だからこそ、伝統や慣習にこだわらず、自由な時計作りをすることができる。それこそが、ルイ・ヴィトンが作るウォッチの大きな魅力になっていると思う。

 容易に時刻が読み取れる今回のディスク式ジャンピングアワーのシステムは、信頼性が高く、精度高くジャンプし、エネルギー消費の少ない複雑機構なので、将来的に多様なコンプリケーションにつながっていくとのこと。これらふたつの新作は、独創的で少しクレイジーな面すらも感じ取ることができる、ルイ・ヴィトン流の複雑時計が目指す方向性が感じられた。このような作品はこれから数多く発表されるとのことなので、期待は高まってゆくばかりだ。



Contact info: ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854



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