展示ブースの「隠し部屋」でロレックスの秘密を発見!【オタク向けスイス取材ネタ】

FEATUREその他
2022.04.13

誰も知らない、しかしみんな知りたいロレックスの時計作り。同社は秘密主義というわけではないが、情報が誤解されて伝わるのを好まない。結果として、同社の開示する情報は、誤解を招かないものに限られてきた。しかし、2022年のウォッチズ&ワンダーズ参加に伴い、同社は少し姿勢を改めたのかもしれない。その一端が、ロレックスのブース脇に設けられた、秘密の小部屋にあった。

ロレックス ブース

広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)


小部屋の展示物が示す、ロレックスのディープなディープな時計作り

ロレックス パーツ

 2022年のウォッチズ&ワンダーズに参加したロレックス。ブースの作りは、バーゼルワールドに合ったものと全く同じだ。しかし、唯一の違いは、ロレックスとチューダーブースの間に、秘密の小部屋が設けられたことである。展示されたのは、バラバラになった「オイスター パーペチュアル」と、時計作りのプロセスを示すいくつかの展示物。普通の人は見過ごしそうだが、これは、オタクにとってはお宝の山だった。


ユニークなリュウズの成形方法

ロレックス リュウズ

 ロレックスは、今も昔も外装を鍛造で作っている。鍛造で外装を整形し、その後磨いてケースに仕立てていく。リュウズも例外ではなく、頭に施されたロレックスの刻印も、鍛造で施されたものだ。今回は、リュウズを整形するための金型が展示されていた。一見普通だが、これはヤバイ。

 詳細は不明だが、切削した金属の棒を、この金型に押し付けてロレックスのマークをリュウズの頭に施す。金型で刻印を施すのは他社でもやっているが、ロレックスで見るべきは金型の重厚さだ。土台をしっかり作ってある上、そもそもの加工精度が高い。こういう金型を使うと、当然仕上がりは良くなる。わざわざリュウズをプレスするために、これだけの金型を作るのだから恐れ入る。この水準でケースを作れば、できが良いのは当然だろう。


GMTマスター Ⅱのセラミックベゼルもやはり変わっている

ロレックス ベゼル

 最近ロレックスは、ベゼルの表示部分にセラミックスを使うようになった。「秘密の小部屋」にも、当然ベゼルのサンプルが並べられていた。面白いのは、セラミックスの原料であるピグメントだ。そもそもの素材自体に、薄いグリーンが付いているのが分かる(左)。素材は二酸化ジルコニウム、または酸化アルミニウム。これを1ミクロン以下に砕いた上で、つなぎであるバインダーと混ぜ、金型で鋳造する。中写真は、セラミックの粉とバインダーと混ぜて、ベゼルの形にした状態。説明は全くないが、おそらくはバインダーの少ない「混練」だろう。バインダーを少なくすることで、経年による色の変化が起こりにくい。

 中心にあるのは軸ではなく、セラミックスを押し出すチューブの跡。ロレックスは高圧鋳造を使うことで、硬いセラミックスが均一に広がるようにしている。そして右は、焼結後の写真。1600度の高温で焼くため、原型に比べて25〜30%収縮する。なお、ブラックと赤のカラーは、後から彩色したものではなく、セラミックスに化合物水溶液を浸透させて施したもの。その後、数字の部分にイエローまたはピンクゴールド、プラチナの薄い層を、PVDで施す。