2022年のヴァシュロン・コンスタンタンで推したいのは女性用モデル!

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2022.04.15

2022年のウォッチズ&ワンダーズで注目を集めたモデルのひとつが、ヴァシュロン・コンスタンタンの「ヒストリーク 222」である。しかし、個人的に推したいのは女性用のパトリモニーだ。一見目立たぬ本作だが、詰められたディテールのおかげで、明らかに時計としての魅力が増した。外装に力を入れる、近年のヴァシュロンらしい良作だ。

パトリモニー・オートマティック

広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)


仕上げの良くなった老舗、その集大成

 筆者が見た限りで言うと、ここ5年ほど、ヴァシュロン・コンスタンタンは「仕上げ」に力を入れるようになった。もともと仕上げは優れていたが、さらに詰めるようになったのである。スケルトンモデルの面取りには角が多用され、文字盤の発色も明らかに良くなった。新しい女性用の「パトリモニー・オートマティック」で見るべきは、隅々まで行き渡った老舗の配慮だ。

パトリモニー・オートマティック

ヴァシュロン・コンスタンタン「パトリモニー・オートマティック」
“The Anatomy of Beauty”を謳い上げた2022年のヴァシュロン・コンスタンタン。象徴するのは女性用の「パトリモニー・オートマティック」である。既存のケースを転用したと思いきや、サイズや造形も全く別物。ディテールは驚くべき水準にある。自動巻き(Cal.2450 Q6/3)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径36.5mm、厚さ8.45mm)。他にも18KWGあり。30m防水。価格未定。9月発売予定。


境目のないグラデーション文字盤

 他社にならって、近年のヴァシュロン・コンスタンタンも、いわゆるグラデーション文字盤を採用するようになった。ちなみに基本的な製法は各社とも同じである。まずは文字盤にメッキやペイントで色を載せ、その外周にラッカーを吹いて濃淡を強調する。新しいパトリモニーもやはりグラデーション文字盤を採用するが、他社のものと明らかに違って見える。仔細に見ると、なんと、外周に吹き付けたラッカーの境目がないのだ。当たり前に思えるかもしれないが、スイスの現行品では極めて珍しいものだ。

パトリモニー・オートマティック 文字盤

ミニッツインデックスに48個のダイヤモンドを埋め込んだ文字盤は、ブラッシュピンクの外周にグレーを吹き付けたもの。驚くべきことに、このグラデーション文字盤は、外周との境目が全くない。またロゴや数字の色をブラウンに、そしてデイトリングの地をピンクに改めることで、全体に統一感を与えている。薄いリュウズで30m防水は立派だ。

 先述した通り、グラデーション文字盤は、まずベースに薄い色を吹き付け、その後、濃い色を外周だけに吹く。そのためどれだけ上手い人がやっても、外周にはラッカーの吹き跡が残ってしまう。対して新しいパトリモニーには、まったく吹き跡がないのである。副社長のクリスチャン・セルモニにどうやってこれを作っているのかと尋ねたところ、よくぞ聞いてくれた、と答えた。

 ヴァシュロン・コンスタンタン曰く、パトリモニーのグラデーション文字盤は1940年代の「グラデーションマシン」なるもので色を吹き付けているそうだ。スプレーガンで色を載せ、乾燥させた後に外周に色を載せる。製法自体は他社に同じだが、どうもこの機械が、吹き跡のないグラデーション文字盤の秘訣らしい。なるほど、かつてのグラデーション文字盤に似ているはずだ。あくまで筆者の個人的な予想だが、今後、グラデーション文字盤は、吹き跡のないものに置き換わっていくだろう。ちなみに今年のロレックスとパテック フィリップも、文字盤にこの仕上げを採用した。


インデックスに届いた分・秒針

 それ以外のディテールも凝っている。外周部のミニッツインデックスは、完全なカボションか、ダイヤモンド埋め込み(!)。どうやって実現したのは不明だが、とても魅力的なディテールだ。ちなみにダイヤモンド埋め込みのミニッツインデックスは、すでに「パトリモニー・オートマティック」の女性用(直径36.5mmだが、本作とはケースデザインやディテールが異なる)が採用したものだ。おそらく仕上げそのものは同じだろうが、文字盤外周の色を落とすことで、ダイヤモンドが一層際立っている。

 針も良くなった。ドーム用の文字盤に合わせて、分針と秒針の先端は大きく曲げられた。またこのふたつの針はインデックスに完全に届いている。これらも、直径36.5mmの「パトリモニー・オートマティック」から転用したものだろうが、より丸みを帯びた新しいケースには似合う。

リーフ針 時計

直径36.5mmの「パトリモニー・オートマティック」で採用された立体的なリーフ針。個人的には大変好みのディテールである。

 他にもふたつ、ディテールへの配慮を述べたい。ヴァシュロン・コンスタンタンはCal.2450を搭載した女性用のパトリモニーに、すでに2種類、3サイズのケースを用意している。それぞれ36mm、36.5mm、そして40mm。本作のケースは36mmの転用と思いきや、違うとのこと。新しいケースは、36mmサイズのそれに似ているが、サイズも厚みも別物だ。同社はいちからケースを起こしたのである。

 また、カラーリングも秀逸だ。ブラッシュピンク文字盤のモデルは、ロゴなどをブラウンにすることで、時計全体をソフトに見せている。加えて、日付を表示するデイトリングの地も、白ではなくピンクに改められたほか、日付窓の周囲には、ごく細い枠がプリントされた。別部品をはめ込むのではなく、細いプリントのみで日付表示を強調する手腕は見事である。枠が太いとあざとく見えるが、限りなく細くすることで、プリントされた枠にありがちなわざとらしさがない。


結論:このディテールは、おそらく他社への脅威になるだろう

 女性用の「目立たぬ」モデルに渾身のディテールを詰め込んだヴァシュロン・コンスタンタン。仮にこの方向性でモデルを熟成させたら、ジュネーブの老舗は驚くべき競争力を備えるに違いない。今後のヴァシュロン・コンスタンタンを占う、新しい女性用のパトリモニー。筆者としては、このディテールを備えた男性用モデルがあれば、言うことなしなのだが。


2022年 ヴァシュロン・コンスタンタンの新作まとめ

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