クリスティーネ・フッターはドイツ・グラスヒュッテにある独立系時計ブランド、モリッツ・グロスマンのCEOである。
モリッツ・グロスマン(1826年3月27日~1885年1月23日、卓越した時計師でありドイツ時計学校の設立者でもあった)のブランドの権利を獲得する以前は、ヴェンペ、モーリス・ラクロア、グラスヒュッテ・オリジナル、A.ランゲ&ゾーネで経験を積み、時計師と起業家としての経験を積んできた。
そんなフッターにインタビューを行い、ドイツの時計作り、彼女自身のキャリア、そしてモリッツ・グロスマンというブランドが他と一線を画す点などについて考えを聞いた。
Text by Roger Ruegger
2022年4月27日掲載記事
友人たちが時計作りの世界へ進むよう勧めてくれた
WatchTime:業界でも数少ない女性CEOでいらっしゃいますが、時計業界で最初にキャリアをスタートさせたきっかけは何ですか?
クリスティーネ・フッター:機械式ムーブメントは多くの小さなパーツと緻密な仕事によって構成され、同時に非常に精緻です。これは私にとって芸術作品であり、非常に魅力的なものでした。それに加え、友人たちが私に時計作りの世界へ進むように勧めてくれたのです。
WatchTime:2008年にモリッツ・グロスマンを創業されましたが、なぜブランド名にご自身の名前を使わなかったのでしょうか?
クリスティーネ・フッター:モリッツ・グロスマンの存在はグラスヒュッテだけではなく、世界の時計業界にとっても歴史的重要性を持っています。私たちはシンプルでありながら機械的に完璧な時計を象徴したモリッツ・グロスマンの信念を貫いています。これを核に、私たちは新しいデザインアプローチと技術革新、そして最高水準の仕上げによって、一歩ずつブランドの成長を築き上げてきました。
WatchTime:そのような中で、モリッツ・グロスマンのレガシーに対する責任を負う立場となられたわけですが、この数年で、どれだけの時計、書類、本などを集めることができたのでしょうか?
クリスティーネ・フッター:古い懐中時計、歴史的な本を集め、モリッツ・グロスマンに関する知識全体を蓄積してきました。工房を訪れる方は、ショールームやライブラリーでそれらをご覧になることができます。
「メイド・イン・グラスヒュッテ」の強みは堅牢性と安定性のあるムーブメント
WatchTime:あなたが考える、モリッツ・グロスマンの時計製造への最大の貢献・影響は何ですか?
クリスティーネ・フッター:モリッツ・グロスマンは19世紀のグラスヒュッテにおける時計産業において、最も著名な時計師のうちのひとりでした。この独創的な時計師は、グラスヒュッテで多くの懐中時計、多様なクロノメーター、そして精密な振り子時計を作り出しました。また1878年にはグラスヒュッテにドイツ時計学校を設立しています。グロスマンは非常にシンプルな方法で複雑な時計作りの知識を継承し、それを世界に広めていったのです。
WatchTime:「メイド・イン・グラスヒュッテ」から「スイスメイド」(スイスの高級時計産業を意味する)が学ぶべきことは何でしょうか?
クリスティーネ・フッター:ドイツ時計は堅牢性と安定性のあるムーブメントで知られています。機能性もまた開発における中心に位置しています。東西ドイツ統一後、グラスヒュッテの名前は復活を遂げ、現在では時計作りにおける最高品質の象徴として世界にその地位を築いています。例えば安定性、技術革新、クラシックなデザインで知られています。
CEOと時計師の両立は難しくない
WatchTime:創業からこれまでを振り返り、ゼロから新しい工房を立ち上げる中での最大の挑戦は何でしたか?
クリスティーネ・フッター:1885年にモリッツ・グロスマンが亡くなった後、その名前は人々の心の中からほとんど完全に消えてしまい、21世紀初頭においては数少ない時計愛好家のみがその名を知っている状況でした。そのため最も大きなチャレンジは、モリッツ・グロスマンの名前を世界に広め、その歴史的な重要性を知ってもらうことでした。私は素晴らしいチームと共に、何もないところから生産体制を確立しました。また付加価値は85%以上が自社製である部分に起因することを誇りに思っています。そこには針の生産も含まれています。
WatchTime:CEOと時計師の両方を兼任するのは難しいですか?
クリスティーネ・フッター:両立させることは難しくありません。私は熟練の時計師として、製造工程や生産に対する深い理解を持っています。マーケティングやセールスにおいては、商品に対する感動や情熱を伝えることが非常に重要です。時計師としては、デザインや素材、ムーブメントに対して良い感覚を持っているつもりです。時計作りの芸術性を真に実感し、そして理解するには、そこが大きな強みだと思っています。
WatchTime:現在、モリッツ・グロスマンの年産はわずか数百本です。現在の主要な市場と最も人気のあるモデルについて教えてください。
クリスティーネ・フッター:私たちの主要市場はアジア、日本、中東、そして北米です。意外なことに、ヨーロッパは少ないのです。モデルとしては、例えばモリッツ・グロスマン初の自動巻きモデル、ハマティックの人気が高いですね。センター秒針を備えた最初のモデル、セントラルセコンドも挙げられます。またレディースモデルへの需要も増えており、うれしく思います。
お気に入りのコンプリケーションは「ハマティック」
WatchTime:モリッツ・グロスマンでお気に入りのモデルは何ですか?
クリスティーネ・フッター:どのモデルというものはありません。特別な構造、仕上げ、デザインとすべての時計において好きです。私は、私のチームと、私たちの時計のひとつひとつに注ぎ込まれる高い品質を誇りに思っています。個人的には18Kローズゴールドケースの「バックページ」を愛用しています。この時計の特徴は、鏡に映ったようなムーブメントを搭載していることです。通常、ムーブメントは文字盤に隠れていて、裏面のサファイアクリスタルを通してしか見ることができません。バックページでは、ムーブメントの裏面を表にし、鏡に映ったようにしてあります。こうすることで、表から普段は文字盤に隠れている美しく完成度の高いムーブメントを堪能することができるのです。バックページは、私のお気に入りの時計のひとつです。ほとんど毎日着けています。
WatchTime:お気に入りのコンプリケーションは何ですか?
クリスティーネ・フッター:私たちは素晴らしいコンプリケーションを多く展開しています。ひとつを例に挙げるならばハマティックでしょうか。モリッツ・グロスマン初の自動巻きモデルです。振り子式の錘を備えた自動巻きのハンマーシステムが複雑な機械構造の一端を見せ、小さなムーブメントから驚くような巻き上げのパワーを作り出しています。
「ベヌー・トゥールビヨン」のフライングトゥールビヨン機構では、V字型のブリッジで支えられたトゥールビヨンケージが3分間で1回転します。秒針停止機構はV字型の支柱に妨げられることなくテンワを押さえる必要がありました。私たちは、人毛でできた弾力性のあるブラシを使うのが、最も負担をかけずに、しかし確実にテンプを止められる方法であることに気付きました。このアイデアはチームからの提案で、私自身の美容院を訪ねてさらに開発を進め、実現にのぞみました。私の小さな毛束を使って試したところ、完璧に作動するのを確認し、新しくユニークなアイデアが確立されました。例えばお客様ご自身の髪を使うこともできます。これは私たちが独立系ブランドであるがゆえにできることです。
次のステップは世界中への販路拡大
WatchTime:モリッツ・グロスマン最初の時計は何でしたか?
クリスティーネ・フッター:私たちが開発したモリッツ・グロスマン最初の時計はベヌーです。開発から生産工程に乗せるまでに約2年をかけました。ファーストモデルでは18Kローズゴールドモデル100本、18Kホワイトゴールドモデル50本、プラチナモデル25本を用意しました。ポジティブな反応と高い需要を得ることができ、わずかな期間で完売することができました。
WatchTime:現代で時計師になるべき理由とは何だと思いますか?
クリスティーネ・フッター:時計製造は、古くからの伝統を受け継ぐ、非常に熟練した職業です。豊かな感覚と同時に、機械に対するしっかりとした理解も必要です。これらのことが、この職業を楽しく挑戦に満ちたものにしています。新しいものを開発し、真の芸術作品を生み出すチャンスがあるのです。
WatchTime:モリッツ・グロスマンとクリスティーネ・フッターにとって、次のステップは何ですか?
クリスティーネ・フッター:私たちは世界中に販路拡大を図っているところです。新型コロナウィルス感染拡大が収まりきらぬ中、お客様個人とのコンタクトを維持し、強化するという課題に直面しています。これを補完するために私たちはお客様との対話、ターゲットを絞ったデジタルコミュニケーション、高解像度の画像や動画の作成に取り組んでいます。また来年には、まだ市場に出ていない新しいムーブメントの発表も予定しています。
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