日本特有の季節の情景を文字盤上で表現するモデルを数多く手掛けるグランドセイコー。今回はその中で“春分”に焦点を当てた「エレガンスコレクション SBGJ251」をインプレッションし、その優れた装着感やムーブメントの仕上げなどを改めて見ていく。
Text & Photographs by Shinichi Sato
2022年5月9掲載記事
人と季節と時計の素敵な三角関係
自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径39.5mm、厚さ14.1mm)。日常生活防水。81万4000円(税込み)。
今回インプレッションするグランドセイコー「エレガンスコレクション SBGJ251」は、2021年より展開が始まった二十四節気モデルの中で「春分」をテーマにしたモデルだ。その外観は「セイコースタイル」の王道からは異なっているように見えるのに加え、コレクションによる区分けとは別に、二十四節気モデルという異なったシリーズが与えられており、その立ち位置には分かりにくさがある。
そこでインプレッションを通じてこれらのポイントを検討してみると、グランドセイコーの系譜を引き継いだデザインを備え、ブランドフィロソフィーと深く結びついたコンセプトであることが分かった。
では、ユーザーが今作を積極的に選択する理由とは何だろうか? 筆者は今作をはじめとした二十四節気モデルには人と季節と時計を結び付けてくれる魅力があると気が付いた。
デザインに着目したSBGJ251の立ち位置
現在のグランドセイコーは、1967年発表の「44GS」が確立したデザイン文法に基づき、“燦然と輝く時計”のあるべき姿として「セイコースタイル」を定義している。これは抽象的なイメージではなく、具体的な9項目として言語化されている。
・他のインデックスの2倍の幅を持つ12時インデックス
・多面カットのインデックス
・鏡面研磨されたガラス縁上面
・鏡面研磨されたケース平面
・半ば胴に埋めたリュウズ
・フラットダイアル
・多面カットの太い時分針
・接線サイドライン
・逆斜面形状のベゼル側面とケース側面
このスタイルを突き詰めたのが白樺モデルの愛称で呼ばれる「エボリューション9 SLGH005」である。一方、この項目の網羅度合いには、モデルによってある程度の濃淡があり、今回の「エレガンスコレクション SBGJ251」はその影響が比較的薄いモデルである。
今作のデザインは、44GSよりもさらに年代をさかのぼり、60年発表の初代グランドセイコーのテイストを強く感じる。当然のことながら44GSは初代グランドセイコーから進化したモデルであるので、そこには共通点が多く存在するが、ラウンドケースとラグの境界が明確なシェイプや、ケースに埋まっていないリュウズなどは44GSに見られず、初代グランドセイコーとSBGJ251の注目すべき共通点だ。
グランドセイコーにおける「二十四節気モデル」の意味
今作は、2021年より展開が始まった「二十四節気モデル」のひとつである。二十四節気とは「冬至」や「小暑」「寒露」などで示されるもので、季節の移り変わりを基準とした指標であり、現在では天気予報にて聞くこともあるものだ。グランドセイコーがこのようなカタログのページ数をいたずらに増やすようなシリーズを何故作ったのか? という問いには確固とした回答がある。
現在のグランドセイコーは、自然の季節の移ろいからインスピレーションを受ける感性と、時の本質に迫ろうとする匠の姿という日本特有のふたつの精神性を表す「THE NATURE OF TIME」をブランドフィロソフィーとして掲げている。このフィロソフィーの“自然の季節の移ろい”は、それを基準とする二十四節気と非常に親和性が高いのだ。そのため、今作を含めた二十四節気モデルはブランドフィロソフィー、ひいては現在のグランドセイコーを色濃く反映したラインナップであると言える。
今作はこの二十四節気モデルの中で、昼と夜の長さがほぼ同じになる「春分」をテーマにしたものである。2022年の春分の日は3月21日であり、春分の時期の京都、あるいは東京近郊では桜の開花の時期と重なり、今回のインプレッションはまさにこの時期に行っている。
今作は春分の頃に芽吹いた青葉をダイアルに、その間からのぞく山桜をGMT針に落とし込んでデザインされている。このダイアル表現には昨今のグランドセイコーのチャレンジが詰まっている。ランダムな模様が施された下地にメッキをかけてからラッカーを施しており、平滑でしっかりと濃いグリーンを発色させながら下地を透かすバランス感が絶妙である。この塗装は、屋内でも印象が良いが、日光に当たると抜群に表情が良くなるのが特徴で、下地に反射する光の透過具合の変化が奥行きとなり水墨画のようなニュアンスを生んでいる。