カルティエはシリル・ヴィニュロン指揮の下、アイコニックなモデルへの回帰を強く打ち出すだけでなく、若年層への浸透にも成功した。「購入層の65%がミレニアル世代」というブランドは他にないだろう。
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]
カルティエはプロダクトを変えることなくメゾンを若返らせました
1961年、フランス生まれ。カルティエ インターナショナル プレジデント兼CEO。1988年から2013年までカルティエ ジャパン マネージングディレクター、リシュモン ジャパン社長、カルティエ ヨーロッパ マネージングディレクターを歴任したのち、14年からは、LVMHジャパン社長を務めた。16年より現職。日本文化の愛好家である彼は、2009年に“De geishas en mangas : Chroniques du Japon d'aujourd'hui”を著した。
「私がCEOになった6年前、カルティエはたくさんの新製品を出していました。しかし、消費者たちは新製品というだけではなく、特徴のあるものを求めていることを知ったのです。ジュエリーにも同じことが言えます。ですから、カルティエの象徴的なクリエイションに回帰することが重要だと考えたのです。アイコニックなモデルに回帰し、カルティエ プリヴェを通して、伝説的なフォルムを持ったピースを再解釈し、メゾンの伝統をさらに豊かなものにしました。そして、ミステリアスムーブメントやスケルトンウォッチといった象徴的なモデルをさらに発展させたのです。それにより、市場のカルティエに対する興味が戻ってきました。コレクターも同様です」
しかし同時に今のカルティエは若い世代にも支持されるブランドになった。製品を変えずにどうやって若返りを図ったのか?
「25年前にカルティエで働いていた時、日本におけるカルティエのお客様は若かったという印象があります。そんな彼女たちが、〝ラブ〞や〝タンク フランセーズ〞〝パシャ C〞などを買っていました。彼女たちが年齢を重ねる中、私たちは改めて若いお客様に向けたプロダクトを作ることはしなかったのです。新コレクションを作るのではなく、若い層へどのようにコミュニケーションを取り、そして理解してもらうかを注意深く考えたのです」
カルティエは予想外の手法をとった。「2016年に〝パンテール ドゥ カルティエ〞をリリースした際、過去の〝パンテール〞ウォッチの修復サービスを無料で提供しました。25年前にパリ、ロンドン、東京などの大都市で〝パンテール〞を買ってくださったお客様のお子様も〝パンテール〞を着けたがる。でも修理やメンテナンスに費用をかけることはためらってしまう。そこでこの修復サービスを提供することで、お嬢様は受け継がれた〝パンテール〞を着けられるようになり、お母様は新たにダイヤモンド入りの〝パンテール〞を手にできるようになりました。カルティエは25歳の女性にとってのブランドになると同時に、45〜50歳の女性へのブランドにもなったのです」。
また価格も重要な要素だった。「今の時代は生活すること自体に非常にコストがかかりますから、新製品には競争的かつ正しい価格を与えるよう配慮しました」。
わずか数年で驚くほどイメージを変えたカルティエ。ヴィニュロンは語る。「カルティエというのは皆さんが思うよりも若いメゾンです。そして、私たちはプロダクトを変えることなくメゾンを若返らせたのです」。
アイコニックなデザインに回帰する現在のカルティエ。それを象徴する新作が、グリッド付きの「パシャ ドゥ カルティエ」だ。良質な自社製のケースに、取り外しの容易なグリッド、そして「クイックスイッチ」システムが備わる。自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYG(直径41mm、厚さ9.55mm)。100m防水。予価228万3600円(税込み)。
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