2013年にMB&Fは、オルゴールの制作工房リュージュと初めて共同制作し、「ミュージックマシーン 1」を発表した。
MB&Fが腕時計の枠を超えて外部のクリエーターと協調した新しいチャプターの幕開けは、時計の世界に小さな革命を巻き起こした。それから約10年が経った現在、"マキシミリアン・ブッサーとそのフレンズ"は、このオルゴールを更新し、「ミュージックマシーン 1 リローデッド」として新たに世へ送り出した。
前作同様、MB&Fと155年の歴史を持つ世界的な高級オルゴールメーカー、リュージュとのコラボレーションの結実である。
2022年5月18日掲載記事
マキシミリアン・ブッサー選曲の合計6曲を奏でる特別なオルゴール
前作「ミュージックマシーン 1」は中国の若手デザイナー、シン・ワンが手掛けたデザインを、今回の「ミュージックマシーン 1 リローデッド」ではドイツ人デザイナー、マキシミリアン・マルテンスが手掛けた。流線形のオープンな外観が特徴だ。宇宙船のような形状のボディ全体は(前作のように木製ではなく)酸化アルミニウム製となり、製造工程はより複雑なものとなっている。
スタートレックとスター・ウォーズの曲が流れる
ミュージックマシーン 1 リローデッドはSF映画に出てくる宇宙船のような見た目だけではなく、その分野のメロディーを控えめに奏でる。ふたつのオルゴール機構を搭載し、左のシリンダーからはジェリー・ゴールドスミスの「スタートレック」のテーマ曲と、映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムスが作曲したスター・ウォーズのメインタイトル、そして「帝国の逆襲」から「帝国のマーチ」の2曲の、合計3曲が流れるのだ。
MB&FはSFの世界をさらに超えていく。他の高級時計ブランドに比べ、MB&Fの作品は大胆で因襲を打破している。そのロックな姿勢は、右のシリンダーから流れる3つのメロディーによって象徴されている。平和へ思いを馳せるジョン・レノンの「イマジン」、素晴らしいリフを持つディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、記憶に残る社会的メッセージであるピンクフロイドの「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール」だ。
マキシミリアン・ブッサーは「ミュージックマシーン 1」で選曲を行うにあたり、若き日の記憶を掘り起こしたが、当時本人が語っていたように、それは簡単なことではなかった。「SFのテーマ曲以外に、20歳までに強い影響を与えた3曲を含めたいと思いました。長いリストから3曲しか選べなかったことは、まさに苦難でした。私の最初の共同制作であり、自分の若い頃や子ども時代との関わりが強い時期でした」。
そして時が経ったにも関わらず、彼の選択の理由には大きな変化は見られない。「当時も現在も、自分自身が手に入れたいものを作りたいという気持ちを持ち続けています。単純に自分が聴きたいのは、スタートレックとスター・ウォーズのテーマソングでした。若い頃に映画館で仕事をしていましたので。ディープ・パープルのスモーク・オン・ザ・ウォーターも、非常に格好良いと思っていました。リュージュの伝統的な工房に対して、オルゴールにディープ・パープルをお願いするのは、本当に楽しかったです。」
完璧に左右対称の構造を要求
ミュージックマシーン 1 リローデッドには、ふたつのムーブメントが搭載され、巻き上げレバー、香箱、調速機構と、3曲を奏でるピン付きのシリンダー、そして手作業で調律された振動弁が備えられている。
メロディーのみを変更し、同じムーブメントをふたつ製作するのはずっと簡単なはずだったが、MB&Fは完璧に左右対称の構造を要求した。これに対しリュージュは前例のない決断をし、ムーブメントの構造とデザインを完全に反転させた、映し鏡のようなふたつのムーブメントを考案した。
船体の構造の両側には、櫛歯状の振動弁が備えられ、それぞれがリュージュの職人の厳選した72音をつまはじき、3曲ずつのメロディーを奏でる。
振動弁は音響性能に優れた特殊鋼合金を使用し、手作業で調律されている。低音は、鉛を歯の背面に加える伝統的な方法で重みを増す。次に機械でそれぞれの歯の周波数を確認し、正確な音程になるよう鉛を少しずつ削っていく。作業のために使われている道具は、リュージュが自社内で開発したものだ。
リュージュではメロディーを再現するため、まず工房の音楽担当者がメロディーを研究し、最も代表的な部分を特定する。次にそれをオルゴールに適用し、それぞれのシリンダーにある72のピンが振動弁の72音を振動させるようにするのだ。こうして片方はSFミュージック3曲、もう片方はロックミュージック3曲をそれぞれに奏でる。
この2組3曲の編曲において、それぞれ約35秒という限られた時間の中で、複数の音(3曲すべてに使われる音もあれば、1曲にしか使われない音もある)を入念に作り上げることは、技術的・芸術的に素晴らしい探求となる。知性、表現力、ミュージシャンの感情を揺り動かす力などがコンピューターを凌駕するのだ。
低音の歯の背後には、衝撃を緩和するために透明な人工羽根が取り付けられ、音色が完璧に響くようになっている。最後に振動弁が6本の青焼きネジで本体を突き抜ける真鍮製の「振動板」に留めつけられる。この板が音をケースに伝え、さらに音を増幅させる。振動弁が取り付けられると、音楽担当者が音を聴き、最終調整が行われる。
職人の手作業で仕上げられるシリンダー
手作業で仕上げられるシリンダーは、機体本体に取り付けられた存在感のあるジェットエンジンのようだ。約1400本のピンが緻密に取り付けられ、シリンダーの回転により、振動弁の歯を振動させていく。
各ピンの配置は、リュージュの職人によって正確に決められ、1本ずつやすり掛け、研磨が施される。最後に、シリンダー内部に熱い樹脂で加工を施し硬化させると、ピンがしっかりと固定され、音色が最適化される。
1曲分の演奏が終わると、シリンダーが長軸方向にわずかに移動し、次の曲に対応するピンと歯が位置合わせをする。1曲の演奏時間はおよそ35秒で、シリンダーの1回転に相当する。シリンダーは、本機後方にある香箱へと輪列を経てつながっているのが見える。
プロペラの形をした巻き上げレバーの両側に、垂直な円盤がある。レーダーのパラボラアンテナのようだが、これがシリンダーの調速機構である。ほどけた状態よりも完全巻き上げ状態で、香箱のゼンマイはシリンダーをより早く回転させる傾向がある。それを補うため空気抵抗を利用したレギュレーターが、回転が速い時は抵抗を強くし、遅い時は抵抗を弱くすることによって速度が一定となる。
赤、青、黒色の3色の酸化アルミニウムによって作られたミュージックマシーン 1 リローデッドの機体は、内部にある真鍮製の振動板によって音が増幅される。またこの板は振動を側面にある湾曲部や、酸化アルミニウム製の外部に張り出した着陸用のソリ状の部分にも伝え、これにより振動を「マシーン」のプラットフォームに伝達するのである。
この新しい"未確認飛行物体"は3色各33点の限定生産となっている。このオルゴールは現在、リテーラーへの納品が進んでおり、ブランドのeショップでも何点かが用意されている。
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