シチズン「カンパノラ」、トゥールビヨンが広げる〝宙空の美〟の表現

2022.06.07

ユニークな宙空の美を追求するシチズン時計のブランド「カンパノラ」に日本とスイスの時計技術を融合させたグローバルアート コレクションが新設された。
初のモデルは驚異のトゥールビヨン「天」と「地」だ。

Text by Shigeru Sugawara
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年7月号掲載記事]

©Naohiro Tsukada(STASH)/CITIZEN
(左)グローバルアート コレクション 天
果てしない夜空を思わせる「天」の漆塗り文字盤は、螺鈿細工で大小の星を描き、プラチナ粉を蒔いて研ぎ出して炎のように舞う星雲を描き出す。手巻き(Cal.Y392)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KWG(直径42mm、厚さ10mm)。日常生活防水。限定5本(取扱店:シチズン フラッグシップストア)。935万円。
(右)グローバルアート コレクション 地
荒々しい黒と金がダイナミックに融合し、独特の質感を生む「地」の漆塗り文字盤は、乾漆粉で荒らした生地に金を蒔いて洗い出して作り出したもの。手巻き(Cal.Y392)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KWG(直径42mm、厚さ10mm)。日常生活防水。限定5本(取扱店:シチズン フラッグシップストア)。935万円。

 シチズン時計が展開する幅広いブランドの中でも、「時を愉しむための時計」をコンセプトに据え、ユニークなデザインや機能によって独特の世界観を展開するのが「カンパノラ」だ。2014年に発表したメカニカルコレクションでは、シチズングループが傘下に収めたスイスのムーブメント会社ラ・ジュー・ペレの自動巻きムーブメントを搭載したモデルを発表。以降、同社のムーブメントと日本の伝統工芸を駆使したダイアルとを巧みに組み合わせたモデルが目の肥えた時計愛好家の間で人気の的になってきた。

 そして今年、和の美意識とスイスの時計づくりを融合して、世界のどこにもない芸術品を創作するというコンセプトのもと、カンパノラにグローバルアート コレクションが創設された。その記念すべき第1弾として発表されたのが、漆塗りダイアルを用い、ラ・ジュー・ペレの薄型で約90時間のパワーリザーブが特徴の手巻きフライングトゥールビヨンムーブメントを搭載する「天」と「地」、ふたつのモデルだ。

©Naohiro Tsukada(STASH)/CITIZEN

 時の根源である宇宙を表現した「天」、物質の根源である地球を表現した「地」、それぞれの漆塗りダイアルを手掛けたのは、これまでの「カンパノラ」で時計にアーティスティックな世界を開拓してきた伝統工芸士の儀同哲夫である。時刻表示のオフセンターダイアルとフライングトゥールビヨンの窓の周りに展開する広々としたスペースに凝らされた、儀同による会津漆が見る者のイマジネーションをかきたて、天と地の壮大なロマンへと誘う。まさに芸術品そのものである。

 ふたつのモデルは、時間をかけて入念に準備されたが、もちろんそれは、これらに選ばれた特別なムーブメントについても同じ。重力の影響を補正して精度を向上させるとされるトゥールビヨンは、時計の個性を宇宙的スケールで表現する「カンパノラ」の世界観にぴったりだ。ベースになったラ・ジュー・ペレのムーブメントは、ダイアル側のアッパーブリッジがなく、裏側で機構を支えるフライングトゥールビヨンのタイプ。このタイプには、キャリッジが宙に浮いて見え、さらに視線を機構の奥へと誘う利点があるので、「カンパノラ」にとって非常に重要な「宙空の美」の表現のためにも必然的な選択となったのだ。

©Naohiro Tsukada(STASH)/CITIZEN

 ベースムーブメントから「天」と「地」に搭載する独自のキャリバーY392として成立させるためのさまざまなアレンジが施されているが、その際に日本とスイスとの連携を図ったのは、2017年からラ・ジュー・ペレに駐在するシチズンの時計開発技術者、中川太郎だ。キャリバーY392の設計で特に注力したのはカンパノラのアイコンとなるベルマーク(鐘のモチーフ)が載るキャリッジだ。

 このようなモチーフを加えると、一見アンバランスに思われ、また、軽量化が必須とされるトゥールビヨンのキャリッジに負荷がかかりそうだが、ゼロから数々の試作を重ねた結果、キャリッジの地板を成すリングは、モチーフを配した側を細く、反対側は太くすることで絶妙な平衡を得ることに成功した。ちなみに静的精度で平均日差マイナス4〜プラス20秒/日を実現するというから優秀だ。

 またベルマークは、キャリッジに付属して秒針を担うポインターを従えて60秒で1回転し、大きな秒目盛りリングに沿って移動する眺めもダイナミックだ。

©Naohiro Tsukada(STASH)/CITIZEN
「天」と「地」専用にスイスで設計、製造されたラ・ジュー・ペレのフライングトゥールビヨンムーブメントCal.Y392は、直径32mmで、厚さが3.07mm(キャリッジ含まず)の薄型。黒メッキや直線的な仕上げを施したムーブメントの裏面は、日本の伝統的な美意識が息づく漆塗り文字盤とは対照的に、極めてモダン©Naohiro Tsukada(STASH)/CITIZEN なインダストリアルプロダクトの印象を醸す。

 デザインとダイアルは日本、ムーブメントはスイスという新モデル「天」と「地」は、プロダクトとしては〝スイスメイド〞になるのだが、両者が互いにアイデアを出し合い、協業で作り上げた紛れもない傑作だ。今回のプロジェクトが今後の時計づくりに大きな示唆をもたらすことは間違いないだろう。



Contact info: シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807


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