なぜコラムホイールは偉いとされるの? クロノグラフパーツの意外な事実

2022.06.03

Q:時計通が言う「クロノグラフはコラムホイール式を選べ」って本当に正しいの?

時計好きはクロノグラフを購入する際、コラムホイール式なのかカム式なのかを気にするとよく言います。もちろん、どちらでもクロノグラフを動かすことはできているわけですが、ではコラムホイールとカムに優越はあるのでしょうか?

広田雅将

2022年6月3日掲載記事


A:細かい制御が可能なコラムホイールと安価に作れるカム

 ストップウォッチの付いた時計のことをクロノグラフといいます。機械式時計の場合、ストップウォッチを制御する方法はふたつあります。クロノグラフをスタート/ストップさせるために、円柱状の「司令塔」が回転するコラムホイール式と、板状の部品が左右に動くカム式です。

 現在、いわゆる高級とされる機械式クロノグラフのほとんどすべてが、コラムホイールを採用しています。一方、カム式を採用するのは、自動巻きクロノグラフの定番であるETA7750(とその代替ムーブメント)、「スピードマスター」シリーズが載せるオメガのCal.3861、Cal.1861ぐらいしかありません。

オメガ 321

オメガCal.321のオリジナルムーブメント。クロノグラフのスタート/ストップ/リセットを制御するパーツとしてコラムホイールが採用されている。後にCal.321はCal.861にモデルチェンジする際、制御方法をカム式へと切り替えた。

 円柱状の部品が回転するコラムホイール式は、レバーの動きを細かく制御できるのが特徴です。しかしその半面、製造コストはかかります。対してカム式はコラムホイール式の反対です。安価に作れますが、制御が大雑把なため、クロノグラフをしっかり止めるブレーキレバーを加えるのが難しいとされていました。結果、ブレーキレバーがないクロノグラフは、強いショックを受けると、クロノグラフが動いてしまいます。かつてのカム式が安物とみなされた理由は、ここにあります。


現在はコラムホイールとカムで優越なし

 しかし今や、コラムホイールのほうが優れている、とは限らないのです。オメガは1968年にカム式でありながらも、ブレーキレバーを備えたCal.861をスピードマスターに搭載しました。73年発表のETA7750もカム式でしたが、きちんとしたブレーキレバーが備わっていました。現在では、コラムホイールとカム式の間に、機構的なメリット・デメリットはないと言ってよいでしょう。

オメガ 3861

Photograph by Yu Mitamura
かつてカム式がコラムホイール式に劣るとされていた理由はブレーキレバーを備えることができなかったからだ。しかし、オメガのキャリングアームを用いる手巻き式クロノグラフムーブメントはこの問題を解決し、Cal.861以来ずっとカム式を採用し続ける。コーアクシャル化を果たし、さらにシリコン製ヒゲゼンマイを使うようになった最新ムーブメントCal.3861でもこの方針を変えていないことからも、今や両者に優越がないことは明白だ。


機械式時計のクロノグラフ、カム式とコラムホイール式の真実

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