ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
バーゼルワールドのビッグブランドを吸収するかたちで、2019年以来、3年ぶりについにリアル開催されたスイス・ジュネーブの時計フェア「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」。何とか取材した者として、どんなフェアだったのかをご報告したい。
今回は会場に入るまでのドタバタから……。なおこの現地レポート、この1回目と次回の2回目は、4月に現地で取材中に書いたもの。2カ月が経過してしまったが、できるだけ手を加えずにお届けする。
(2022年6月4日掲載記事)
錯綜するスイス渡航情報
ジュネーブの会場に本当にたどり着けるのか? 無事に帰って来られるのか? 今回の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」取材では、取材以上にそれがいちばんの問題だった。そして、そのハードルは予想外に高かった。
原因はもちろん「新型コロナウイルス感染症」。そもそも、スイスに入国できるのか? スイスに向かうための飛行機に乗せてもらうためには、いったい何が必要なのか? 外務省や厚生労働省、関連のウェブサイトを見ても、公式情報自体が大混乱していてよくわからない。
外務省のページを見ると、スイスは日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置を取っている45の国・地域に入っている。ところが、スイス大使館のページを見ると、スイス政府は2022年2月17日時点でスイス入国者への健康上の措置を解除している。つまり入国する際に、ワクチン接種、新型コロナウイルス感染症からの回復、検査結果の陰性といった証明書の提出ならびに入国書類の記入は必要ない、と書かれている。
だが、スイスへの直行便でなく、どこかの国でトランジットする場合は、その国の方針に従わなければならない。私が利用したエミレーツ航空の場合は、最終目的地の国が要求していなければ、証明書は一切要らないはずだ。
ワクチン接種証明とPCR検査の陰性証明
ところが実際は違った。成田空港のエミレーツ航空のチェックインカウンターでは、PCR検査の陰性証明は不要だが、ワクチン接種証明書は必要だった。区役所に郵送で依頼して手に入れた英文の「ワクチン接種証明書」を提示した。ワクチンの接種回数は3回。これなら万全のはず。
ところが、万全でもなかったようだ。係員が書類を見て確認後、返してくれたのでしまおうとしたら、係員が慌てて「もう一度見せてください」と言う。実は接種2回目と3回目の間隔が問題で、この間隔が開き過ぎだとNGなのだという。何とかクリアしていたようだが、もし3回目を打つのが遅かったら、アウトだった可能性もある。この基準が日本なのか、スイスの規定なのか、実はいまだにわからない。
ドバイでもトランジットで乗り継ぐ時、搭乗口で搭乗できるかドキドキした。義務付けはないはずだが「もし搭乗前にPCR検査の陰性証明を出せ!」と言われたらアウト。実は「保険をかける」つもりで渡航直前に外務省指定医療機関でのPCR検査を予約していたのだが、直前にその医療機関から「ドバイ(UAE)指定の書式にはウチは対応していないので、キャンセルしたらどうですか」と電話があり、PCR検査を諦めていたからだ。
だがジュネーブ行きの搭乗口では、PCR検査の陰性証明を求められることはなく、飛行機は無事、ジュネーブに向けて飛び立ち、ほぼ予定通りに通い慣れたジュネーブのコアントラン国際空港に着陸。入国審査を通過して荷物を受け取るターンテーブルへ。ロストバゲージもなくすべて順調。税関を抜けて到着ロビーに出た。実に3年2カ月ぶりのジュネーブだ。
ジュネーブ空港の到着ロビーに立ってまず驚いたのは、誰もマスクを着けていないこと。
飛行機の機内ではマスク着用が義務付けられていたから、全員がマスクをしていた。トランジットしたドバイ空港内も、ほぼすべての人がマスクを着けていた。
ところが、到着ロビーにいる人々は誰もマスクを着けていない。マスクを着けている人は探せば見つかる。だがスイスでは、イギリスなどと同様にマスクはもはや義付けられていないのだ。
到着直後、空港内のレストランを借り切って行われたブライトリングの新作トークショーでもマスクを着けている人はまばら。終了後のパーティーでも、参加者はマスクなしで談笑して盛り上がっている。もはやスイスでは、マスクの着用はバスや電車などの公共交通機関の中や老人ホームなど、限られた場所でしか義務付けられていないのだ。
翌3月30日、「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG) 2022」の初日。ホテルから乗った会場へのシャトルバスの中は、ほとんどの人がマスクをしていた。だが会場に到着すると、皆がマスクを外す。プレスセンターで飲み物や軽食を提供してくれる人たちも、マスクはまったくしていない。「これでマスクを着けることに意味があるのか」と思い悩む。
日本では「たとえ周囲が着用していなくても、フェア会場ではできるだけマスクをしよう」と固く決心していた。だが、その決意はなし崩し的に崩れてしまった。
何しろ、W&WGの会場に入るときから、マスクを外さなければならない。入場パスをタッチして通る最初のセキュリティーゲートでは、係員がゲートの裏側のディスプレイに表示される写真と入場者の顔が一致するか、ひとりひとり目で確認している。だから、そこでは「マスクを外して!」と注意されるのだ。
しかも4月1日になると、スイス連邦保健局はマスク着用義務を完全に撤廃した。感染者、発症者にも隔離義務はないし、行動制限もない。久しぶりに会った、日本の雑誌取材ではおなじみのイタリア・ミラノ在住のカメラマンT-MAX氏も、「もう、コロナは終わったんだよ」と言う。現地の人たちも「新型コロナ問題はもう終わった」と言う。その言葉に不安の影はほとんどない。
新型コロナ禍は、結局は医療体制の問題だ
だが、スイス連邦保健局が発表する感染者は決して少なくないし、老人ホームなど一部のエリアではマスク着用が義務付けられている。新型コロナウイルス感染症は、まだ収束していないことは明らかだ。それなのに、街角でもフェア会場でも新型コロナウイルス感染症に対する不安の声はない。
それはなぜか? それは重症化したらすぐに検査、入院ができ、適切なケアが受けられる医療体制が整っているからだ。日本のような「検査も入院もできず、自宅待機(という名の放置)で重症化、死亡」という事態が起こらない体制が整っているからだ。
スイスでも新型コロナウイルス感染症に対する不安がまったくないわけではないし、政府のこの対応に疑問を持つ人ももちろんいる。でも、日本のような「わけのわからなさ」はない。何しろ、政府の発表が科学的知見に基づいている。この違いは大きい。
なお、フェア会場の一角にはPCR検査所があって、ブランド関係者には数日おきの検査が義務付けられていたようだ。だが、バイヤーや私のようなジャーナリストには検査義務はない。
こうして、「マスクなし」のスイスに何とかたどり着いて、3年ぶりの時計フェア取材は始まった。
何がどう変わったのか? 次回はフェア会場の構成の話から、新しいフェアの性格と今後の展望についてお伝えしたい。
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