プッシュボタンひと押しで目的地の時刻に切り替わる、特許取得のインスタント・ジャンプ・タイムゾーン機構を搭載したブレゲの最新作「マリーン オーラ・ムンディ 5557」。世界各地の時間が瞬時に手に入るシンプルで実用的なデュアルタイム機能のみならず、多様な技法を駆使して海や大陸を立体的に表現する斬新なダイアルデザインも旅心を誘う。
菅原茂:文 Text by Shigeru Sugawara
竹石祐三:編集 Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2022年7月号掲載記事]
革新的な複雑機構「インスタント・ジャンプ・タイムゾーン」
ホワイトゴールドによる3モデル。ホワイトゴールドにブルーが映え、「マリーン」のスポーティーなデザインに爽やかな表情を演出する。ブルーのラバーストラップモデルとレザーストラップモデル、各892万1000円(税込み)。ブレスレットモデル、1168万2000円(税込み)。すべて自動巻き(Cal.77F1)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。直径43.9mm、厚さ13.8mm。10気圧防水。
創業者アブラアン-ルイ・ブレゲが1815年にフランス国王ルイ18世から王国海軍時計師の称号を授かり、マリンクロノメーターの製作で名を馳せて以来、1960年代までフランス海軍に関連機器を納入してきたブレゲ。そうしたメゾンと海の世界にまつわる歴史を背景に1990年に誕生したのが「マリーン」コレクションである。2017年の複雑時計「マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887」を皮切りに第3世代に突入したコレクションは、新しいデザインを採用する3針、クロノグラフ、アラームGMTやレディスモデル、ハイジュエリーウォッチを展開してきたが、そのラインナップを強化するのが今年の新作「マリーン オーラ・ムンディ 5557」。海と旅のテーマが際立つ機能とデザインに「マリーン」の世界観が鮮明に表現されたモデルだ。
名称の「オーラ・ムンディ=Hora Mundi」はラテン語で「世界の時間」を意味する。スペイン語でも同一のこの言葉を英語に置き換えれば「ワールドタイム」にほかならない。ただしその機構と表示は、一般的なワールドタイムとは異なるユニークなものだ。始まりは、ブレゲが2011年に「クラシック」コレクションの新作として発表した「オーラ・ムンディ 5717」。開発に3年、4件の特許を取得した「オーラ・ムンディ」の最大の特色は、賢くてユーザーフレンドリーなインスタント・ジャンプ・タイムゾーンという革新的な複雑機構にある。
使い方は実に簡単だ。まずひとつ目の都市を日本の東京とすると、8時位置のプッシュボタンを操作して6時位置の小窓に「TOKYO」を表示させ、錨マークに合わせる。次に3時位置のリュウズを引き出し、午前と午後に注意しながら正しい時刻と日付に合わせる。続いてふたつ目の都市、例えばパリなら、再び8時位置のプッシュボタンを押して「PARIS」を選べばその時刻が表示される。ここではセレクトした都市についてホームタイムやローカルタイムを区別して考える必要はなく、すべて相対的な関係だ。
選んだ都市の情報は、インスタント・ジャンプ・タイムゾーン表示システムに取り込まれる。システムの核心部にあるのは、24都市のタイムゾーンに対応する24歯とともにハートカムを装備した2個の歯車から成る一種の記憶装置。8時位置のプッシュボタンを押すと、レバー状のハンマーが作動してふたつの歯車の間でスイッチングが行われ、その結果、時針がジャンプして指定都市の時刻へと移動し、時針に合わせて日付とデイ/ナイト表示も自動的に切り替わる仕組みだ。切り替え機能が働いているときもムーブメントの正確な動きは維持される。
設定や操作が極めて簡単なことに加え、ユーザーが求める都市、時刻、日付情報をごくシンプルに表示するところも「オーラ・ムンディ」の優れた特徴だ。基本的に中3針のデザインなので、複数の時刻表示を行う時計にありがちな煩雑なビジュアルとも無縁である。「マリーンオーラ・ムンディ 5557」はそうした利点を生かしながら、非常に洗練された技法でダイアルに立体的な世界地図を描く。続いてそれを詳しく見ていこう。