1950年代のゼニスのクロノメータームーブメント、キャリバー135-Oを搭載した「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」がオークションハウスのフィリップスより発表され、まもなく完売を記録した。2022年6月初頭に発表されるや業界の話題をさらったこのプロジェクトはフィリップス時計部門のオーレル・バックスとアレクサンドレ・ゴッビの発案によるもので、歴史的なムーブメントの修復と装飾を担ったのは独立時計師のカリ・ヴティライネンであった。本モデルの誕生経緯を記録する。
Text by Mark Bernardo
2022年6月8日掲載記事
フィリップス発案、カリ・ヴティライネンの仕上げでよみがえった、ゼニス「Cal.135-O」の搭載モデル
ゼニスが"クロノメーターコンクールの黄金時代"に最も多くの賞を受賞したムーブメントが、再び市場に送り出された。これはフィリップス時計部門のオーレル・バックスとアレクサンドレ・ゴッビの発案と協力のもとに始まったプロジェクトだ。フィリップスはバックス&ルッソと協力し、フィンランドの独立時計師カリ・ヴティライネンを招き入れ、ムーブメントの修復と装飾を託した。そのムーブメントとは、1950年代に作られたクロノメータームーブメント、キャリバー135-Oだ。そしてこのたび世界でわずか10本しか存在しない「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」が完成したのである。これらはバックス&ルッソと共同でフィリップスが独占的に販売を行った。ゼニスのCEO、ジュリアン・トルナーレは、「オーレル・バックスとアレクサンドレ・ゴッビとは長年の付き合いで、ゼニスの遺産や、まだ発掘されていない宝は何かについて話したことがあります。具体的には、キャリバー135について聞かれました。そこで、フィリップスとコラボレーションして、このムーブメントをテーマにした特別なシリーズを作れないかと思いついたのです。ゼニスのような豊かな遺産を持つことのすばらしさは、それを共有することにあります」と述べている。
究極の天文台クロノメーター「キャリバー135-O」を搭載
1865年の創業以来、ゼニスは230以上ものクロノメトリー賞の受賞を果たしている。歴史上な記録をたたき出したそのムーブメントこそが、「キャリバー135-O」なのだ。
キャリバー135-Oは、スイスの時計職人エフレム・ジョビンの指導のもと開発が始まり、1949年から1962年まで生産された。市販モデルと、ヌーシャテル、ジュネーブ、キューテディントン、ブザンソンの天文台におけるクロノメーターコンクールのための2種類が作られた。そのクロノメーターコンクールのために作られた後者が「O」バージョンとされたのである。これら「O」バージョンは商品化されることはなく、腕時計や懐中時計のケースに収められることもなかった。クロノメーターコンクールで勝利するために作られたのである。温度変化や衝撃、6姿勢差の変化など徹底した作動テストにおいて、常にその高い性能が発揮され続けていた。
今回「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」に搭載される10個のムーブメントは1950年から1954年のいわば"連勝時代"に作られたもので、ゼニスの時計職人シャルル・フレックとルネ・ギガックスによって調整されたものである。
歴史的ムーブメントの修復と仕上げを依頼されたカリ・ヴティライネンは、これら10個のキャリバー135-Oに面取りや仕上げの装飾を施して高級腕時計へと進化させた。アレクサンドレ・ゴッビは、「これらのムーブメントはクロノメーターコンクール用に作られたものです。着用するためでも、美的観点に訴求するために作られたわけでもありません。そのため、この伝説的ムーブメントで腕時計を作るとしたら、誰を起用することで次のレベルへ引き上げることができるのかというのは重要でした。その候補がカリ・ヴティライネンで一致を見たのはまもなくのことでした。彼こそが真の匠なのです」と話す。オーレル・バックスは「キャリバー135で特別に限定モデルを作るなんて素敵ですよね。ジュリアンとロマン(ゼニスのプロダクト&ヘリテージの責任者、マリエッタ)が戻ってきて言ったのです。"皆さん、きっと驚きますよ"と。ですが、天文台で検定された本物の、言うなればF1優勝のムーブメントが搭載されるとは、誰が想像できたでしょうか? これがすべての始まりでした」と話す。
無骨なクロノメータームーブメントを高級腕時計に昇華
「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」は、キャリバー135を搭載した当時の市販モデルに着想を得たものだ。直径38mmのプラチナ製ラウンドケースは、なめらかにテーパーの効いたラグと、ゼニスのモダンなスターロゴをあしらったリュウズを備える。サファイアクリスタル製風防の下には、カリ・ヴティライネンの文字盤工場、コンブレミーンによる純銀製のドーム型ブラックダイアルがあり、魚のウロコをモチーフにしたギヨシェ彫りが施されている。三角形のアワーマーカーとポリッシュ仕上げのアプライド・ドットマーカーはジャーマンシルバーにロジウムコーティングが施され、コントラストが効いたソリッドゴールドの針を組み合わせて、ヴィンテージ調のエレガンスと現代的な華やかさを融合している。6時位置の大きなセコンドダイアルには、ムーブメントのシリアルナンバーがあしらわれ、それぞれの時計が1本ずつ異なるものであることを示している。
ムーブメントはカリ・ヴティライネンとヌーシャテルの時計職人チームによる仕上げで完成する。文字盤の6時位置には「ヌーシャテル」の文字が配されているが、その地こそキャリバー135-Oが1903年にヌーシャテルの天文台クロノメーターコンクールで金賞受賞を果たした天文台の建つ場所である。
「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」に搭載されるキャリバー135-Oはサファイアクリスタル製ケースバックから鑑賞が可能だ。ゴールドカラーのブリッジに手作業で施された面取り、ネジ穴の面取りや地板のサーキュラーグレイン仕上げ、角穴車や丸穴車に施された渦巻き状のブラシ仕上げなどを見ることができる。これらの仕上げを担ったのは修復専門の時計職人たちだ。カリ・ヴティライネンは、「過去にキャリバー135-Oに携わったのは、当時トップレベルの時計職人たちでした。彼らの高い能力で実現した精度は、約70年が経っても失われることはありません。私たちの使命は、その性能を阻害しないことでした」と語っている。
「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」はフィリップスから13万2900スイスフランで販売され、すでに完売している。
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