ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングアトリエ責任者が語る、他社と異なる点

2022.06.16

ずば抜けてマニュファクチュール的な時計を作る現在のルイ・ヴィトン。
その際立ってユニークなスタンスを、ウォッチメイキングアトリエのラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン(以下LFTLV)で責任者を務める、ミシェル・ナバスに聞いた。

広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年7月号掲載記事]


ヒューマンスケールに留まる意思がドリームチームを支える

 内製化を進める〝非時計専業メーカー〞にあって、独自のスタンスを貫くのがルイ・ヴィトンだ。同社は時計の完成度を高めただけでなく、時計好きに訴求するようなプロダクトを作るに至った。しかも複雑時計の多くは、ジュネーブ・シールの認定を受けているのである。そう聞けば、よほどのマニュファクチュールを想像するが、ルイ・ヴィトンは完全内製化からは慎重に距離を置き続けている。

 それにもかかわらず、ずば抜けてマニュファクチュール的な時計を作る現在のルイ・ヴィトン。その際立ってユニークなスタンスを、ウォッチメイキングアトリエのラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン(以下LFTLV)で責任者を務める、ミシェル・ナバスに聞いた。

ミシェル・ナバス

ミシェル・ナバス
[ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン/マスターウォッチメーカー]

1962年、スペイン・サラマンカ生まれ。時計師の父の影響を受け、10歳から時計製作を始める。ブザンソンの時計学校を卒業後、コンプリケーションの開発に従事し、現在はルイ・ヴィトンのウォッチメイキングアトリエでトップを務める。以降、ブランドの世界観を取り入れたユニークな作品を披露している。

 まず筆者が尋ねたかったのは、ルイ・ヴィトンの他社と異なる点だ。

「私たちは20年の歴史を持つ若い時計ブランドで、伝統がないからこそ、誰にもできない大胆な発想が可能だと思っています。また複雑時計工房のLFTLVは、最高の創作者、デザイナー、時計職人からなるドリームチームであり、ヒューマンスケールの会社です。そして私たちは、多くのラグジュアリー分野で活動しているため、デザイン、アート、カルチャー、技術などで、どのようなアイデアに取り組むべきかについて強い知識を持っているのです」

 それは確かに、個性的な数々の新作に明らかだ。ではなぜルイ・ヴィトンは、部品の完全内製化を進めないのだろう?

「私たちは、個々のスキルの恩恵を受けられる、ヒューマンスケールの企業でありたいのです。ですから部品に関しては、すべてを内製するのではなく、最高のサプライヤーと協力しています。しかしLFTLVでは、サプライヤーからの供給を受けた部品を、すべて手作業で仕上げています。しかもジュネーブ・シールをクリアする水準で。それを誇れるブランドはほとんどないでしょう」


「部品をすべて内製化するのではなく最高のサプライヤーと協力している」

 時計作りに関して、わずか20年の歴史しか持たないルイ・ヴィトンは、どうやってサプライヤーとの関係を築いたのだろうか? 歴史あるメーカーでなければ、良い部品は手に入れられないはずだ。

「LFTLVの共同創業者であるエンリコ・バルバシーニと私は古くからの時計師であり、各分野におけるスイスのベストプロバイダーを知っています。私たちは彼らを知っていますし、彼らも私たちの高いレベルを知っています」

 なるほどナバスとバルバシーニの名声が、サプライヤーとのカギというわけだ。しかしそんな同社の例外がダイアルである。現在ルイ・ヴィトンはずば抜けて良質なダイアルを内製するようになった。

「ダイアルは自社で作りたいと思っています。だって時計の顔ですからね。自社で作れば機密性も高いですし、社内の反応も得やすいでしょう。LFTLVで製作するダイアルは、職人技が盛り込まれたユニークなものです。最近、私たちはジュネーブにあるマイクロパーツのサプライヤーを買収し、ムーブメントに使う非常に高品質な部品のプロトタイプや、少量生産なども行うようになりました」

 極めて独自性の高いルイ・ヴィトンの時計作り。そんな同社は、LVMHグループの各社と交流を持っているのか?

「グループ内の各社とはミーティングを開いています。それは知識や技術革新の面では良いことですが、私たちの独占性とDNAは維持されていますよ」


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