来年以降の参加ブランド、会場レイアウトは不明
ただ、このかたちが来年2023年もそのまま踏襲されるかどうかは分からない。今年出展した時計ブランドは、24のビッグブランド、さらに独立系を含めて合計39ブランド。これが増やされるのか、今年同様に維持されるのかも、当然ながら現時点では不明だ。
なお、さらに出展ブランドを増やすことについては、関係者のオフレコ発言を含めて総合的に考えると、かなりの賛否両論がある。今回の公式プレスリリースは開催直前まで「約40ブランド」という表現だった。来年2023年もギリギリまで確定はしないだろう。
スペース的にはまだパレクスポにも余裕はあるし、さらに拡大するならジュネーブ・モーターショーで使われている、かつてSIHHの会場になったこともある、空港の滑走路に隣接した別館「パレクスポ・アリーナ」もある。
ただ、どこまでこのフェアのデザインコードを守りながら、どこまでフェアを拡大するかは、時計ブランドそれぞれに見解が異なるはず。
また、2年間の「実験」を経て確立されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブの「デジタルとリアル(こちらではフィジカルという)のハイブリッド開催システム」は、とてもよく出来ていると思うが、ブランド数が大きく増えた場合は、今回のように運用することは困難かもしれない。
拡大を阻む「高額な出展料」と基本コンセプト
さらにフェアの規模拡大にはもうひとつ、根本的な大問題がある。それはバーゼルワールドより高額と言われる出展料の問題だ。
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブの出展料はもちろん非公開。だが、バーゼルワールドより間違いなく高額だと業界では囁かれている。では、なぜ高額なのか? それは招待された来場者に飲食サービスを無償提供しているから。この費用は出展ブランドが招待者の数に応じて負担していると推測される。そして、このサービスこそ旧ヴァンドーム グループが旧バーゼル・フェアから1991年に離脱(正確には1993年に完全離脱)して、独自のフェアを立ち上げた理由であり、SIHHの基本コンセプト「ラグジュアリーなブランドにふさわしい、ラグジュアリーな雰囲気とおもてなし」そのものだからだ。
ますますラグジュアリー化が進み、それが成功の大きな条件になりつつある今、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブの事務局がこの基本コンセプトを捨ててまで、ブランド数を増やすだろうか? 筆者はまずありえないと考える。
この基本コンセプトが維持される限り、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブの拡大開催は不可能だろう。ラグジュアリー化で打撃を受けている中堅以下の時計ブランドにとって、この「敷居」はあまりにも高すぎる。
また、出展料以外の費用の高騰も問題だ。かつてのバーゼルワールド同様に、今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでもホテル不足、ホテル代の高騰という問題がすでに起きている。
しかも日本からの取材陣にとっては、日本政府が長年続けてきた愚かな円安政策がついに牙を剥き、今年は1スイスフラン=約137円という破壊的な円安になった。この状況はさらに悪化する可能性はあっても改善される見込みはないだろう。メディア関係者の一部にはすでに「もはや取材は不可能」という声もある。
充実した新作で、さらに加速する時計ビジネス
ただ、新型コロナウイルス禍にもかかわらず、2021年のスイス時計輸出額が史上最高を記録したこともあり、フェア会場は活気にあふれ、一様に関係者の表情は明るい。明るいどころか、黙っていても笑顔になるという感じだ。
そして誰もが語ったのが、今年の新作の世界を反映させたブースの造りや演出の魅力、そして何よりも人と人同士の、リアルなコミュニケーションの素晴らしさだ。
発表された新作も、2021年の新作以上に充実した内容の魅力的なもので、ウクライナ戦争の影響はあるものの、高級時計市場はさらに成長することは間違いない。その成長を時計業界全体に広げるためにも、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブの今後の拡大拡張は大きな課題だろう。
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