スイス・ビエンヌに拠点を置く独立系ブランド、アーミン・シュトロームは、業界においても高水準なマニュファクチュールである。工房の面積は業界最小クラスであるが、ここから秀逸なアイデアが生み出され、そして業界に驚きを与え続けてきた。今回はこのアーミン・シュトロームの工房において、時計作りの基礎となるムーブメント製造の工程を取材した。
2022年6月28日掲載記事
1ミクロン単位のパーツ製造から組み立てに及ぶまで自社内で管理
アーミン・シュトロームの時計工房はコンパクトな空間にあり、マニュファクチュールとしては業界最小クラスだ。しかしどんな新しいムーブメントも、その背後にいるエンジニアや時計職人の独創的なアイデアなしには、日の目を見ることはないだろう。アーミン・シュトロームの場合、クロード・グライスラーは、革新的な「ミラード・フォース・レゾナンス」のアイデアを紙に書き出し、それをコンピューター制御の設計プログラムに移してムーブメントのモデリングを開始したのである。
1ミクロン単位で寸法を計算し、最終的に極小の部品を生産する機械にインプットする。アーミン・シュトロームではこれに関する全てが自社内で行われている。
アーミン・シュトロームでは、脱進機とヒゲゼンマイを除くムーブメントの構成部品はほとんどが自社製である。ネジやピニオン、歯車などの小さく丸い形状のパーツは、ステンレススティールや真鍮の長い棒を少しずつ削って歯や軸を作るプロファイルターニングマシーンによって作られている。また地板やブリッジなどの大きな部品は、真鍮からCNC旋盤で製造される。CNC旋盤は複数の軸に沿って連続的に加工することができ、加工ごとに異なるツールを使用し、ロボットアームで部品を移動させることが可能である。
特に小型のブリッジやレバー、バネなど小さくて繊細な部品は、ワイヤーエロージョンという方法で製造されている。これは金属に開けた小さな穴に、髪の毛ほどの細さのワイヤーを通すことから始める。ワイヤーに流した電流が、加工板全体を浸した溶液と反応し、極微量の金属を浸食していく。これにより金属の構造的特性を維持しつつ、繊細な加工が可能になる。金属に負荷がかかるため、アーミン・シュトロームではプレス加工による部品製造は行っていない。
パーツの形状加工が行われた後、手作業でエングレービング、面取り、ポリッシュ仕上げ、サーキュラーグレインやジュネーブストライプなどの装飾が施され、電気メッキを担当する部門へ運ばれる。そしてステンレススティールや真鍮製パーツには、まず最初に金メッキが施され、そして耐腐食性と表面の硬化を目的としたニッケルの層が加えられる。
洗浄後に、パーツはロディウムやルテニウム、ローズゴールドなどの最終的な色を付けるため、電解溶液に浸される。自社の工房内に電気メッキの技術を持つことによって、アーミン・シュトロームでは顧客の希望に沿ったパーツの色を提供することができるのだ。
そしてようやく、ムーブメントの個々のパーツは時計職人の手にわたり、組み立てられる。地板とブリッジに石を配した後、輪列と主ゼンマイが加えられる。脱進機とテンプが追加されると、いよいよムーブメントに命が吹き込まれる。……しかし一旦分解されて、2度目の組み立てと注油の前に洗浄と乾燥が繰り返される。数日かけて精度テストが行われた後、やっと顧客のもとに行く用意ができるのである。
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