MB&Fはクロノグラフを制作しないと創業者のマキシミリアン・ブッサーが言ったことはない。その真意は、「MB&Fが他社のようなクロノグラフを作ることは決してない」ということだ。
ブランド創業から17年の時を経て、MB&Fは20番目のムーブメントであり、初のクロノグラフである「レガシー・マシン シーケンシャル エヴォ」を発表した。これはMB&Fの仲間であり、初期のムーブメントを組み立てた数少ない時計師のひとりでもあるスティーブン・マクドネルと共同で開発されたものである。
Text by Roger Ruegger
2022年7月5日掲載記事
ふたつのクロノグラフ表示を搭載
「レガシー・マシン シーケンシャル エヴォ」の文字盤はアトミックオレンジまたはコールブラックの2色展開があり、クロノグラフ表示をふたつ備えている。
ひとつは9時位置に秒表示、11時位置に分表示を備え、もうひとつは3時位置に秒表示、1時位置に分表示を配している。それぞれのクロノグラフ表示は、ケースの両側面にあるスタート/ストップボタンとリセットボタンを使用して、それぞれを単独で開始、停止、リセットすることができる。これによりクロノグラフのプッシャーは4つ備えられ、ひとつの時計にふたつのクロノグラフ機構を搭載している。
しかし9時位置には5番目のプッシュボタン「ツインバーター」が配されている。これこそがレガシー・マシン シーケンシャル エヴォを既存のクロノグラフ搭載腕時計より超越させるものだ。このプッシュボタンは両方のクロノグラフ装置を制御し、各クロノグラフのスタート/ストップを切り替えるスイッチとして機能する。つまり両方のクロノグラフ表示がゼロ位置となるなど停止した場合、ツインバーターを押すだけで両方が同時にスタートするのである。もし両方が作動している場合、ツインバーターで両方を停止させられる。また一方が作動中でもう一方が停止している場合もツインバーターは作動中の方を停止し、停止している方を開始することができる。
複数の計測モード
レガシー・マシン シーケンシャル エヴォは他のクロノグラフと同じように使用できるが、ツインクロノグラフ機構により、スプリットセコンドクロノグラフと同じ性能を発揮できる。MB&Fによると、エネルギー効率と精度の点でも従来のクロノグラフやスプリットセコンドクロノグラフを凌駕する性能を実現したということだ。レガシー・マシン シーケンシャル エヴォが搭載する機能を次に紹介する。
「同時計測モード」
ふたりの競技者が同時に開始するレースなどで使用できる。ツインバーターにより両方のクロノグラフを同時に開始させ、各クロノグラフが個別に備えるスタート/ストップボタンを押して複数のタイムを簡単に計測することができる。特筆すべきは、市場にある多くのスプリットセコンドクロノグラフの上限である60秒を超えた計測が可能であるということだ。
「積算計測モード」
1日を通してふたつの異なるプロジェクトを作業するようなオフィス環境で有用である。ひとつのタスクを開始するときにひとつのクロノグラフをスタートさせ、次に別のタスクにシフトするときにツインバーターを使用する(最初のタスクに戻るときは再び切り替える)ことにより、それぞれに費やした累積時間を把握できる。チェスの試合のタイム計測も使用例に挙げられる。
連続計測モード(またはラップモード)
個別のラップタイムを測定するスポーツ競技でその本領を発揮する。競技開始時にひとつのクロノグラフをスタートし、ラップタイム測定時にツインバーターを使用すると、次のラップタイムを測定するために2番目のクロノグラフが瞬時に起動し、最初のクロノグラフが停止し、タイムを記録するための十分な時間が確保できる。停止したクロノグラフはゼロにリセットされ、次のラップでツインバーターを使用して再スタートできるようになる。分積算計を搭載しているため、平均ラップタイムが1分を超えるスポーツ(ラップタイムを競うレースの多く)でも使用できる。
独立計測モード
別々のタイミングで異なる時間を割いて、いくつもの調理を進める食事の準備などで活用できる。例えば沸騰したお湯にパスタを入れるときにひとつをスタートし、野菜をオーブンに入れた段階でもうひとつをスタートさせるように、ふたつのクロノグラフをそれぞれのプッシュボタンを使って操作する。あるいはジムでは、ひとつのクロノグラフをセットしてセッション全体のタイムを計測しながら、もうひとつのクロノグラフでマシンごとのタイムやその間のダウンタイムを記録することにより、ワークアウトのルーチンを最適化できる。
実用性を向上させる機械的複雑さ
2016年、マキシミリアン・ブッサーがステファン・マクドネルに「レガシー・マシン パーペチュアル」(2015年)の後続モデルの可能性を打診した際に、ステファンが発した返事はたった4語、「I have an idea(考えがある)」だった。そしてすぐに手巻きの機械式クロノグラフで競技を計測できるクロノグラフレバーを組み合わせる案が即座に浮かび上がった。クロノグラフ装置に独立した操作性を持たせることは、結果を記録するのに十分な時間を確保し、複数のタイムを計測して保存できるいうことであった。
この時から、さまざまな解決法が見いだされた。ふたつのクロノグラフ機構を同一のテンプにリンクさせるという考えは、宙に浮くようなテンワを中央に備える「レガシー・マシン」のために製作されたもので、異なるタイマー間のわずかな時間差を除くことができた。
ステファン・マクドネルはまた振り角を落とすゼンマイの摩擦を避けながらクロノグラフ針の忌まわしいブレを取り除くために、クロノグラフの垂直クラッチをメインの輪列の中に組み込むようにした。さらにクロノグラフの内部に石を埋め込んだクラッチシャフトを組み込み、クロノグラフの作動時と非作動時の振幅の変化をなくすことにも成功した。
レガシー・マシン シーケンシャル エヴォは80m防水のジルコニウム製ケースを備え、ベゼルのないケースデザインは内部のムーブメントを強調する。レガシー・マシンを象徴するサファイアクリスタルドームは、クロノグラフ表示と宙に浮く3Hzの吊り下げられたテンプを見せる。クリスタルは完璧なアーチを描く形状であるが、ふたつの絶妙な(そして実現するのが難しい)角度が施されている。これは厚みを最小限に抑えて装着感を高めるためのものだ。一体型のラバーストラップが取り付けられて完成するレガシー・マシン シーケンシャル エヴォは全585パーツからなり、パワーリザーブは約72時間となっている。
またレガシー・マシン シーケンシャル エヴォは、ケースとムーブメントの間にリング状の緩衝装置「フレックスリング」を備える。ステンレススティールのシングルブロックから機械加工で作られるこの装置は、レガシー・マシン シーケンシャル エヴォを「人生のあらゆる局面で傍にいることのできる時計」たらしめている。
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