ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022レポート【その3】 ジュネーブにあってバーゼルにないものとは?

時計の最新技術を紹介する「LAB」

 2019年、3年前のSIHHで、主催者FHHによる新しい公式展示企画として始まったのが「LAB」と名付けられた、時計技術の最前線を紹介する展示だった。この年、このブースの入り口に立っていたのは、ソフトバンクのロボット「Pepper」だ。

 筆者が海外で見たのはこれが初。その内容は、新しいケース素材、パソコンとつないで使う新しい時計の検査機器、VRを使ったバーチャルな時計選択シミュレーター、バーチャル時計装着アプリ。島精機製作所のホールガーメント(継ぎ目がない)ニットマシンを使って顧客の腕のサイズに合わせたストラップをその場で作る技術。時計ブランドのアーカイブをデータベース化して検索する技術……。その際、現場のスタッフを務めたのは、ジュネーブ市内の学校でデジタル技術を学んでいる学生や、時計メーカーに技術を提供している会社の人々。そして、時計ブランドのスタッフたち。

2022年のW&WGの会場内に設けられた「LAB」の展示。だが、新型コロナウイルス禍以前に開催された2019年のSIHHに初めて登場した時のような熱気はなかった。

 2019年、3年前のSIHHで、主催者FHHによる新しい公式展示企画として始まったのが「LAB」と名付けられた、時計技術の最前線を紹介する展示だった。この年、このブースの入り口に立っていたのは、ソフトバンクのロボット「Pepper」だ。筆者が海外で見たのはこれが初。その内容は、新しいケース素材、パソコンとつないで使う新しい時計の検査機器、VRを使ったバーチャルな時計選択シミュレーター、バーチャル時計装着アプリ。島精機製作所のホールガーメント(継ぎ目がない)ニットマシンを使って顧客の腕のサイズに合わせたストラップをその場で作る技術。時計ブランドのアーカイブをデータベース化して検索する技術……。その際、現場のスタッフを務めたのは、ジュネーブ市内の学校でデジタル技術を学んでいる学生や、時計メーカーに技術を提供している会社の人々。そして、時計ブランドのスタッフたち。

IWCの時計師がデモンストレーションしたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の「サイバールーペ」。ディスプレイにカメラが捉える手元の画像が映し出され、その中に文字や画像が表示できる。

 今回、2022年のW&WGの「LAB」では、IWCがリングライト、実体顕微鏡とモニターが統合され、時計の組み立て作業を支援するHMD(ヘッドマウントディスプレイ)「サイバールーペ」を、パネライが新素材のケースを、ショパールがエシカルゴールド関連の展示を、イギリスのオックスフォード大学関連のベンチャー企業が開発し、「レッセンス」が採用した超高効率のソーラーセルなどが展示されていた。

こちらはパネライの新素材ケースに関する展示。右手前にあるのが「eスティール™」関連の原料や素材だ。

ショパールの「エシカルゴールド」に関する展示。

こちらはユリス・ナルダンのリサイクルファブリックに関する展示。


日本にぜひ持ってきてほしい展示「TIME DESIGN」

 今回のW&WGには、LABとは別の主催者による新しい展示があった。それが時「TIME DESIGN」だ。プレゼンテーションVTRはW&WGのオフィシャルサイトでも視聴できる(https://www.watchesandwonders.com/content/waw/en/geneva-2022/)ので、ご覧いただきたい。

 これは時計デザインの過去・現在・未来を懐中時計の時代からさまざまな趣向で振り返るもの。古今東西、日本の時計も含めて時計史上エポックメイキングなデザインの時計の実物が、年代別にズラリと展示されている。しかも、そのセレクトが実にマニアック。プロの視線の見事なキュレーションにとにかく感心した。

このブースでは予約制のツアーも開催された。案内してくれたのは、FHHのWATCHMAKING EXPERTのジョアン・ランゲ(JOANN LANGE)さん(写真左奥)。

「TIME DESIGN」には、年代とテーマに沿って、時計デザイン史上、エポックメイキングなモデルがずらりと展示されていた。

 日本も含め、古今東西あらゆる時代の時計のポスターを42インチほどの縦型のディスプレイでスライドショートとして見せる展示も秀逸。

 そしてこの企画の一番のハイライトが、ブースの左奥1/4を占める「ジェラルド・ジェンタ」の特別展示。絵画を描くことも好きで“20世紀最高の時計デザイナー”と評価されるジェラルド・ジェンタ(1931-2011)の、クロックを含むエポックメイキングな作品、あの有名な「ロイヤル オーク」を含むデザイン画の数々をじっくり鑑賞することができる企画展示であった。

ジェラルド・ジェンタの企画展示。右奥のキャビネットの中にはデザインスケッチが収められ、引き出して鑑賞できる。

複雑機械式時計をいちはやく開発し、機械式時計ブームを引き起こした最大の立役者はジェラルド・ジェンタとミッシェル・ゴレイのコンビ。このモデルはその作品のひとつ。また贅沢なクロックの製作にもジェンタは力を注いだ。

 さらにブースの一番奥には、ジュネーブのアートスクールの学生たちがデザインした「未来の時計」の模型や、その説明VTRを放映するコーナーもあった。

未来の時計デザインの競作展示「THE FUTURE OF TIME?」。

 そしてブースの入り口右側には、VR技術を使った斬新な展示もあった。オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」、ショパールの「ハッピーダイヤモンド」、ピアジェの「ピアジェ ポロ」、ジラール・ペルゴの「ロレアート」、エルメスの「アルソー」、カルティエの「サントス」。それぞれのモデルの主要なデザイン要素、モチーフになったモノのオブジェがあり、iPadのカメラアプリでそのオブジェを撮影すると、モチーフから製品までのデザイン過程を経て、そのモデルの最終デザインがアニメーションとして浮かび上がる。


白いオブジェにiPadをかざすと、こんなアニメーションが現れる。

 これだけの展示は、W&WGだけではもったいないと思っていたら、W&WG終了後の4月14日から5月8日まで、ジュネーブのモンブラン橋の近く、ローヌ川の中洲にあるPont de la Machineでしっかり展示されたようだ。なお、ここはかつて「SWATCH HOUSE」など、スウォッチ グループのジュネーブにおけるエキシビジョンスペースだった場所である。

 現在はFHHのスペースになったので、もしジュネーブを訪れる機会のある方は、時間があればチェックしてみることをオススメする。運が良ければ何か、特別な展示会に遭遇できるかもしれない。


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