「勝手な延期と脅迫」でついに崩壊
そして、フェアの会場設営が3月2日から始まる直前の2020年2月28日、バーゼルは自爆ボタンを押してしまう。
「28日に国と州が発表した“大規模イベント禁止”に従うもの」として2020年4月30日から5月5日に開催予定だったフェア中止を発表する。これ自体は仕方がないことだし、当然のこと。
ところが、この中止に加えて伝えられた驚きの内容に、出展社やスイス時計業界は騒然となる。この春のフェアを「バーゼルワールド2021」として、何と半年後の2021年1月28日〜2月2日に行うと、出展社への相談もなく一方的に発表してしまったのだ。
原因はやはり「焦り」だろう。ジュネーブのW&WGがいち早く2回目(2年目)のオンライン開催を表明したのに、バーゼルはそれができなかった。「何とか、無理してでも開催しよう」という姿勢だったのだ。
この焦りが、出展ブランドにとって「寝耳に水」となる「2021年1月に延期開催」というバーゼルワールド事務局の「勝手な決定」につながった。さらにひどいことに事務局は、出展料を人質にして、この延期開催を受け入れるように事実上「脅迫」したのである。
この「勝手な決定と脅迫」の結果、バーゼルワールドの出展社委員会と事務局は当然のことながら対立し、厳しい交渉が行われたようだ。
地元紙は「事務局はすでに、出展社が前払いした出展料の大半を使ってしまった」と報道。だが、出展社委員会は中小の時計ブランドの出展料については、無条件・減額なしの返金を要求。この条件を認めさせた。
そして2020年4月14日、出展社委員会のまとめ役だったロレックス、そしてパテック フィリップ、ショパール、シャネル、チューダーの5ブランドは、バーゼルワールドからの撤退を表明。さらに同年4月17日、LVMHグループの時計ブランドも同様に撤退を表明する。これでバーゼルワールドからビッグブランドが消えたのだ。
さらに続く「最悪の対応」
ところがこの5ブランドの撤退について、バーゼルワールド事務局は謝罪することなく「当惑している」という言葉で不満を表明。その後、批判を受けて事務局は最終的に謝罪。さらに「2021年1月での延期開催」を撤回。最終的には中止を発表した。
しかも迷走はさらに続く。2020年10月には突然、フェアの名称を「バーゼルワールド」から「HOURUNIVERSE(アワーユニバース)」と変えて2021年春に開催すると発表した。だが出展ブランドが集まらなかったのだろう、11月12日には「2021年のバーゼルでのフェア」の開催中止が発表される。
さらに驚くべきことに2021年に入っても、迷走と最悪の対応はまだまだ続いた。
6月23日、親会社であるスイスのMCHグループが突如「バーゼルワールド is back.」というプレスリリースを発表。そしてYouTubeの公式チャンネルに2分間の告知動画、そして約40分間に及ぶバーゼルワールドのマネージングディレクター、ミシェル・ロリス-メリコフ氏が出演したライブカンファレンス動画を配信する。
そこでまず語られたのは、フェアの名称を「HOURUNIVERSE(アワーユニバース)」から伝統のある「バーゼルワールド」に戻すこと。そして2022年春にフェアを復活させること。さらに、フェアを世界各国で巡回開催するというアイデアだった。
ジュネーブに真正面から「喧嘩を売った」愚
動画を配信直後に偶然見つけて視聴した筆者が何よりも驚き呆れたのは、復活したバーゼルワールドの開催日程だった。2020年、ふたつのフェアは、久しぶりに世界中から来場する時計関係者の利便性を考えて、開催日程を調整していた。
ところがバーゼルワールドが発表した2022年の日程は、ジュネーブで開催されるW&WGより開催期間は短いのに、わざわざW&WGの開催期間中に、つまり「完全にかぶる」ように設定されていたのだ。
これはジュネーブにわざわざ「喧嘩を売る」行動としか思えないし、まるで遠路はるばるスイスにやって来た時計関係者に、どちらに参加するか「踏み絵」を迫ることでもある。この信じられない傲慢さには、もはや「付けるクスリ」はない。
時計ブランドや世界中から集う時計関係者に対する、この「どこまでも傲慢な姿勢」。今、改めて振り返ってみると、これがバーゼルワールド消滅の最大の原因だった。
どんな栄華にも「終わり」はある
「平家にあらずんば人にあらず」。こう言ったのは、最近の歴史研究で、優れた貿易政策が再評価されている平清盛(1118〜1181)とその一門とされる。
バーゼルワールドに出展しなければ、世界が認める時計ブランドにはなれない。世界とビジネスはできない。
これは確かに2000年から2010年頃、時計業界で囁かれていた「常識」だった。そのくらいバーゼルは偉大だったのだ。
でも、人も組織も、絶対的な存在になると思い上がり、唯我独尊になる。そして大きな過ちを犯すもの。これは私たちが今まさに、政治経済文化で体験していることでもある。
バーゼルは時計業界にとって、時計文化にとって偉大な存在だった。たた、あなたたちは間違えたし、間違えを修正できなかった。だから終わった。偉大な過去の歴史になった。
ありがとう。でもさようなら、バーゼル。
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