独立系時計メーカーであるチャペックは、「アンタークティック」をはじめとした需要の大きな高まりに対応するため、ラ・ショー・ド・フォンに拡張した新工房を設置し、生産体制を整えるため受注を1年にわたり停止した。そして2022年春、「アンタークティックS」の発表とともに復活を果たした。同ブランドを率いるザビエル・デ・ロックモーレルに話を聞いた。
Text by Pierre Maillard
2022年8月13日掲載記事
受注停止の決断に見るブランドの未来への確信
他の高級時計ブランドと同様、チャペックも急激な需要の伸びを記録している。この「急激な伸び」の傾向はここ2年間ほどで特に強まっており、特に"ラグスポ"という現代で最も人気のあるジャンルに合ったモデルを提供することで、大きな利益を得てきた。チャペックの場合、それがフラッグシップモデルである「アンタークティック」であり、現在、受注の80%を占めている。
200もの株主を有する、独特なビジネスモデルを持つ同ブランドのトップであるザビエル・デ・ロックモーレルは、2016年の最初のモデルの発表以来、ブランドの歴史的名前を舞台の中央に引き上げ、山を動かしてきた。この起業家はあらゆるショーや発表会に臨席し、ブランドが訴求する大いなる伝統と現代的なテイストの適切なバランスを見出すべく、新しい美学と商業の道を模索してきた。以下は同氏へのインタビューである。
ヨーロッパスター:「アンタークティック」の受注を1年保留とされました。この傾向は最近、グロネフェルドなどの他の独立系時計メーカーにも見られます。これは成功の代償なのでしょうか?
ザビエル・デ・ロックモーレル:アンタークティックは、もはや需要に追いつけないほど、私たちを異次元の世界へと押し上げました。昨年の夏にグロネフェルドが決定を発表したときに私は当惑しましたが、数カ月後には同様の事態に陥りました。チャペックには受注残が2800件あり、そのうち約80%がアンタークティックです。年産は800本を超えません。株主たちは、これはブランドにとっての安全策であり、保護する方法であるということで合意したのです。
ヨーロッパスター:年産に上限を決めているのはなぜでしょうか?
ザビエル・デ・ロックモーレル:これらのモデルには自社製ムーブメント、キャリバーSXH5が搭載されているので、望むままに生産能力を拡大できるわけではありません。しかし適切な生産体制を構築するためには、いつアクセルを踏み込むべきかを知っておかなければなりません。そこで、ラ・ショー・ド・フォンに、ル・ロックルの約5倍の広さの新工場を建設しました。そして人材の採用活動も行っています。私たちは何年も待つようなウェイティングリストのシステムを望んでいるわけではありません。未処理案件を積み重ねるのではなく、適切な形での成長を望んでいるのです。
ヨーロッパスター:年産はどこまで伸ばせると思いますか?
ザビエル・デ・ロックモーレル:まず、どれくらい私たちが成長したかについてお話させて下さい。2016年から2020年の間に合計で500本の時計を生産しました。そして2021年は300本。2022年はおそらく800本というところでしょう。将来的な数値目標はありませんが、年産5000本を超えるつもりはありません。3000から5000本あれば十分でしょう。特別性を保ちながら、需要に応えたいと考えています。アンタークティックは現行コレクションの展開ですが、スプリットセコンド仕様のみが限定となります。
ヨーロッパスター:チャペックで現在、最も人気のあるモデルは、ケースサイズを直径38.5mmに抑えた「アンタークティックS」でしょうか。
ザビエル・デ・ロックモーレル:確かにウォッチズ&ワンダーズでの発表以来、このモデルは新規受注の半分を占めています。自社製キャリバー搭載という点は変わりませんが、ケース、ブレスレット、文字盤には多くの見直しを行いました。オリジナルモデルより3mm小さいケースを作るには、ただサイズダウンをするのではなく、1から作り直す必要がありました。ケース全体を再設計し、全体の厚さと新しい直径を含む全てのプロポーションが完璧となるようコードを書き換えました。
アンタークティックSのデザインについては、パートナーであるAB コンセプト社とメタレム社と緊密に連携して取り組みました。文字盤の仕様はすでに3種類発表されています。「Stairway to Eternity – 永遠への階段」と名付けられたトラぺゾイド(台形)パターンがあしらわれたフランケ・ダイアルのブルーモデルと、サーモンカラーモデル。そして地球上で最も希少な貴金属のひとつであるオスミウムを文字盤に使用したモデルです。カラーバリエーションはさらに増える予定です。多くの新しい文字盤を開発中で、受注再開までに準備を整える必要があります。
ヨーロッパスター:急成長を目の当たりにしながら冷静でいられるようにするには、どのようにしていますか? そこには危険も潜んでいると思いますが。
ザビエル・デ・ロックモーレル:私たちはこれが認知されるきっかけになると考えていますが、それでも私たちは時計作りへの情熱に突き動かされ、時には世の中の流れに逆らうこともあります。アンタークティックを発表するにあたって、私たちは一生懸命に準備を行いました。そしてコロナ禍は私たちに「0か100か」の状況を提示しました。会社が潰れてもおかしくない状況でしたが、私たちは努力を重ね、コストを度外視して事業を推進し、2020年5月にこのコレクションを発表するというリスクを取りました。結果的には、適切なタイミングで適切なモデルであったことが判明し、現在では需要に追いつけないほどです。私たちは波に乗ることを学ぶ前に、杯を飲み、船をこぎ続けなければなりません。
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