1/100mmを削ぎ落とす技術 リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」

2022.08.05

フェラーリとのパートナーシップ契約に基づき、リシャール・ミルが発表した「RM UP-01 フェラーリ」。驚異的な薄さと、2億円を超える価格に話題が集中しているようだが、この時計の本質は実用性の高さにある。コンセプトウォッチ並みの薄さを実現させつつ、実用に足る耐衝撃性を確保した手腕に、リシャール・ミルの良心が光る秀作だ。

RM UP-01 フェラーリ

鈴木裕之:構成・文 Edited & Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年9月号掲載記事]


リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」

Cal.RMUP-01

APLLと共同開発されたCal.RMUP-01。厚さ1.18mmに対し、ムーブメントサイズは横41.5×縦28.85mmもあり、非常に大面積のムーブメントだと分かる。地板はグレード5のTi製。

 リシャール・ミルが、フェラーリとの長期的なパートナーシップを発表したのは2021年2月のこと。熱狂的なティフォシたちに支持されるこのブランドは、F1の名門コンストラクターであるだけでなく、多様なレースカテゴリーへの挑戦を続けてきた。リシャール・ミルは、才能育成の場であるフェラーリ ドライバーアカデミーはもとより、ワンメイクレースのフェラーリチャレンジなどへのサポーター活動を表明。同時にフェラーリグループ全体のオフィシャルウォッチパートナーとなった。

 これまで数々のエクストリームウォッチを手掛けてきたリシャール・ミルが、新たなパートナーシップからどんな時計を生み出すのか? その興奮は、おそらく誰もが予想しなかったカタチに結実した。フェラーリの名を冠した初作「RM UP-01フェラーリ」は、コンセプトウォッチ級のウルトラフラット=超薄型時計として発表されたのだ。

Cal.RMUP-01

Cal.RMUP-01

Cal.RMUP-01

スケルトナイズが施された薄型の高速回転バレル。香箱の高さ(=主ゼンマイの幅)を最大限に確保するためか、香箱の上下に受けは設けられず、外周部分が4点のブッシュ(ベリリウムカッパー製)で保持されている。大面積の地板を活かして、基本輪列のオフセット化も徹底されており、2番車(写真1枚目でピンセットがつまんでいる歯車)と香箱の間にも伝達中間車が設けられている。2番車と伝達中間車の減速比は1:1のようなので、重なりを避けるための配慮だろう。なおストラップを含む時計全体の重さは28.5gだが、ヘッド部分の重量はわずか11.2gだ。

 幅広のトノーシェイプを持ったRM UP-01のケース厚は1.75mm。これまでにも、時計全体で厚さ2mmを切るような機械式時計はいくつか前例があるが、そのどれもが薄さを追求するあまり、ケースバック一体型の地板を備えていた。ケースをそのままムーブメントの一部として使えば、針の高さと風防部分の厚みを加えるだけで、超薄型時計を実現できるからだ。誤解を恐れずに言えば、これまでに開発されたアンダー2mmのモデルは、時計そのものが板のような構造だった。

Cal.RMUP-01

ムーブメントの空白部分に収納されるふたつのリュウズ。上側がファンクションセレクター、下側が巻き上げと針回しを受け持つ。リュウズ自体はSS製で、外周にブラックセラミックス製のインサートを噛ませることで防水性を確保。

Cal.RMUP-01

ふたつのリュウズとパッキンを組み込んだ後に、超薄型のムーブメントがケーシングされる。バックケース内側の梨地はウェットブラスト加工。ベゼルに相当する外周部分は、ケース厚いっぱいのリブになっており、剛性も十分だ。