今回インプレッションする「DWE-5600CC-3」は、G-SHOCKとして初めてベゼルとバンドの両方を交換可能としたモデルだ。既に生産完了品であるが、今後のG-SHOCKのラインナップの中で重要な意味を持つモデルであると考えて取り上げた。外装交換を実現したことで何が変わったのか、変わらなかったのか。この点に着目して述べたい。
Text & Photographs by Shinichi Sato
2022年9月1掲載記事
スタンダードモデルから「変わった」点は何か? が今回のテーマ
クォーツ(モジュール3229)。樹脂(48.9×43.8×13.7mm)。重量54g。20気圧防水。3万800円(税込み)。
インプレッションする「DWE-5600CC-3」は、G-SHOCKとして初のベゼルとバンドの両方を交換可能としたモデルである。フォルムは「オリジン」シリーズに準じつつ、カーボンコアガードを採用した。外装に細かな差異はあるが、それに気が付くのは熱心なファンぐらいであろう。
本作がベースとするオリジンシリーズのスタンダード「DW-5600E-1」は、高い耐衝撃性や堅牢性を持ちながら軽量で、使い心地の面で減点要素が非常に少なく、極めて普通で完成度が高い。では、外装交換を可能としたことで本作は何が変わったのか? というのが今回のメインテーマである。
DWE-5600CC-3の特徴
本作には2種類のベゼルと3種類のベルトが付属する。ふたつあるベゼルのうち、ひとつめのデザインテーマは電子回路だ。暗い緑のベースに金色の模様が見える。もうひとつのデザインテーマはオリジンのイメージカラーとなるブラックである。
本作に採用される電子回路のデザインは、G-SHOCKのDW-5600(以下、オリジン)のムーブメント基板(回路)を模している。この模様は、一般にパターンやアートワークと呼ばれるもので、実際の電子回路では、電気を通したい部分にだけ銅などの導電素材を残すことで描かれている。
金色で表面に現れている部分には、実際には電子部品が実装されたり、コネクタが接続されたりする。それ以外の部分はショート(短絡:想定外の部分に電気が通ってしまうこと)しないようにレジストとよばれる絶縁材が塗られている。基板が緑に見えるのは、緑のレジストが用いられているからだ(他の色も存在する)。基板=緑のイメージが定着しているのは多くの基板で緑のレジストが使われているからで、G-SHOCKの基板も同様だ。これを模した本作は、室内ではくすんだ緑であるが、光にかざすと鮮やかな緑色となり、レジストの色を表現している。
また、光にかざすことで、レジストの下に隠されたパターンが浮かび上がる。じっくり観察してみると、この部分はメインのICと液晶の接続部分ではないか? とか、プルアップ抵抗を配置しそうなパターンだ! と、しばらくは楽しめる。
ではベゼルとストラップを外してみよう。ストラップはクイックリリースタイプであるのでレバーを動かして取り外す。オリジンはクイックリリースタイプでなく、バンドの取り外しにコツを要するので本作の方式はありがたい。
ベゼルはロックやネジでシステマティックに取り付いているのではなく、それなりに外装を歪ませながら剥がすといった印象だ。操作ボタン部分さえ注意すれば、簡単に着け外しが可能である。
着実な改善が見て取れる着用感
装着感は軽快でフィット感が良い。ここで正確に評価するために、オリジンからDW-5600E-1にベンチマークとして登場してもらおう。
DW-5600E-1はストラップの取り付け部分の動きが悪く、ラグ裏部分に隙間を生じやすい。筆者のように手首の周長が17.5cmほどあればフィット感は良好だが、腕の細い方は気になる可能性が高い。また、筆者の手首の太さでもラグ部分は浮き上がって見えやすい。
これに対し、DWE-5600CC-3の方がストラップの取り付け部の可動域が広く、ラグ部分の浮きが少なくなってフィット感に優れる。これは以前にインプレッションしたGA-2100シリーズでも採用されている手法である。わずかな改善だが効果は絶大で、よりコンパクトでスマートな印象を生み出し、シャツの袖との干渉を低減する効果も見込める。装着感と見た目の両方に優れると言えるだろう。従来モデルでラグ部分の浮きが気になっていた人にとっては、この差は大きいと感じるはずだ。
DWE-5600のラインナップの立ち位置を考察
DWE-5600のデビューをきっかけに、カシオはDWE-5600をベースモデルとしたパターンオーダーシステム"MY G-SHOCK"を開始した。時計のパターンオーダーを受け付けるブランドは増えたが、MY G-SHOCKはその中でも劇的に印象を変更可能なシステムになっている。これは、フェイスやベゼル、ストラップといった面積が広い部品を、多くのカラーバリエーションから選択可能としており、6時側、12時側、バンドループで別の色を指定可能である。しかもこれが、オプションを含んでも2万円でお釣りが返ってくる価格なのだ。
さて、MY G-SHOCKの特徴から考えて、そのメインターゲットは熱心な時計ファンではなく、ストリートファッションのファンであると筆者は考えている。ストリートファッションにおけるパターンオーダーの好例は、ナイキの"Nike By You"だ。複数のパーツの配色を選択可能で、その組み合わせによって自分だけの1足を作り上げることができる。
MY G-SHOCKの価格帯はNike By Youとほぼ同等である。そして、MY G-SHOCKで選択可能な各部品の見える面積は広くてカラーバリエーションも豊富だ。そのため、全身のコーディネートの中の挿し色として効果的であるし、自分のパーソナリティーを表現するのに適したアイテムだと考えられる。この点はスニーカーと共通点を感じる。カモフラージュ柄としてウッドランドとデザートの2種類が用意されている(渋い!)点や、ファッションブランドのデザイナーとコラボレーションする点から見ても、そのターゲットは明白である。
ストリートファッションと深く結びついてきたG-SHOCKにとって、MY G-SHOCKはブランドイメージ構築や収益の観点で非常に重要なサービスであることが想像できる。その成否を左右するベースモデルとしてDWE-5600が開発されたとなると、本作の開発の重要度は高かったに違いない。