チューダーの中でも、機能を前面に打ち出したのがダイバーズウォッチのペラゴスだ。そこに新しく加わったのが、直径39mmの「ペラゴス 39」である。ケースを小さく薄くした本作は、どこでも使えるツールウォッチの決定版と言えそうだ。しかも内容を考えると、価格は相変わらず戦略的だ。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
2022年9月2日公開記事
直径39mm、しかも軽い!
2012年にリリースされたペラゴスは、自社製ムーブメントを載せることで、基礎体力を大きく高めた。チタン製の外装、500mもの防水性能、そして約70時間もの長いパワーリザーブに戦略的な値付けは、チューダーならではのものだった。もっとも、軽いチタン製とはいえ、42mmというケース径は万人向けとは言いがたかった。ペラゴスはあくまでも、プロフェッショナル向けのツールウォッチ、という位置づけだったのだろう。
自動巻き(Cal.MT5400)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径39mm、厚さ11.7mm)。200m防水。シリコン製ヒゲゼンマイと脱進機。フリースプラングテンプ。53万7900円。2022年9月発売予定。
そんなペラゴスを、一般向けに改めたのが新しい「ペラゴス 39」だ。ケース径が41mmから39mmに小さくなったほか、防水性能を500mから200mに落とすことで、ケースも薄くなった。飽和潜水には対応しないが、水遊びで使うには十分だろう。そんな性格の違いを感じさせるのが、回転ベゼルの仕上げだ。セラミックス製のプレートは既存モデルに同じだが、ペラゴス 39の仕上げはマットからサテンに改められた。わずかな違いだが、より広い用途をイメージしたためか。また文字盤にも、わずかにサテン仕上げが施された(ただし屋内では分からなかった)。
チューダーの細かい配慮を感じさせるのが、新しいインデックスである。既存のモデルは金属製の枠にスーパールミノバを流し込んでいたが、ペラゴス 39は、枠が省かれ、発光性セラミック混合物を用いたモノブロック アワーマーカーとなった。つまり、1枚板のインデックスというわけだ。ケースの縮小に伴いインデックスも小さくなったが、発光量は落とさない、ということだろう。
時計のサイズは直径39mm、厚さ11.7mm。ブレスレットを含めても、時計の重量は約110gしかない。500m防水のペラゴスが約140g(それでも十分軽いが)と考えれば、さらに軽量だ。コマを詰めて腕に巻かなかったので厳密にはわからないが、時計部分とブレスレット部分の重量バランスは良好に思える。
ケースの素材は、今流行りの通称「グレード5」チタンではなく、純チタンのグレード2だ。チューダーによると、その色がツールウォッチにふさわしいため、あえてグレード2を選んだとのこと。グレード5にするとぱっと見の高級感は増すが、チューダーはツールであることを優先したわけだ。そこに全面サテン仕上げを加えることで、ツール感がより強調されている。なお、切削で仕上げた外装は、丁寧に角を落としてあり、肌を傷つける心配は少ないだろう。ラグの先端は1960年代のアンティークウォッチよろしく尖っているが、微妙に角が落とされている。
チタン製のブレスレットとバックルはモンスターだ
チューダーの魅力は、非常に凝ったブレスレットとバックルにある。バックルのロック機構はセラミックのボールで支えられており、すべてが微調整機構付きだ。ペラゴス 39はその集大成ともいえる出来映えで、まず、着け心地に不満を覚える人はいないのではないか。
バックルにロックをかけるセーフティキャッチと、ダイビングスーツの上から簡単に着用できるエクステンションリンクは従来に同じ。その作りは相変わらず良い。加えて、フォールディングクラスプ内蔵された微調整機構がバネ式から、他モデルでもおなじみの“T-fit”に変更された。
ディテールを見れば、完成度の高さは言うまでもなし、だ。例えばエクステンションリンクとセーフティキャッチをロックするための突起。チューダーの最新作に同じく、この部分にはセラミックのボールが使われている。しかし、チタン製の部品をセラミックのボールで固定すると、チタンが摩耗して、ロックは外れてしまう。そこでチューダーは、チタン部品の一部にステンレスを埋め込んで、この部分の摩耗を抑えた。筆者の見た限り、ここまでの配慮を加えたチタン製のブレスレットとバックルは他にない。
こういった作り込みは他の部分も同じで、裏蓋の素材はチタンではなくステンレススティール製である。チタンのケースにチタンの裏蓋をねじ込むと、固着して外れなくなる場合がある。それを避けるため、チューダーはステンレススティール製の裏蓋を採用している。またブレスレットに使われるネジ、バー、そしてバネ類もステンレススティール製である。理由は明らかでないが、やはり、チタン同士の固着を避けるためだろう。
自動巻きムーブメントは言わずもがな、出来がいい
ペラゴス 39が搭載するのは、「ブラックベイ58」でおなじみのキャリバーMT5400だ。直径30.3mm、厚さ5mmで、シリコン製のヒゲゼンマイと脱進機、フリースプラングテンプと、極めて巻き上げ効率の高いリバーサー式の両方向自動巻きを備えている。
地板だけを縮小したキャリバーMT5402(直径26mm、厚さ5.0mm)を採用しなかった理由は、おそらく、サイズが大きいためだろう。仮に小さなキャリバー5402を採用したら39mmサイズで500m防水は実現できただろうが、時計は重くなったに違いない。それを避けるため“余白”の大きなキャリバー5400でヘッドを軽くした、と考えるのが妥当だろう。
さておき、ムーブメントの性能については、文句の着けようがない。磁気帯びしにくく、ショックに強く、そしてデスクワークでも巻き上がるキャリバーMT5400系は、ペラゴス 39にはうってつけのムーブメントであるはずだ。
ダイバーだけでなく、上質な実用時計が欲しい人に
そもそもツールウォッチとして作られたペラゴスは、分かりやすい高級時計ではないし、同じ価格であれば、もっと見栄えのする時計はほかにもある。しかし、ブレスレットやバックルが示す入念な作り込みや、手頃なサイズ、そして優れたムーブメントを持ちながらも、あえてツールウォッチに留まったペラゴス 39には、かつてのIWCが持っていたような、固有の魅力がある。
もしあなたが、質のいい、しかし酷使できる時計を探しているならば、本作はうってつけのモデルになるだろう。本作は、仕上げやステータスを自慢するような時計ではない。しかし、長く使って、愛着が湧く時計に違いない。9月の発売が、本当に待ち遠しい1本である。
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