ダイバーズウォッチがクリアすべき重要な機能や性能について、旬な現行モデルの紹介も交えながら紹介する。今回は機械式ダイバーズウォッチの技術詳細を、ISO規格の観点を中心に理解を深めていきたい。今後のダイバーズウォッチの購入時に役立つヒントとなるだろう。
Text by Roger Rüegger
(2022年9月6日掲載記事)
ダイバーズウォッチのISO規格
ダイビング中は常に時間に注意を払う必要があることから、ダイバーズウォッチは厳格な基準が設けられている。密封性や防水性に関する特別な検査は、これらに準拠しているかどうかを示してくれる。正確に定義された手順に従い、ダイバーズウォッチが使用時に直面する負荷を再現するのである。
そのひとつが、国際標準化機構のISOだ。ISOとは、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関 International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称である。一般用の防水ウォッチの防水性に関する国際規格は、1972年に国際規格ISO 2281として制定公布された(編注:日本時計学会誌Vol.112参照)。これは腕時計を水中での短期間の運動中に使用することを意図したものである。
ドイツでISO 2281を元に定められたのがDIN 8310だ。ドイツブランド、ジンの「EZM13.1」はDIN 8310の防水性要件を満たすだけでなく、そのケースはISO 6425を元にしたダイバーズウォッチ規格DIN 8306の技術要求も満たす。また世界で初めて欧州ダイバー器具規格に準拠した時計を製造しており、同モデルは船級協会であるDNV(旧DNV GL/ゲルマニア・ロイド船級協会)でも、欧州ダイバー器具規格EN250およびEN14143に準拠したダイバーズウォッチとして機能することが確認されている。EZM13.1のステンレススティールケースは50気圧防水で、かつ外れにくさを極めた特殊結合方式の回転ベセルを備える。またドライカプセルの搭載、EDRパッキンの使用、プロテクトガスの充墳という3つの技術的要素により時計を湿気から守る除湿機構、Arドライテクノロジーも装備。リュウズとプッシュボタンは衝撃からの保護と誤作動を防止のため、9時位置の配置となっており、プッシュボタンは水中での操作が可能。ステンレススティール製ブレスレットにはエクステンションが付属する。
ISO 2281に対し、プロユースのダイバーズウォッチ向けに定められたのがISO 6425だ。改訂を繰り返しており、2018年版が現時点で最新である。なおダイバーズウォッチとは「少なくとも100mの潜水に耐え、かつ時間を管理するシステムが備わる時計」、「その125%の水圧に耐える防水性能を有する」と定義される。
ISO 6425では、ダイバーズウォッチは以下の基準を満たす必要がある。ISO 2281より厳しいものであり、このISO 6425を厳格に守っている市販モデルは決して多くない。
1.タイムプリセレクティング装置/事前に時間設定が可能な装置、逆回転防止機能付きのベゼルなどを備えていること。
2.視認性/暗所で25cmの距離から時刻や時計の作動状態を判読できること。
3.耐磁性/4800A/mの直流磁界中で日差30秒以内を維持すること。
4.耐衝撃性/3kgのハンマーで打撃を加えても日差60秒以内を維持すること。
5.耐塩性/濃度3%の塩水中に24時間放置してもサビや異常が生じず、かつ回転ベゼルなども正常に作動すること。
6.水中での信頼性/水深30cmで回転ベゼルなどが正常に作動すること。
7.耐外力性/バンドを締めた状態で200Nの力で引っ張っても耐えられ、リュウズに5Nの外力を加えても異常が生じないこと。
8.耐熱衝撃性/40℃と5℃の水中での温度変化に耐えられること。
9.耐浸漬性/水深30mに50時間浸漬した後でも風防内に曇りが発生しないこと。
10.水中加圧/表示圧の1.25倍の圧力を水中で2時間加圧しても時計内部への浸水がなく、時計が作動し続けること。
11.耐ヘリウムガス性/飽和潜水用時計は、ヘリウム混合ガス加圧試験を実施し、機能異常がないこと。
ISO 6425の基準すべてに準拠するダイバーズウォッチが、セルティナの「DS アクションダイバー」だ。同モデルは2022年より傷の付きにくいセラミックスの逆回転防止機能付ベゼルを採用している。これは押し込んだ状態の時だけ操作することができるもので、ブランド独自の二重セキュリティを実現するものだ。ムーブメントには非磁性合金ニヴァクロン製のヒゲゼンマイが搭載されている。
DIN 8306およびISO 6425に規定された要件をすべて満たしているだけでなく、24日間にわたる苛酷な一連の耐久性テスト(Excellence Test)をクリアしている腕時計がグラスヒュッテ・オリジナル「SeaQ パノラマデイト」だ。この腕時計の防水性能は30気圧、つまり300mである。大きな矢印型の分針は、回転ベゼルを使用した際に瞬時に経過時間を確認することが可能であり、実際のダイビングシーンを考慮したデザインであることが分かる。ムーブメントには約100時間のパワーリザーブを誇る、同社の基幹ムーブメント「Cal.36-13」が搭載されている。
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