CommeʼN TOKYO(世田谷)/この世ならぬ美味のクリエイター

2022.09.09

大澤秀一氏率いるパン職人たちが笑顔で出迎えてくれる「CommeʼN TOKYO」。近隣から遠方まで、幅広い層のファンで絶え間なくにぎわう、その魅力に迫る。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2022年9月号掲載]

クロワッサンA・O・P

クロワッサンA・O・P
世界大会で優勝したレシピを踏襲したクロワッサン。生地は少し高めの温度でしっかり発酵させ、翌朝からフランス産の良質な発酵バターを贅沢に折り込んで見事な層に焼き上げる。外はサクサク、中はしっとり。凛とした艶やかな佇まいで、まさに才色兼備。きび糖を使用した優しい甘さは、父譲りのこだわり。頬張るごとに、豊かな風味が広がっていく。


心弾むパンに職人の神髄を知る

大澤秀一

大澤秀一(Shuichi Osawa)
1986年、群馬県生まれ。奈良の「石窯パン工房 Capital」で修業をスタートした後、実家の「パリジャン」で働く。2012年より神戸の「ÇaMarche」で研鑽を積む。19年、パンの世界大会「MONDIAL DU PAIN」で総合優勝に輝く。20年に「CommeʼN TOKYO」、22年5月に「CommeʼN GLUTEN FREE」を開業。

 パン屋を営む両親のもとで生まれ育った大澤秀一氏は、何の迷いもなくパン職人の道へ進んだ。修業先や実家で経験を積み、いったんは独立を果たすものの、修業し直したいと思い立ち、26歳の時に夜行バスに乗って神戸へ向かう。兼ねてより憧れていた「Ça Marche(サ・マーシュ)」の西川功晃氏に直談判すると、師事することが叶った。この時から、当たり前のように存在していたパンへの意識が大きく変わる。

「西川シェフは、まるで赤ちゃんに触れるように、生地を両手で包み込みます。その精神はパンだけにとどまらず、お客様に対してはもちろんのこと、材料を届けてくれる業者さんに至るまですべてにおいて丁寧で真摯なんですよ」。そう話す大澤氏も、実に愛おしそうにパンに触れ、誠実にパンを語る。「Comme’N(コム・ン)」とは、「西川シェフのように……」という敬慕の想いから付けられた店名だ。それを伝えた際には、恥ずかしいからやめなさいと言いながらも、後日200通りものロゴのサンプルを送ってきてくれた。

 東京都世田谷区九品仏にある「Comme’N TOKYO」がオープンしたのは2020年夏のことだが、その始まりは2018年にさかのぼる。地元の群馬県高崎市の駐車場に建てられたプレハブ小屋で、世界最高峰の国際製パンコンクール「MONDIAL DU PAIN」を目指し、見事世界一に輝いたのだ。しかし、大澤氏はその称号に重きを置かない。

「普通の町のパン屋です。パン職人は、パンを作るのではなく、パンを食べて幸せになってもらうことが仕事。訪れてくれた方全員というのは難しいのですが、作業しながらでもできる限り目を合わせて出迎え、ドアを出て行くところまで見届けたいという思いで、オープンキッチンのスタイルにしています。パンを挟んでお客さまと会話をすることはとても大切です」

「Comme’N」の店頭でパンを選ぶ時間、実に居心地がいい高揚をもたらしてくれる。パンを口にすれば幸福な気持ちに満たされ、そして、また自然と足が向かう。


CommeʼN TOKYO(コム・ン トウキョウ)

CommeʼN TOKYO

“何もない場所”を表現したコンクリートに群馬県産の木材を合わせた内装。そこに50~80種類ものパンが並ぶ。2台の窯を離して設置することで、両サイドから漂ってくる焼きたての香りに包まれる。

東京都世田谷区奥沢7-18-5 1F
火曜・水曜定休
7:00~18:00
https://commen.jp/


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