魅惑的な水面下の世界と神秘的な深海は、プロアマ問わず世界中のダイバーたちを魅了し続けている。温暖なビーチが好きな人もいれば、ひんやりとした山間の湖を好む人、そして氷の下の水中を愛する人さえいる。時代やニーズに応じてダイバーズウォッチも多種多様に進化を遂げている。今回はダイバーズウォッチが備える特徴的な機能を、現行モデルの数々と合わせて紹介する。
Text by Roger Rüegger
(2022年9月7日掲載記事)
気圧表示
バール(bar)は、圧力の単位のひとつである。1気圧は1平方センチメートルに対して1kgの圧力が垂直に掛かかっている状態だ。10mの高さの水柱から生じる程度と同等であり、水はほとんど圧縮できないことから、10mの水圧は1気圧となる。
1気圧の違いは取るに足らないように思えるかもしれないが、この表示は防水テストで加えられた試験数値であることを知っておいてほしい。プロフェッショナル向けのダイバーズウォッチは、少なくとも20気圧の水圧に耐える必要がある。
逆回転防止機能付きベゼル
ダイバーズウォッチには、事前に時間設定が可能なタイムプリセレクティング装置が求められる。もっとも一般的なのが、1方向にのみ回転する逆回転防止機能付きベゼルだ。これは潜水経過時間を表示する役割を果たすものだ。針同様にベゼルのマーカーも暗所で25cmの距離からの判読が求められ、特に12時位置のマーカーの視認性は重要となる。このベゼル位置は潜水直前、または水中で合わせられるため、ネオプレングローブの着用中でも操作しやすいように、つかみやすいものでなければならない。ダイバーズウォッチの中にはベゼルの取り外し可能なモデルもあり、これは毎回の潜水終了後に真水で洗う際に快適さをもたらすだろう。
多くのベゼルが、最初の15分間分の目盛りを備える。減圧停止を要さない水深33mまでの一般的なダイビングにおいて、15分が最大潜水時間の目安とされるという説明がこれに当てはまるだろう。15分の目盛りによりダイバーは自身の潜水時間がどれぐらい残されているか正確に知ることができるのだ。
耐浸漬性の確保
高い防水性能にも関わらず、湿気がケースに入り込むことはある。水に飛び込んだり、泳いだりすると、想定よりも高い水圧が短時間にかかるあるのだ。特に危ないのが長時間の日光浴のあと、水に飛び込んで時計が急激に冷却される場合だ。水面にぶつかったときの圧力と、冷却による負圧が重なると、より早く水分が時計に浸透してしまうのである。時計内部に湿気が確認された場合、すぐに時計修理職人に見てもらう必要がある。
視認性の確保
堅牢性や防水性に加え、水中での視認性の良さは、趣味のダイバーからプロフェッショナルダイバーまで非常に重要なポイントとなる。何しろ水深10mでも非常に暗い環境となるのためだ。そのため、針や回転ベゼルの目盛りには蓄光素材の塗布が欠かせない。
特にダイバーズウォッチのベゼルは深海でも容易に視認、操作ができなければならない。風防下にある空気の反射により水中下での視認性は低下もしくは視認不能となるため、基本的にダイバーズウォッチの風防には無反射加工が施してある。
ダイバーズウォッチ向けブレスレット
ダイバーズウォッチにステンレススティール製ブレスレットは最も多い組み合わせだろう。通常ブレスレットには、ウェットスーツの上から長さを調節できるエクステンションが付属している。しかし傷の付きやすさも気になるところだ。そこで代替案としてラグ部分の折りたたまれたラバーストラップもある。このストラップは、必要な長さに調節できるだけでなく、水中の水圧の変化により適応性がある。ダイバーがより深く潜水すると、ウェットスーツは増加する水圧によって薄くなり、時計が滑り落ちる危険性がある。上昇の際にはそれと反対の現象が起きる。
耐塩性の高い素材
塩水の作用は強く、時計の素材をだんだんと腐食させていく。そのためケース素材は耐塩水のものである必要がある。ステンレススティールの場合、耐孔食指数(PRE)でそれが分かる。高ければ高いほど、塩水に対する時計の耐性が高くなるのだ。その数値が32であれば、海水に耐えるものとなる。腕時計に多く用いられる「316L」は最大26のPREとなり、「904L」では35程度となる。それを上回る塩水への耐性を持つのがチタンで、ステンレススティールのわずか60%程度の重さで同じボリュームと高い耐腐食性を備えている。
いずれも海水で着用した後のケースは真水で洗い流してほしい。
近年人気のブロンズケース
探検家が活躍していた時代には、船具や航海用の道具は錫青銅で作られていた。2016年くらいを境に、ブロンズは腕時計のケース素材としての人気を高めている。海水に強いチタンとは対照的に、ブロンズには経年変化が現れる。この経年変化は内在する素材を腐食から守る銅が酸化した層である。ブロンズ製の時計ファンが好むのはまさに素材のこの特徴だ。時間の経過につれて、この経年変化により時計は唯一無二のものになっていく。ブロンズの特徴的な特性は、海水に対する耐性でもある。その他、耐磁性があり、摩耗しにくく、弾性があり、ステンレススティールに比べややもろく、約10%ほど重いという特性がある。
銅と錫の混合物は、人類が最初に作った合金と言われている。合金には鍛造と鋳造の区別がある。鍛造合金は銅のほかに最大9%のスズを含み、鋳造合金は通常9~12%のスズを含んでいる。錫の含有量が20%の青銅はベルブロンズと呼ばれている。しかし青銅はこれ以外にも含有させることでその特性を変化させることができる。
ダイバーズウォッチ用リュウズ
3時位置のリュウズの配置は、潜水時に違いが顕著に出る。ダイバーズウォッチのねじ込み式リュウズまたはリュウズガードは、水中でのトラブル回避のほか、防水性を高めて浸水からムーブメントを保護する利点もある。
定期的な防水チェック
防水性の証明は、検査時の一時のものでしかない。経年、摩耗、ダメージに伴い、状況はいつでも変化し、時間経過につれて、密封性は損なわれていく。熱、冷気、ほこり、塩水、溶剤がその速度を速める。そのため防水性は永続的なものではなく、定期的にチェックをせねばならない。特に高い防水性が求められる機能時計の場合はその必要がある。
時計修理工房には、圧力を加圧または減圧し、高感度差圧センサーで漏れを検出するリークテスターで時計をチェックするところもある。時計を装置の中に入れ、蓋を締めて密封状態にする。すると装置が真空状態を作りだし、時計の入っている容器から空気を吸い出すと、センサーが時計のケースが陰圧の中で広がったかどうかを検知。時計が完全に密封状態であれば、変形に一定時間耐えられる。ケースがこの空気によるテストをパスすれば、より大きな水の分子にも耐えられるのだ。
また、メーカーは納品前に、指定された圧力に25%の安全率を加えた圧力でダイバーズウォッチをテストする。また、長期的に湿気が入らないことを担保するために、いわゆるフォグ・テストを行うところもある。まず時計を温めてから風防に水滴を付け、風防を冷やすものだ。水滴を拭き取った際にその内部に水の結露が確認されると、時計は完全に密閉されておらず、空気中の水分がケース内に侵入していることが分かる。このように一見シンプルに見える防水性の問題は、意外と重要性が高いものである。
ヘリウムエスケープバルブ
ヘリウムエスケープバルブがその重要性を発揮するのは、プロフェッショナルダイバーによる飽和潜水時のみである。こういったダイバーは、水深150から300mへダイビングベルと共に行き、作業を行う。一定の潜水深度を超えると、人体はガスを吸収できなくなる。
一定時間水中にいる、つまり高い水圧にさらされている場合、潜水時間を長くすれば減圧時間が長くなるわけではない。例えば、200mまで潜った場合の減圧時間は1週間かかるという。しかしそんなに長く水に浸かっていられない。そのため再圧タンクが使用されるのだ。潜水後ダイバーは船にある再圧タンクで生活するのである。タンク内の圧力は、作業をするためダイバーが潜った水深と同じものとなっている。
圧縮空気内の窒素は30mくらいから影響を与えるので、再圧タンク内はヘリウムと酸素の混合で満たされている。小さなヘリウム原子が防水ケースの中に時計内の陰圧が周辺環境の気圧に適合するまで入り込んでいく。水面に出た時、時計内部の圧力はまだ周辺環境より高いが、ヘリウムエスケープバルブが過度な圧力を逃がしてくれるのだ。プロフェッショナルダイバーの類に属さないダイバーにとって、ヘリウムエスケープバルブは漏れを引き起こす可能性がある更なる開口部に過ぎない。
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