技術の進化にともない、機械式ダイバーズウォッチの有用性は薄れてきている。しかし各時計ブランドがいかに多様で独創的な進化を追求していたかを理解すると、このジャンルがなぜ時計愛好家たちを長年にわたり魅了し続けているのかを知ることができる。ここではダイバーズウォッチにおける7つの重要な革新について紹介する。
Text by Roger Rüegger
(2022年9月13日掲載記事)
伸縮可能なストラップ
ウェットスーツの上から腕時計を着用するダイバーにはおなじみの現象だが、水中深くへ潜り、受ける圧力が増大するにつれて手首周りは細くなり、腕時計のストラップが緩くなって、ケースの位置がずれたり、操作しづらくなったりする。また浮上時にはウェットスーツが再び膨張し、時計の締め付けが強くなるという逆の現象が起こる。これに対応するのが、工具不要でストラップの長さを調節できる「エクステンションクラスプ」機能だ。
1960年代から70年代にかけて、ドクサやストラップメーカーZ.R.C.などによって伸縮自在なストラップが試みられた。やがてセイコーのマリーンマスターやロレックスのオイスター パーペチュアル ディープシーなどが、段階的に調節可能なエクステンション付属のフォールディングクラスプを考案した。
現代において特筆すべき一例に、チューダーの「ペラゴス」や「ぺラゴス LHD」が挙げられる。これはチューダーが開発し特許を取得した独自の自動調整スプリング機能を備えたものだ。このメカニズムによりダイビング中にブレスレットの自動調整が可能となった。潜水することで連結部が圧縮され、ブレスレットは収縮し、ダイバーが再び水面に戻る際に水圧が減少するとブレスレットは拡張する。さらに伸縮機能を備えたラバーストラップも付いており、あらゆる潜水条件に適応するのである。
逆回転防止機能付きベゼル
逆回転防止機能付きベゼルは、ダイバーズウォッチに不可欠な機能だ。これは潜水時間を表示し、酸素ボンベの残量を計測することも目的とされている。命の危険に直結するので、誤操作を防ぐために反時計回りにしか回転しないようになっている。表示をセット位置に完全固定すればより正確性が増すが、それは使いやすさが犠牲になる。この解決策として、1980年代以降、IWCやセルティナはベゼルを押し下げた時のみ調整できる機能を採用した。オリスでは逆のアプローチが選択され、ベゼルを引き上げるようにした。
オメガの「シーマスター プロプロフ」は、この安全性の確保をさらに一歩推し進めている。オレンジカラーのセキュリティプッシャーを力いっぱい下に押し込むと、ベゼルがいずれかの方向に回るというものだ。グローブや濡れた手でこれを行うのは難しい可能性があるが、ベゼルを誤って動かしてしまう危険性はない。
解体性
ダイビングで実際に腕時計を着用したことがある人であれば、個々の部品の洗浄や手入れの重要性を理解し、自分で機器を分解して洗浄できることの必要性を感じているだろう。シチズン「プロマスター プロフェッショナルダイバー1000m」は飽和潜水対応の1000m防水性能を備え、ケースの2時位置にヘリウムエスケープバルブを設けて減圧時の時計の破損や損傷を防ぐ。ベゼルは逆回転防止機能を備え、誤作動防止を強化している。これらに加えてさらに、ベゼルは取り外し容易な設定となっているのだ。
堅牢なリュウズガード
すべてのケース開口部が時計の防水性能を危険にさらす原因となりうる中で、リュウズもその大きなひとつである。ダイバーズウォッチでは通常リュウズ内にパッキンが複数組み合わされているが、それだけが解決法ではない。これまでリュウズを2時、4時、6時あるいは9時など、通常の12時位置とは異なる場所に配置したり、ストラップの内部、あるいはエドックス「ハイドロサブ」のようにケースの一部に収めたりしてリュウズと外的な接触を減らす試みなどが採用されてきた。あるいはケースサイドを膨らませて、リュウズを囲うリュウズガードも一般的なものとなった。
リュウズガードで知られるブランドにパネライがあるだろう。パネライは1940年から独自のレバーロック式リュウズプロテクターを採用してきた。これはねじ込み式のように防水機能を高めるだけでなく、衝撃からリュウズそのものを守る働きも備えられている。パネライは1955年に特許を取得し、現在もアイコンのひとつとしてその意匠を守り続けている。
カラーバリエーション
深度が増すにつれて、明るさだけでなく、色彩も徐々に消えていく。水は光のスペクトルの色をひとつずつ吸収していくのだ。その結果として針と文字盤は見えづらくなり、最悪の場合、判読不能に陥る。文字盤と針やインデックスのコントラストを最大化する取り組みも多くの時計ブランドで実施されてきた。現在、オレンジ色なども多用されるようになった。
複雑機構の搭載
ダイバーズウォッチにおいてパワーリザーブやラージデイト、レトログラードなどの水中での表示機能はほぼ意味をなさない。しかし減圧停止の中間時間を計測できるようなクロノグラフ機構は異なる。あるいはIWCやオリスなどは、機械式水深計の搭載モデルを手掛けてきた。
近代的なダイバーズウォッチを世界に先駆けて発表したのはブランパンだ。1953年に発表された「フィフティ ファゾムス」は現代では一般的になったリュウズや裏蓋に防水システムを備え、ロック可能な回転ベゼルを備えていた。ダイバーズウォッチは老舗ブランド、ブランパンにおいて現在も進化を遂げている。
モダンなケースデザイン
基本的に、どのような深度に対しても防水性を持つ時計ケースを作り上げることは難しいことではない。真の粋は、日常でも着用したくなる、腕時計としての理想的なフォルムを実現することだ。単体構造のケースは防水性を最大化できるが、メンテナンスでのムーブメントの取り扱いなどをより難しくする。
2008年に発表された「オイスター パーペチュアル ロレックス ディープシー」において、ロレックスは説得力ある解決法を提案している。複数のパーツから成るケースバックと風防とケースの間に配した追加リングで防水性を大幅に高めつつ、時計の厚みを最小限に抑えたのだ。
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