今回インプレッションするのは、1000mの耐圧テストをクリアするジン「U1」である。ジンの個性豊かなラインナップの中で、U1はダイバーズウォッチ「Uシリーズ」の基本モデルとなる。"基本"でありながら非常に高い防水性能を備える本作は、"基本"と呼べるほどバランスが取れているだろうか? そして、日常使いに適するフレンドリーさがあるのだろうか? 今回は、この点に着目して述べる。
自動巻き(SW200-1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。Uボート・スチール(直径44m、厚さ14.7mm)1000m防水。44万円(税込み)。
Text & Photographs by Shinichi Sato
2022年9月8日掲載記事
ジン「Uシリーズ」の俯瞰と「U1」の立ち位置
ジンの正式名称は「ジン特殊時計」であり、極限状態で確実な性能を発揮するためのモデルを多くラインナップしてきた。その中でケース直径44mmの「U1」は、1000mの防水性能を備えるダイバーズウォッチ「Uシリーズ」の基本モデルである。
U1のデザインをベースとする派生モデルとして、第二時間帯表示を追加して防水性能を2000mへ引き上げた「U2(EZM5)」、より大型モデルを望む声に応えた直径47mmの「U212(EZM16)」、500m防水として手になじみやすい直径41mmに収めた「U50」、ケース内を特殊なオイルで満たすハイドロ・テクニックにより5000m防水を実現するクオーツモデル「UX(EZM2B)」、チタン製の「T1(EZM14)」がラインナップされている。いずれも強い個性を持つモデルだ。
現在のダイバーズウォッチの標準的な防水性能は200~300mである。それらの上位モデルとして500~600m防水が、特殊用途向けとして1000m防水が用意されるのが市場動向だ。これらと比較すると、U1が"基本モデル"でありながら1000m防水を実現している点は注目に値する。性能は高い方が嬉しいが、過剰な防水性能は大型化を招き、日常使いでの使い心地を悪化させる要因となりえる。もし、U1が何らかのバランスを欠いているとしたら、その派生モデルのバランスも期待できないだろう。
この観点から今回のインプレッションでは、U1スペックやディティールをチェックしつつ、本作の完成度、具体的には、着用感と視認性をはじめとした使い心地と性能のバランスが取れているか? について重点的に述べる。
「Uボート・スチール」とは、どのような特性を備えるか?
1000mの防水性を確保しているのは、Uボート・スチール製の直径44mm、厚さ14.7mmのケースだ。このUボート・スチールとは、ドイツ海軍212型潜水艦の外装に用いられている高降伏点鋼(高張力鋼=ハイテン)である。
ここで、材料力学用語である"降伏点"について少し述べよう。巻きばね(ノック式ボールペン内のバネ等)をイメージしてほしい。これを押し潰したり伸ばしたりしても元の形状に戻る。金属の棒にも同様の現象が生じ、引っ張り力によって伸び、力を弱めれば元に戻る。これが弾性である。
このバネを強い力で引っ張ると、伸びきって元に戻らなくなる。金属棒でも同様で、ある力(伸び量)を境に元の長さに戻らなくなって塑性変形する。大雑把に言うと、元の長さに戻るギリギリのポイントが降伏点である。降伏点を超えてさらに引っ張ると、やがて金属棒は引きちぎれてしまう。これが破断である。
高降伏点鋼は、文字通り降伏点が高い鋼材である。すなわち、元の形状に戻ることができる最大の力が大きい。このような特徴の鋼材を潜水艦に用いれば、何らかの強い力が働いても、外装が裂けにくく、元の形状に戻ってくれることが期待できる。
U1が採用するUボート・スチールは高降伏点鋼であるだけでなく、耐海水性能を備え、残留磁気の無い非磁性体であるため潜水艦にぴったりの素材である(非磁性体は、磁化した船体に反応する磁気機雷を避けることなどを理由に有利である) 。同様に、これらの特徴を備えるUボート・スチールは、ストーリー性を含めてダイバーズウォッチにとっても好適な素材であると言える。
視認性の高さを生み出す特徴的なデザイン
ダイアルデザインは特徴的だ。時分針は抑揚のないスクエアの先端に、突起が与えられたデザインである。このデザインの長さを変化させたものをインデックスとしている。暗所での視認に必要な部分を蓄光塗料によってホワイトで示し、それ以外(時分針の根元等)を暗所で見えないレッドとしている。色彩と形状の両方の観点からコントラストの高いデザインは、視認性が極めて高い。
また筆者は、これらの図形の組み合わせと大胆な配色に、バウハウスに見られる幾何学模様をイメージした。加えて、この幾何学模様の背景となるブラックのダイアルは、反射を抑えながら平滑であり、上品な印象を受ける。
U1の防水性能とケースサイズのスペックだけを見ると非常に無骨なダイバーズウォッチを想像するが、手に取ってみるとダイアルデザインがスタイリッシュな印象を生み出しているのが分かる。視認性の高さとデザイン性の高さを両立している点が高評価だ。
ベゼルも細やかな工夫が感じられる。0分から15分の部分は、詳細な計測を可能とする目盛りが、インデックスの長さや太さを細かく変えながら構成されている。このような目盛りは、プロフェッショナル向けツールウォッチを作り慣れたジンならではだ。15分以降は、シンプルだがレッドとブラックのツートンでデザインに差を設けている。フォントの大きさを含めて、ダイアルのくっきりとしたデザインに比べて繊細な印象だ。操作感は、凹凸は掴みやすく肌当たりが優しく、感触は遊びが多少あり、ペチペチと鳴るやや大味な印象である。
重い躯体を支える秀逸なストラップと良好な着用感
筆者の手首の周長は約18cmと、日本人の平均より太めであることを考慮すべきだが、ラグは短く抑えられており手首からの飛び出しが無く、手首に沿うように成形されたラバーストラップによって装着感は非常に良い。一般的に、防水性能が高いモデルではケースバックが飛び出していて、着用時に押さえつけられるような違和感が生じるものもあるが、U1はストラップに厚みを持たせており、荷重をケースバックとストラップ全体で受けている。これも着用感の向上に寄与している。
U1の弱点は重量だ。手に取って最初に感じたのが「想像以上に重い」ということだ。実測してみるとストラップ調整済みの状態で171gであった。ロレックスの「オイスター パーペチュアル サブマリーナ」Ref.126610LNがブレスレット込みの実測で160g弱であるとされているので、ラバーストラップを採用するU1が重量級であることが分かる。
時計のヘッド部だけで113g(公称値)である。これを、ラバーストラップの重量とグリップ力の高さ、バックルの重量によって暴れないようにバランスを取っている。見方によっては対処療法的とも言えるが、重量級であることを考えればU1の着用感に文句は無い。
実はフレンドリーなモデルであるU1
ジン U1のケースサイズは大きく、重量もあるため、気軽な相棒になれるかどうかの壁は確かに存在する。しかしジンは、ケースやストラップ、各部の重量バランスの適正化によって、この壁を越えやすいように手当を施している。
U1のスタイリングやハイスペックさに引かれているが、サイズや重量に二の足を踏んでいる方は、店頭で試着してみることをお勧めする。スペックの数値から予想するよりもフレンドリーなモデルであることに気が付くはずだ。
U1の価格は税込み44万円である。搭載されるSW200-1と同レベルのムーブメントを搭載したツールウォッチの中ではこのプライスタグは高価に見えるが、ケース素材や性能を考えれば競争力がある。また、着用感や視認性の高さを確保しつつデザイン性が高い点は、ツールウォッチを作り慣れたジンの強みであり、購入を後押しする要素となる。
Uシリーズ基本モデルとしてのU1の優秀さ
1000mの防水性能という基本モデルと呼ぶには突き抜けた性能を備えるU1。本作の視認性の高さやケースデザイン、ストラップとのマッチング、重量バランスは優れており、ダイアルデザインも良い。よって、時計全体を通してバランスの取れた良作に仕上がっている。
ここで、2000m防水のU2に注目しよう。ケースやストラップのデザインは共通である。サイズを確認すると、ケース径は同じで、厚さはU1の14.7mmに対してU2は15.5mmと、1mm以下の差しかない(U2はSW330-1を搭載)。重量も1gしか変わらず、着用感の差もほとんど無いはずだ。
このことから、U1はその後の高性能モデルへの拡充を見据えて、余裕を持った設計となっていると筆者は予想している。そのように思わせるほど、U1の完成度には無理が無いのだ。
Contact info: ホッタ Tel.03-5148-2174
https://www.webchronos.net/features/75777/
https://www.webchronos.net/features/50360/
https://www.webchronos.net/news/69433/