1972年の誕生以来、50年を経ても色褪せることなく人々を魅了し続けるオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」。ジェラルド・ジェンタがデザインを手掛けた誕生当時について記した下記の記事に続き、大径化や複雑機構の搭載など多様化の進んだ90年代から、現在の最新モデルに至るまでの進化をたどる。
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2022年9月28日掲載記事
多様化の進んだ1990年代
1972年の誕生以来、スタイル、サイズ、ムーブメントをさまざまに進化させたオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」。この多様化は90年代にも続き、技術的にもデザイン的にも新たなマイルストーンを築き上げながら展開した。20周年を迎えると、ロイヤル オークはより過激な方向へとカーブを切る。1992年に発表されたRef.14802は、1972年に誕生した直径39mmの「ロイヤル オーク "ジャンボ"」へのオマージュであり、初めてサファイアバックが装備された限定モデルとなった。
またRef.14800は、直径36mmのケースにレザーストラップが装備された最初のロイヤル オークであり、大きな論争を巻き起こした。これは外部の独立系スイス人デザイナー、ヨルグ・イゼックによるデザインである。ケースのミドルパーツには空洞が設けられ、可動式ピボットによりストラップが装着できるようになっていた。素材やケースのバリエーションは20種類ほどあり(特にミリタリー数字)、この異形の「ロイヤル オーク」は、その後さらに自由な発想で作られていくことになる。
さらに1993年の「ロイヤル オーク オフショア」は1990年代の"エクストリームライフスタイル"を体現するモデルとして新たなピークに到達した。このケースには、スポーツウォッチ用ではない高級時計用のムーブメントが搭載された。
エマニュエル・ギュエのデザインによるロイヤル オークの再解釈は、直径42mmというオーバーサイズだった。これはロレックスの有名なオイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナに代わるものとなり、より「高価」かつ「大きい」ものを好む新しい世代に訴求。「ビースト」という愛称で冒険好きな人々のライフスタイルにとって完璧なアクセサリーとなった。
このロイヤル オークの新たな発展は、独自の道を進み、完全に独立した全く新しいコレクションの誕生となった。いくつかのモデルや限定版には独自の個性を備えたものも見られた。
1990年代初頭、厚さがわずか1.64mmの超薄型キャリバー2003SQを搭載した初のレディース用シースルーモデルが登場した。その後、ジュエリーセッティング仕様が徐々に増え、1998年に発表された「ロイヤル オーク スケルトン オートジュエリー」(Ref.15073)を頂点とする。直径30mmの18Kホワイトゴールド製ケースとブレスレット、針を備え、全体に446個のブリリアントカット・ダイヤモンドを施したものだ。インデックスは4.64カラットのエメラルド製である。ハイジュエリーとハイウォッチメイキングの伝統を、現代的なデザインと組み合わせたこのモデルは2000年初頭にジュエリーピースに新しい道を切り拓いた。
しかしそれ以前に、レディースのロイヤル オークは1997年に「ロイヤル オーク ミニ」(Ref.67075)で、別の頂点に達していた。これまでで最小のロイヤル オークである。クォーツムーブメントを搭載したわずか直径20mmのケースは細い手首にもぴったりとなじんだ。
1990年代はまた、コンプリケーション搭載機を拡充していく時期でもあった。1997年、ステンレススティール製の「ロイヤル オーク トゥールビヨン」がコレクションの25周年を祝う世界25本の限定モデルとして発表され、その他にピンクゴールド、プラチナ、イエローゴールド各5本限定も用意された。
Ref.25831は、直径40mmのケースに第2世代のトゥールビヨン・キャリバー2875を搭載し、6時位置の8角形のトゥールビヨンキャリッジからその駆動を鑑賞可能とした。また1986年に発表されたオーデマ ピゲの先駆的な自動巻きトゥールビヨン・ムーブメントへのオマージュとして、このモデルはトランスパレントバックによりその巻き上げ機構まで見せた。
1997年には、直径39mmのケースにクロノグラフを搭載した「ロイヤル オーク クロノグラフ」(Ref.25860)を発表。これは「カスパロフ」の愛称で親しまれた。またミニッツリピーター、永久カレンダー、スプリットセコンド・クロノグラフを備えた初の「ロイヤル オーク グランドコンプリケーション」も発表。直径44mmの堂々としたホワイトゴールド製ケースに648個の部品で構成されるムーブメントを搭載し、同年に発表された「ロイヤル オーク ミニ」と鮮烈なコントラストを成している。
1972年から1999年の間に、オーデマ ピゲはロイヤル オークのバリエーションを300近く展開している。そのうち約200が非常に創造性の高かった90年代に作られている。
2000年代に入り「ジャンボ」の歴史に大きな一歩を踏み出す
2000年代に入り、ロイヤル オークは直径39mmのRef.15202を発表し、「ジャンボ」の歴史に大きな一歩を踏み出した。この新作は文字盤の色やサファイアクリスタル製ケースバックの復活などにより、デザインコードの再解釈の自由度をさらに引き上げた。
文字盤には前年にコレクションに登場した新モチーフ「グランドタペスリー」のギヨシェ模様が採用されている。1993年に発表された「ロイヤル オーク オフショア」以降、時計の大型化が進む時代の影響を受け、約380個のピラミッド型模様(プチタペスリーだと約700個)で構成されるグランドタペスリーは、瞬く間にロイヤル オークコレクションの目玉となったのである。
その後、ロイヤルオークの平均直径は、1990年代の36mm、1980年代の35mmから、2005年のRef.15300では39mmに達している。伝統と現代性を融合させたこのモデルは、ロイヤル オークの中で最も人気のあるモデルのひとつとなった。
しかし2000年代は原点回帰というより、前衛的なデザインや最先端のマイクロメカニクスが多く採用された。2002年に発表された「ロイヤル オーク コンセプト」と、2004年に発表された「ロイヤル オーク トラディション デクセレンス N°4」(Ref.25969PT)は、両者ともに新千年紀のビジョンの証人となっている。1999年以来、「トラディション デクセレンス」シリーズは、古典的な時計製造の域を超え、複雑機構を斬新な方法で組み合わせた。後者の「ロイヤル オーク トラディション デクセレンス N°4」は、プラチナ製の直径44mmケースにクロノグラフとトゥールビヨンを搭載した世界限定20本のモデルだ。透かし彫りされた文字盤から見えるダブルバレルによって、約10日間というロングパワーリザーブを実現した。
2000年代前後のロイヤル オークはまた、アスリートやセレブリティとのコラボレーションによる限定モデルが拡充された時期でもあった。この起源は1990年にニック・ファルドの名を冠して発表された「ロイヤル オーク チャンピオンシップ」にさかのぼることができる。ステンレススティールとタンタルまたはピンクゴールドとタンタルの2種類の素材の組み合わせが特徴的なモデルだ。
他にも1999年には国際ヨットレースであるアメリカズカップのアリンギチームとコラボレーションした「ロイヤル オーク オフショア チーム アリンギ」が発表された。また2005年には女優ミッシェル・ヨーと、2008年には元インド国際クリケット選手のサチン・テンドルカールともロイヤル オークでコラボレーションを果たしている。
多様化を極めた2000年代初頭のデザインは、40周年を迎える2012年頃からコードを保ちながらより洗練されていく。
フラッグシップモデルでは、「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン」(Ref.15202)が愛好家の間でセンセーションを巻き起こした。これは直径39mmのケースに薄型キャリバー2121を搭載し、ケースの厚さが8.1mmに抑えられたモデルであった。
このように洗練された外観と高い技術の融合が、2000年以降の約10年を特徴付けている。2006年の「ロイヤル オーク ダブル バランスホイール オープンワーク」は、ふたつのテンプとふたつのヒゲゼンマイを同じ軸上に組み立てることで、完全に同期した振動を実現する特許取得の新ムーブメントを搭載し、時計の精度と安定性を担保している。当初は直径41mmのステンレススティールまたはピンクゴールドのケースで提供されたが、現在は37mmにサイズダウンし、ホワイトゴールド、イエローゴールド、ブラックセラミックスなどの幅広い素材で提供されている。
また2010年代には、後の2018年にプロトタイプが完成し、RD#2の愛称で親しまれる「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラ シン」(Ref.26586)が、大きな技術革新のもと発表された。高さ6.3mmのケースに厚さ2.89mmのムーブメントを搭載した、当時世界最薄の自動巻き永久カレンダー搭載機である。この前代未聞の結果を達成するために、永久カレンダー機構は従来の3階層式から1階層へとまとめられた。
2022年に50周年を迎えたロイヤル オーク
ロイヤル オークの50周年は「ジャンボ」の新世代、「ロイヤル オーク “ジャンボ”エクストラ シン」(Ref.16202)で幕を開けた。厚さわずか8.1mmのケースに収まるように作られた新型の超薄型自動巻きキャリバー7121を搭載している。キャリバー7121は、ロイヤルオークのデビュー以来搭載されていた歴史的な2121に代わるものだ。
同様に50周年記念を祝う「ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン エクストラ シン」は、「ジャンボ」で初となるフライングトゥールビヨン搭載モデルだ。プチタペストリー模様の文字盤に、フライングトゥールビヨンキャリッジを確認することができる。
キャリバー7121と同時に開発されたキャリバー2968は、自動巻きとフライングトゥールビヨンの両方を、アイコニックな「ジャンボ」のケースのプロポーションを損なうことなく共生させている。そこに到達するため、直径41mmの既存モデルに採用されていたトゥールビヨンキャリッジ全体が見直された。結果としてムーブメントは厚さわずか3.4mmとなり、その繊細な技術の実現をたたえてRD#3というニックネームが付けられている。
まだ50年しか経っていないこのコレクションは、これから何年も何十年も、まだまだ多くの驚きをもたらしてくれるだろう。
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