新素材の採用や開発において腕時計業界を牽引し続けるウブロ。近年発表した中において印象的だったモデルといえば、2021年に発表されたイエローセラミックスの「ビッグ・バン ウニコ イエローマジック」などが挙げられるだろう。研究開発において常に一歩先を行く姿勢について、ウブロCEOのリカルド・グアダルーペに聞いた。
Text by Serge Maillard
2022年10月6日掲載記事
(インタビューは2021年に実施)
新素材を生み出し続けるウブロ
「3年前にブライトレッドカラーのセラミックスを発表した時に、こうお話しました。ほとんどすべてのパントーンカラーは、ウブロのセラミックスで実現可能だ、と」。2021年、ウブロCEOのリカルド・グアダルーペは2年の研究開発期間をかけたブライトイエローの「ビッグ・バン ウニコ イエローマジック」のお披露目に際し、満足げにこう語った。多くのメーカーが採用している地味なレトロのトレンドとは一線を画し、ウブロは輝くような魅力を湛えた製品を生み出す努力を倍加している。
ブライトイエローセラミックスに加え、ウブロはブレスレットを含む全体がサファイアクリスタル製のモデルや、ダイヤモンドをフルセッティングしたモデルを世に送り出している。過去のアイコンの復刻に満足することなく、常に革新的であり続けること。この姿勢こそが、今回リカルド・グアダルーペから話を聞きたかったことだ。
ウブロCEO、リカルド・グアダルーペにインタビュー
ヨーロッパスター:サファイアクリスタルなどの素材の採用や、セラミックスのカラバリ拡充といった新しい試みは、今後も続けられていくのでしょうか?
リカルド・グアダルーペ:我々は、非常に早い段階から新素材の開発に着手していました。セラミックスもそのひとつで、2006年に発表したオールブラックモデルは、大きな反響を呼びました。しかし現在その分野にいるのは我々だけではありません。大手企業を含むブランドの多くが、同じ道を歩んできており、すでにセラミックスは腕時計の人気素材として定着しつつあります。自らの差別化を更に図るため、明るいカラーのセラミックスという新しい道を選んだのですが、まだ課題はあります。
ヨーロッパスター:ブライトイエローのセラミックス開発における、主たるチャレンジはどのようなものでしたか?
リカルド・グアダルーペ:ネイビーブルーやアーミーグリーンのような濃い色を扱う場合は、明るい色に比べればそれほど苦労はしません。2018年に発表した「レッドマジック」は、セラミックスで初めて実現した鮮やかな色で、これはそれまでで最も難しい色でした。ウブロでは非常に高い温度と高い圧力で加工するため、顔料を焦がしてしまう危険性が常にあります。この鮮やかな赤で、我々は多くのことを学び、その教訓をイエローマジックを含む他の鮮やかな色に応用することができたのです。
ヨーロッパスター:他の色の計画はありますか?
リカルド・グアダルーペ:明るいオレンジ色など、他の計画も進行中です。しかし、新しいカラーセラミックスの開発には平均2年かかるということを知っておいてください。この工業化には非常に時間がかかるのです。特に明るい色では、製造工程のさまざまな場面で小さな不具合が発生する可能性があります。これは絶え間ない挑戦ですが、ウブロがカラーセラミックスを牽引するブランドである所以です。
ヨーロッパスター:スイスのタトゥーアーティスト、マキシム・ビューチとのコラボレーションではブルー、ホワイト、グレーのセラミックスモデルを「ビッグ・バン サンブルー II」シリーズで採用していますね。
リカルド・グアダルーペ:差別化を図るため、他ブランドと一線を画す時計を提供することが必要です。それがウブロの使命でもあります。ビッグ・バン・サンブルーIIでも、村上隆のシンボルであるフラワーにインスパイアされて誕生したクラシック・フュージョンであっても、アートと時計作りの完璧な融合を目指し、時計作りの粋を究めようと取り組んでいます。これらのコラボレーションにはコンセプト作りから始まる長い道のりがあります。最終的にこれらのモデルは、それ自体がアート作品となるのです。そして顧客からこのような妥協のないデザインへの強い要望があることも事実です。私自身がその商業的成功に驚いているくらいです。
ヨーロッパスター:これらの非常に特殊なモデルの他に、ウブロはサッカーを通じたマス広告にも携わっています。このふたつの異なる側面をどのように調和させるのですか?
リカルド・グアダルーペ:両方を効果的に使うことです。サッカー界では、特定のモデルよりもブランドの認知度に重きを置いています。一方、村上隆とのコラボレーションのように、新しいコレクターにアプローチすることもできます。
ヨーロッパスター:現在ヴィンテージが人気です。このトレンドは時計製造のシーンを席巻し、若い世代を魅了しています。しかし、ウブロにとってはあまり良い知らせではないのではないでしょうか?
リカルド・グアダルーペ:ウブロがヴィンテージの流行に乗ることはないでしょう。例えそうしたいと思っても、私たちの歴史では無理があります。歴史を繰り返し続ける訳にもいかないでしょうし、我々のブランドとはマッチしません。復刻版は、2020年のブランド創立40周年を記念した「クラシック・フュージョン」の1回だけです。それもオリジナルを忠実に再現したものではありませんでしたが、これは私たちがノスタルジーに浸っているわけではないからです。それは、ウブロにとって正しいアプローチではないでしょう。ウブロは、素材だけでなく機構面でも常に革新的な時計作りに挑戦し、自らの運命を歩んでいるのです。
ヨーロッパスター:セラミックスのブライトイエローと同時に発表された技術的な挑戦は、サファイアクリスタルに関するものでした。「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア」のケースとブレスレットに使用されているサファイアクリスタルは、まさにその名にふさわしい素材といえるでしょう。
リカルド・グアダルーペ:このモデルには妥協がありませんでした。素材自体がこのモデルの主役です。2016年、我々は初のサファイアクリスタルウォッチである「ビッグ・バン ウニコ サファイア」を発表し、大きな成果を収めました。今回の新しい開発において、自動巻きトゥールビヨン・ムーブメントを搭載するために、「ビッグ・バン インテグラル トゥールビヨン フルサファイア」のケースを全面的に再構築しています。ケースは37もの部品で構成されていますが、そのうち5つはサファイアクリスタルのみで作られています。
目標は、目に見えるネジをほぼすべて取り除き、ケースの形状を全面的に見直してサファイアクリスタルのブレスレットと一体化させることでした。ブレスレットもまた、165個の部品で構成され、そのうち22個がサファイアクリスタル製という高難度の挑戦でした。特に注目すべきは、私たちが開発したチタン製のインサートで、ブレスレットの各リンクの側面からはみ出さないように、超小型化されています。非常に複雑な工程を経て完成したハイテク作品なのです。
ヨーロッパスター:セラミックスと同様に、サファイアクリスタルを採用するブランドも増えてきました。これはウブロが更にこの素材の採用を加速させることになっていますか?
リカルド・グアダルーペ:ウブロはこの素材の工業化のリーダーであり続けています。それはウブロが他に先駆けて着手したこと、それによって多くの経験値を蓄えているからです。セラミックスと同じように、サファイアクリスタルの研究も常に進化を続けています。例え一度その技術の頂点に立ったとしてもです。ウブロは「ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック オレンジサファイア」で初めてオレンジのサファイアクリスタルを導入することができました。それが他の追随を招くことは自然なことです。ただそれでペースを落とすつもりはありません。こうしたモデルは、デザイン、素材、機構の各面で我々の研究開発能力を示すものです。
また、更なる需要があろうとも生産本数は限られています。例えば、村上隆の「クラシック・フュージョン タカシムラカミ オールブラック」は200本生産されました。その10倍近くを販売することも可能でしたが、私たちは希少価値と認知度を維持したいと考えたのです。売上の大部分を占めるクラシック・フュージョンの全モデルは、このような相乗効果によって商業的な利益を得ているのです。
ヨーロッパスター:コロナ後の未来における時計業界をどのようにご覧になりますか? オンラインで数万フランの腕時計を買うことも問題ではないように思えます。
リカルド・グアダルーペ:確かに、2020年に世界中の物理的流通の80%がブロックされたことを考えると、eコマースは加速していると思います。ウブロは独自のeコマースのプラットフォームを2020年7月にスタートしていますが、現在のところオンラインのセールスは限られています。目的は顧客の方々との接点を保持することでした。現在、オンラインにおける顧客体験が良いものとなるための学習の曲がり角に差し掛かっています。価格と共に時計の画像を掲出するだけでは十分ではありません。また、ウブロは実店舗網を、特に中国本土において発展する必要があります。
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