圧倒的なスペックはもちろん、逸話の多いヒストリー、そしてアクティブなルックスを併せ持つブランパン「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」。プロ向けツールウォッチのみならず、日常を彩る高級時計としても魅力的な同作を、アンティークウォッチを普段使いするファッション系編集ライターの長谷川剛がレビューする。
Text & Photograph by Tsuyoshi Hasegawa
2022年10月18日掲載記事
寡黙さが、逆に隠された「ツメ」を予感させる
ファッション記事などを中心に原稿執筆を日々の業務とする筆者。アクティブならざる生活がメインであり、シンプルかつ味わいのあるものが好みということで、ドレス系アンティークウォッチを中心に着けている。
主張の強すぎない高級感が非常に筆者好みなダイバーズウォッチ。ただ、43mm径のケースはちょっと大きめかもしれないと感じたが……。自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SS(直径43mm)。300m防水。138万6000円(税込み)。
ただ、回転ベゼルを擁するモデルは、薄型のドレス時計などに比べ腕元をアクティブに見せる効果がある、と常々考えてきた。なかでもダイバーズウォッチは防水性や視認性に特性があり、水中に潜らぬライフスタイルでも、その優れた機能は信頼感や安心感をもたらしくれるものと評価していた。
とは言え日常使いに関し、あまりに本格スペックでは持て余しそうであり、ソコソコの防水性に加え、できればあまり厚くヘヴィでないケースのダイバーズが個人的にはジャストと思っていた。
そこで今回インプレッションをすることとなったのが、ブランパン「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」だ。ご存知のとおり、1953年発表の「フィフティ ファゾムス」は逆回転防止ベゼルを備えるなど、モダンダイバーズスタイルの先駆けとなった名品。そのスポーティモデルとして派生したのがバチスカーフである。
初出は56年とのことだが、現行スタイルの源流となると、2013年に完全復活を遂げたモデルがそれに当たる。以来数回のリニューアルを経て、現在はトリプルバレルにて約120時間駆動、高耐磁のシリコンヒゲゼンマイを擁するCal.1315を搭載。直径43mm、厚さ13.4mmのケースを持つスタイリッシュな1本へと熟成している。
先ほど「ソコソコの」などと言ってはみたが、日々イスに腰掛け原稿を書き飛ばすだけの筆者にとって、300m防水を筆頭に各種機能を誇るダイバーズは、中々のハイスペック時計と言わざるを得ない。
早速のファーストインプレッションだが、まず実機に触れて感じたのは「非常にシック」ということ。ベゼル幅はスマートで、かつ文字盤に(カレンダーを除いて)数字はなく、アプライドの夜光インデックスも、確実な視認性を持ちながら、ダイバーズにしては控えめ型のように見えた。
ブランド名等のフォントもバランス感ありながら小さめで、全体的に「オレがオレが」の感じが薄く、ともて低姿勢?な印象が、逆に有能ゆえに「ツメ」を隠しているかのように思われた。
とは言え今回ピックアップしたモデルはケース径が43mm。普段35mm径くらいのアンティークウォッチばかりを偏愛する自分にとって、実際に腕に載せてみると、お世辞にも「控えめ」とは言えない堂々のサイズ感である。
ただしベルトはガッチリ織り込まれたテキスタイルに薄ゴムを裏張りした仕様であり、重量あるケースでもフラ付きなどはなく、着け心地はいたって安定的なのである。以上のようにルックスは極めてシンプルにして、ブランパンらしい硬派なこだわりが随所に見て取れる仕上り。
特に感心したのが細く伸びた秒針だ。ケースの見返しに届きそうなくらいに伸ばされており、目に付く赤塗りも手伝って、回転ベゼルの目盛りでも秒が計れるほどの伸びっぷりには興味を覚えた。
軽装時のアクセント役として絶妙だった43mmケース
近年ファッション誌では本格時計を身に着けるひとつの理由として、「大人の存在感」を挙げている。いわく、シャツ1枚にカジュアルパンツを合わせただけの軽装でも、本格時計を添えることで大人のステイタス感が出る、うんぬん。当該インプレッションは8月下旬という、まだ暑さ残る時期に行ったことから、さっそくTシャツに短パンという「軽装」に着替えてみた。
確かに場合によっては子供っぽくも見えるコーディネートだが、伝統あるダイバーズを腕元に加えることで、ナニやらキマって見える。43mmという大きめケースが逆に良いアクセントになっているとも感じられた。
言わずもがなダイバーズの優位性として防水機能は見逃せない。夏期の日課である庭の水やりなども、いつもは(ぼろアンティークゆえ)わざわざ時計を外して行うが、バチスカーフならそのまま水浴びをしても問題ないワケだ。
アレコレ気に病まず生活を止める必要がないというのは、非常にノンストレスで快適である。
インプレッション2日目は、これまたルーティンであるウォーキングにバチスカーフを連れ出してみる。
30分も歩くと汗をかくので、いつもはブレスレット時計を着けるのだが、今回は逸品ダイバーズのテキスタイルベルトのチェックがひとつの目的。
実は初見のときにバチスカーフのベルトをつらつら眺めて思ったことがある。それはベルトに施されたステッチング。裏面に糸が露出しており、コレがベルトを肌へ密着させず通気を促すものとなるのか、はたまた違和感が勝るのかが少し気になっていた。
実際に装着し腕を振って1時間ほど歩いてみて残ったのは、心地良い通気感というよりも、腕元へのクッキリ赤い縫い目跡であった。