マルチパーパスなツールウォッチとして再定義されたフォルティス「マリンマスター M-44」の実力をチェックする

2022.10.11

今回インプレッションするのは、フォルティス アクアティス・コレクションの「マリンマスター M-44」である。2021年10月にフォルティスは、パイロットウォッチ風ダイバーズであったマリンマスターを、さまざまなアウトドアシーンに好適なツールウォッチとして再定義し、本作を送り出した。(本作の日本発売は22年3月) 実機を手に取ってみると、さまざまな工夫が盛り込まれた意欲作であることが分かった。それでは詳しく見てゆこう。

マリンマスター M-44

フォルティス「マリンマスター M-44」
自動巻き(Cal.WERK11)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。リサイクルSSケース(直径44mm、厚さ14.3mm)。50気圧防水。ラバーストラップ仕様:49万5000円(税込み)。ブレスレット仕様:55万円(税込み)。
佐藤しんいち:文・写真
Text & Photographs by Shinichi Sato
2022年10月11日掲載記事


フォルティスの主要モデルのおさらい

 フォルティスは1912年にスイスのグレンヘンで創業した独立系ブランドである。ブランド名はラテン語で“力強い”、“確固たる”、“勇敢な”という意味を持つ。ブランド名の通り、創業当初から高い信頼性と品質を掲げて時計作りを続けてきた。一例として、26年にはローター式の自動巻機構の発明者であるジョン・ハーウッドと共同開発により自動巻きモデルを、43年には当時としては高い防水性能を有した「フォルティシモ」の開発が挙げられる。

 信頼性と品質への取り組みは航空機パイロットの支持を集め、「アビアティス・コレクション」の各モデルは世界各国の飛行部隊に採用されている。そして、フォルティスの時計は空を飛び越えて宇宙でも使用されてきた歴史を持つ。「コスモノーティス・コレクション」の「コスモノート クロノグラフ」が94年にロシア連邦宇宙局の公式装備品として採用されたのを始め、ロシアのスペースプログラム「ROSCOSMOS」が船外活動での使用を想定したモデルとして「オフィシャル・コスモノート・クロノグラフ」を採用した。

 このように、90年代以降のフォルティスは航空宇宙関連で実績を残し、そのイメージを確固たるものとしてきた。そのような背景のため、ダイバーズウォッチをラインナップする「アクアティス・コレクション」は、航空宇宙向けモデルの陰に隠れてしまっていると、筆者は感じていた。フォルティスも同様のことを考えていたのか、従来モデルのイメージから大きく変えて、マリンマスターの3針モデルを刷新したのが本作である。


マルチパーパスなツールウォッチとして再定義されたマリンマスター

 筆者が本作のキーワードを挙げるならば“マルチパーパス”である。本作を含む新作のマリンマスターは、マリンスポーツや釣り、ハイキングあるいはキャンプといった多種多様なアウトドアに好適なツールウォッチとして再定義されている。それを示すように公式サイトのイメージ映像および画像が、ハイキングやキャンプシーンで埋め尽くされている。“マリン”マスターと銘打たれているにもかかわらず(!)である。

 新しくなったマリンマスターは、44mmモデルの本作「M-44」(22年9月現在1色展開)と、40mmモデルの「M-40」(同4色展開)が存在する。M-44とM-40の名称はカタログやダイアルにも表記されており、以下でもこの名称を用いることとする。

 M-44とM-40は、デザインイメージを共有するが設計は別物だ。M-44は500m防水で、後述するベゼルロック機構を有し、ムーブメントはマニュファクチュールキャリバーWERK 11である。対してM-40は、300m防水、逆回転防止ベゼル、キャリバーUW-30(詳細は非公表で、スイス製の標準的なムーブメントとされており、スペックはSW200-1近似)である。

 M-44に搭載されるキャリバーWERK 11は、ケニッシ社との長期的な協力関係の中で誕生したムーブメントで、GMT表示機能搭載のキャリバーWERK 13に引き続いての採用となった。キャリバーWERK 11は2万8800振動/時、フリースプラング、パワーリザーブ約70時間、クロノメーター認定と、ケニッシ製ムーブメントの標準と同等である。申し分ない性能だ。

 ケースは、ほぼすべてが再利用されたスティールで構成される、リサイクルステンレススティール(316L-1.4404)である。フォルティスは持続可能性に重点を置いたメーカーとして、2021年の新作から採用を始めている。性能や品質も一般的なステンレススティールと同等で、M-44の高い防水性能も確保できている。


フォルティスの新しい試みが現れたダイアル

 ダイアルにはブラックのベース部分の周囲にオレンジのダイアルリングが、その間にホワイトに見える蓄光部が挟まったデザインだ。

マリンマスター M-44

表情の生まれやすいダイアル表現とコントラストの高いデザイン。また、正面から見るとダイアルとベゼルを大きく、ケースを小さく作っているのが分かる。

 ブラックの部分は、FORTISの「O」を模ったものとアナウンスされる凹凸が与えられている。意味付けがちょっと苦しいが質感は悪くなく、筆者は好みだ。室内ではブラックでフラットな印象で、光が当たって表情が生まれる。屋外では無反射コーティングによって青っぽい色味が加わって凹凸感が強調されつつ、視認性は維持される。表情を変える楽しさと視認性を両立している点は高評価だ。

 また針の質感はそれなり。オレンジの分針の配色が良い。針とインデックスの蓄光部面積は控えめだが、ダイアル外周にも蓄光部を備えているので明るくて暗所での視認性が良い。


ちょっと変わっているけど、理に適っているデザインのM-44

 ケース形状はM-44の注目点のひとつである。飛び出したラグの無い、ケース上下端に一体化されたストラップ接続部が伸びている。この接続部は、ケース上下端およびケースサイドの両方向に丸みを帯びる自動車のボンネットのような形状を備えている。ケースサイドは対照的に切り立ったデザインでメリハリがある。面も整っているし、角部に与えられた面取りも効いている。失礼ながら「フォルティスってこんなにケース製作が上手かったっけ?」と思ってしまった。

 また、ストラップをケース中心に寄せるように取り付けることで、手首へのフィット感を向上させている。ケース径44mmと大型であるので、この方式は効果的だ。

マリンマスター M-44

ストラップ取り付け位置が時計の中心に寄せられている。ケースバックには「Keine Termine und den Horizont vor Augen.(予定なし、目の前の地平線を感じる)」という言葉がドイツ語で刻まれている。これは、「M-44を着用して自然界の解放感を味わおう!」というフォルティスの思いを表現している。

 また、ストラップの固定方法はねじ留めである。フォルティスは高い信頼性が求められるモデル、例えば「オフィシャル・コスモノート」等にねじ留めを好んで採用している。よって、ねじ留め式が得意で、信頼を置いていると考えられる。そんなフォルティスがM-44およびM-40にわざわざねじ留め式を採用しているあたり、これらを戦略上重要なモデルに据えているのが分かる。

マリンマスター M-44

12時側から見た写真。10時位置のフォルティス・ロックシステムが写真右側に見える。ケース上面の柔らかな曲線と、切り立ったケースサイドのメリハリが面白い。また、ストラップのねじ止め部も見える。ケースサイドを薄く仕立て、ケースバックを底にしたすり鉢状になっていることも、着用感の向上につながっている。

 M-44特有のベゼルは、10時位置のリュウズに見えるロック機構「フォルティス・ロックシステム」によってロック解除と固定を切り替える。ロックを解除すればベゼルは両方向回転する。慣れればこの切り替えは簡単であるし、ベゼルを目的の位置に最短距離で設定できるメリットがある。加えて、フォルティス・ロックシステムはケースに穴を開けておらず、防水性能に影響を与えない点が上手く工夫されている。

「ギヤベゼル」と呼ばれるベゼルには、ブラックPVDが施された滑り止め部材が取り付けられており、滑らず、しかし痛くない具合が良い。触り心地に、筆者はロットリングのシャープペンシルに施されたローレット加工を思い出した。

 ここまで見たように、ダイアルデザインやケース形状と仕上げ、ストラップ固定方法など、同価格帯のモデルに対してM-44に個性を与えようとするフォルティスの工夫を感じる。そのような試みは時に“他と違うだけ”のモデルになってしまう可能性もある中、M-44は独自性とユーザーの利便性を両立できている。


やや腰高だが着用感は良好

 手首の周長約18cmの筆者が着用してみると、ケース径44mmという数字から受ける印象よりも小さく感じる。ストラップの取り付け方法の工夫に加え、ケースの縦幅が48.6mmと短く収まっているのも効いている。筆者より手首が細い方も44mmの数字に警戒せずに試着してほしい。

マリンマスター M-44

スペック上のケース径の割にコンパクトに見える。陽射しの強い日で、青っぽい反射が生じているが、視認性は悪化していない。光の加減で表情を変えるダイアルが面白い。

 ケースサイドを薄く、ケースバックが飛び出たような形状は、時計全体を薄く錯覚させるのに有効であるのに加え、ケースにすり鉢状の傾斜がついて(セイコー 3rdダイバーのそれである)、手首を曲げた時に干渉せずに着用感が良い。しかし、14.3mmの厚さによる腰高な印象は隠せないし、重量もある。これを上手く抑えるためにはストラップをタイトフィットさせる必要がある。

 着用すると再認識するのが、くっきりとしたデザインの面白さだ。ブラック、蓄光部のホワイト、オレンジ、ステンレススティールの質感と組み合わせが面白く、ストラップのテクスチャーも相まってアウトドアグッズを思わせるデザインである。筆者はこのデザインが好みであった。

 ダイアルと同じ「O」がワッフルのように象られたストラップは柔らかく、肌当たりが優しく心地よい。タイトフィットさせれば上手くヘッドを支えてくれる。ただ、タイトフィットしないと柔らかさと腰高感が相まって時計の暴れを感じやすい。しかも、ストラップを短い側に調整する余地が小さく、手首周長18cmの筆者にタイトフィットさせて、短くする方向に1ノッチ(約7mm)分しか残されておらず、腕の細い人ではジャストフィットさせられない恐れがある。

マリンマスター M-44

 またバックルは薄手で邪魔にならず、ふたつの穴を使って固定する工夫がなされている。日常使いやキャンプシーンでは快適なものだ。一方、M-44を使って本格的なダイビングをしたい人には適さない。エクステンションが備わっておらず、長さも余裕が無いからだ。ステンレススティール製ブレスレットならば、調整幅8mmのスライディングクラスプが備わっている。


今後のカラーバリエーションの拡充に期待

 さて、M-40では魅力的なカラーがラインナップされるのに対し、M-44は本作のアンバー・オレンジ1色のみだ。ここまで見たように、新しいマリンマスターはさまざまな工夫が盛り込まれたフォルティス入魂の刷新であると想像されるので、M-44の新色は随時追加されるはずだ。従来のフォルティスは、グレーやブラック、彩度の高いカラーの挿し色というラインナップが多かったが、M-40にはセレニティ・ブルーやウッドペッカー・グリーンといった、彩度を落とした絶妙なカラーが用意されているので期待したい。


ユーザーの利便性を高めるチャレンジが詰まったマリンマスター M-44

 フォルティスの新マリンマスターは、マルチパーパスなフィールドウォッチとして生まれ変わった。ここに基礎体力のあるムーブメントが組み合わさって、総合力も高められている。今回のインプレッションでは割愛してしまったが、約70時間のロングパワーリザーブは安心感がある。大自然を楽しむために長距離移動を伴う方にとっては、たとえ活動的なアウトドアユースであっても長いパワーリザーブはメリットに直結する。

 ダイアルの表現、ケース形状やベゼルには、フォルティスの持つ技術や新たな試みが見え、それがユーザーの利便性の向上とつながっている。長さの調整幅など改善の余地は残るものの、軽快なラバーストラップはアウトドアによく似合う。

 防水性能と新ムーブメント採用に目がゆきがちなM-44であるが、それだけに注目するのはもったいない。このスタイリングに興味を持った方は店頭で手に取って欲しい。


Contact info: ホッタ Tel.03-5148-2174


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