ラング&ハイネのイベントのために来日したギズベルト・L・ブルーナー。筆者は、この世界最高の時計ジャーナリストと、日本橋三越本店で話をする機会を得た。話題の中心は、リアルバリューの復活。つまりは、市場価値に惑わされない、本当の価値とは何か、である。彼がまず話題に上げたのは、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチの価格が足踏みしていることだった。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]
時計を買うのに必要なのは情熱と出会いだ
時計ジャーナリスト・文筆家。1947年、ドイツ生まれ。大学卒業後、バイエルン州文化省の上級行政官としてのキャリアをスタートさせた。1960年代に懐中時計や腕時計の収集を開始。以来、時計の歴史や腕時計の開発・製造に興味を持つようになる。80年代以降、時計に関する執筆を行い、30冊以上の書籍を上梓した。2018年、オンラインウォッチプラットフォーム「Uhrenkosmos」を共同設立。世界屈指の時計ジャーナリストである。
「ロレックスの『サブマリーナー』、パテック フィリップの『ノーチラス』、そしてオーデマ ピゲの『ロイヤル オーク』。これらは良い時計だが、価格が上がり過ぎた。そして現在は下落傾向にある。かつて、パテック フィリップのフィリップ・スターンにこう聞かれたよ。ノーチラスがまったく売れないのでどうすればいいのかと。ロイヤルオークにしたって、かつては値引きの対象だった」。そこでリアルバリューの話となったが、彼が挙げたのは、なんとパテックフィリップとロレックスだった。
「このふたつのブランドを取り上げたのは、独立系だからだ。今回は、大グループに属しているメーカーは意図的に省いたよ」
続いてはドイツメーカーの話。彼が復興以来見てきたA.ランゲ&ゾーネについては「グループ会社だが」と前置きして話を続ける。その後はノモス グラスヒュッテとラング&ハイネ。しかし、気に入ったクロックを買うために車を売り払うほどの人だけあって、〝先生〞の個人的な話の方が面白い。
「A.ランゲ&ゾーネが復興した際、ギュンター・ブリュームラインに『時計を作ってみたけれども、売れるかどうか分からない。1本買わないか?』と言われた」
ラング&ハイネの「ヘクトール」にしても「話を聞いて、これは絶対に欲しいと思った。実物を見ないうちに注文を入れた。私が買ったのは№1だよ。手巻きにしては防水性も高いし、ムーブメントも美しい」。
嬉々として時計の購入エピソードを語る先生の情熱は、生半なコレクターなど足元にも及ばない。
「時計を買うにあたっては、パッションと出会いが重要だよ。私が最後まで残そうと思っているのは、パテック フィリップの本を執筆した時に、ジュネーブで見つけたスクールウォッチだ。パテック フィリップのエボーシュを改良したもので、裏蓋を開けてみて、即お金を下ろして購入した」
「私は未完成なのだ、終わりはない」と言い切る先生。世界最高峰の時計ジャーナリストは、見識、情熱ともに、やはり圧倒的だった。これほどのジャーナリストを擁するドイツが、再び時計大国となったのは宜なるかな。
ラング&ハイネ初のスポーティーウォッチ。大ぶりに見えるが、直径40mm、厚さ10.95mmとサイズは手頃だ。もちろん、内外装の仕上げは申し分ない。実際は10気圧に耐えられるが、経年変化を考慮して5気圧防水に留めた。手巻き(Cal.LANG & HEYNE33.2)。19石。パワーリザーブ約48時間。2万1600振動/時。SS(直径40mm、厚さ10.95mm)。50m防水。275万円(税込み)。
https://www.webchronos.net/news/70598/
https://www.webchronos.net/features/74023/
https://www.webchronos.net/features/56706/