2022年8月にブルガリは世界的なアーティスト、空山基とのコラボレーションモデル「ブルガリ アルミニウム 空山基 限定モデル」を発表した。同作は有名アーティストとの協業ながら、特定の空山作品をモチーフにしたものではないという点で、異例とも言える存在だ。どのようにして空山モデルが誕生したのか、空山基本人に語ってもらった。
Photographs by Mika Hashimoto
細田雄人(クロノス日本版):取材・文
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
2022年12月4日掲載記事
ブルガリのコラボレーション作として異質な空山モデル
近年、日本の著名人とコラボレーションウォッチを多く展開するブルガリ。名を連ねるのは音楽家の坂本龍一をはじめ、藤原ヒロシや宮島達夫、千住博といったアーティスト、安藤忠雄や妹島和世といった建築家など、各界を代表するビッグネームたちである。
その中にあって異質な存在感を放つのが、8月末に発表された「ブルガリ アルミニウム 空山基 限定モデル」だ。というのも、これまでのブルガリと“大物”たちによる協業モデルは彼らの作品や活躍するフィールドを題材にしたものが多かった。対する空山モデルでは、彼自身の好きなもの、彼に影響を与えたものが強調されているのだ。
空山が幼少期より好きだったスピリット・オブ・セントルイス号のスピン仕上げを模した文字盤が特徴的なモデル。肌に直接当たるケースバックにはDLC加工が施されたTiが使用される。自動巻き(Cal.B77)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。アルミニウム×Ti(直径40mm)。100m防水。世界限定1000本。40万7000円(税込み)。
空山基といえば、言わずもがな世界を代表するアーティストだ。金属の持つ光沢感や曲線美をフェティシズムに落とし込んだ「セクシー・ロボット」シリーズといったピンナップ作品、ソニーの初代AIBOのデザイナーなど、空山の名を知らなくても、作品を見たことはあるという人は多いだろう。
そんな空山基とのコラボレーションモデルということ、そしてこれまでのブルガリが取ってきたアプローチの仕方を考えれば、当然、空山モデルも代表作であるセクシー・ロボットを連想させるような時計に仕上がっていると思うだろう。しかし、前述の通り空山モデルは、そんな我々の安易な想像を軽々と超えてきた。
「コラボレーションにあたりこちらから出した要望は『スピリット・オブ・セントルイス号のスピン仕上げをモチーフに入れてほしい』、それと『SORAYAMAのロゴをどこかに入れること』だけ」
スピリット・オブ・セントルイス号とは、チャールズ・リンドバーグの操縦によって1927年に無着陸での大西洋横断単独飛行に成功したプロペラ機「ライアン NYP-1」の愛称だ。同機のノーズ先端には独特のスピン仕上げが施されている。
「子供の時、学校からの帰り道にある鉄工所で、よく旋盤加工された鉄に目を奪われていて。それこそセントルイス号のようなスピン仕上げがされていて、その光の感じにエロティシズムを感じていたんだよね。セントルイス号もそれで幼い時からずっと好きだった」
空山作品の根幹をなす、金属質と光が織りなす艶感。そのフェティシズムの原点をモチーフとして入れてほしいというのが、空山の希望だった。これに対し、空山限定モデルは独自のアプローチでこれを表現した。それが文字盤上を覆い尽くすように配されたペルラージュである。
本来、ペルラージュはムーブメントの地板に入れられる、いわば表に出てこない装飾だ。これを時計の顔とも言える文字盤上で、大胆に用いる。時計になじみのない空山ならではの発想なのかと思いきや、どうやらそうでもないらしい。
「基本的には全部、ファブリツィオに任せたよ。餅は餅屋じゃないけど、基本的にコラボ作品の時はその分野の専門家に任せようと思っているんだ」
もちろん、ファブリツィオとはブルガリ ウォッチ デザイン センター シニア・ディレクターを務めるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニのことである。空山基の大ファンを公言する彼は空山の意図を汲み取り、異例とも言えるペルラージュ仕上げの文字盤を採用したのだ。
ファブリツィオがうまいのは、ペルラージュ文字盤をブルガリ アルミニウムと組み合わせた点だろう。軽量ながら強度に難があり、加えて汗によって腐食してしまうアルミニウムは従来、腕時計に使用されることのなかった素材だ。
それを突き詰めていき、ケースに転用させたブルガリ アルミニウムは、かつてファブリツィオがクロノス日本版のインタビューで「アルミニウムとはブルガリの革新という伝統の一部です」と語ったように、前衛的かつ挑戦的な時計の象徴なのである。空山とのコラボレーションの題材としてこれ以上のモデルはないだろう。