専門家や音楽家たちの協力を得て、ミニッツリピーターのムーブメントとケースの関係性を音響工学的に解き明かし、「ミニッツリピーター スーパーソヌリ」へと結実させたオーデマ ピゲ。実際のミュージックシーンとの繋がりも深く、モントルー・ジャズ・フェスティバルへの協賛や、マーク・ロンソンとの長期提携発表など、音楽にちなんだニュースには事欠かない。2022年にはそんな音楽シーンとの深い関わりを強調する「ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディション」も登場した。
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
音楽の世界との新たなる邂逅
誕生から半世紀の時を刻んできた「ロイヤル オーク」に続き、2023年にはエクストリームスポーツウォッチの「ロイヤル オーク オフショア」(以下オフショア)が、正式発表から30周年を迎える。すでに21年のフルリニューアルを経て、最新モデルには原点回帰とも呼べるスタイリングが与えられているが、このファーストモデルの誕生時にも大きなドラマがあった。オリジナルのロイヤル オークをデザインしたジェンタを激怒させたのだ。それほどオフショアの持つ大径かつボリューミーなデザインは、当時のスイス時計業界の常識からはかけ離れていた。
2022年のモントルー・ジャズ・フェスティバル開催に合わせて発表された限定モデル。タペストリー調のブラックダイアルには、イコライザーグラフィックを
模したペイントが施される。自動巻き(Cal.4309)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックス(直径43mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。世界限定250本。506万円(税込み)。
本モデルの製品ページはこちら
仕掛け人は当時のCEOであったステファン・ウルクハート。実際のデザインを手掛けたのは、オーデマ ピゲの秘蔵っ子であった弱冠22歳のエマニュエル・ギュエだ。プロジェクトが開始されたのは1989年で、発表から10数年が経過していたロイヤル オークを若年層向けにリデザインするというアイデアが発端だった。そのために大抜擢されたのが、86年に入社したインハウスデザイナーのギュエだったのだ。
当初ウルクハートは、このモデルをロイヤル オーク20周年にぶつけるつもりだったらしい。しかし、実際92年に製造されたのは100本のみで、これには試験的な意味合いも含まれていた。社内的にも反対派は多かったようで、彼らを納得させるための試験生産を行った後に、93年のバーゼル・フェアで正式発表されたのだ。その最初のリアクションは辛辣で、怒り心頭に発したジェンタを筆頭に、懐疑的な目を向ける関係者も多かった。
しかし実際に販売が開始されてみると、オフショアは鋭い感性を持った若年層を中心に、従来の高級時計像とは異なるカウンターカルチャーとして、瞬く間に受け入れられていった。そうした中にはハリウッド俳優やアーティスト、ヒップホップやR&Bのミュージシャンなども多く含まれていた。
アベンチュリンのダイアルに“ハーモニー”カットのカラーストーンを配したモデル。ラバーストラップにもモザイクエフェクトが盛り込まれる。自動巻き(Cal.5909)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWG(直径37mm、厚さ12.1mm)。5気圧防水。価格問い合わせ。
本モデルの製品ページはこちら
オーデマ ピゲと音楽の関わり。その技術的な始まりは2006年だ。同社はEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)と提携し、著名な弦楽器製作者や音楽家たちの協力を得て、19世紀のミニッツリピーター懐中時計の音を再現するプロジェクトをスタートさせたのだ。
大径の非防水ケースだからこそ可能であった音量と音質を、現代の腕時計で再現する試みは、8年にも及んだ共同研究の末、15年に発表された「ロイヤル オーク コンセプト RD#1」に結実。翌16年には「ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ」として製品化された。この特許技術は「ジュール オーデマ」や「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」などにも盛り込まれ、同社を象徴する技術資産のひとつになった。
一方、実際の音楽シーンとの関わりもさらに強まっている。1967年から毎年7月にレマン湖畔の町モントルーで開催されてきたジャズ・フェスティバルのデジタルアーカイブ化に、2010年からEPFLと共同で参加。フェスでの名演を記録したオーディオビジュアルのデジタルリマスターと保存を行うもので、これはユネスコの世界記憶遺産にも指定されている。
19年からは同モントルー・ジャズ・フェスティバルのグローバル・パートナーを務めると同時に、若いアーティストたちを支援するプログラムを展開させ、より音楽シーンとの結びつきを強固なものにしている。
22年5月にはアーティスト兼プロデューサーのマーク・ロンソンと長期提携プログラムを発表。その第1弾となった『Syncing Sounds』は、3つのエピソードから構成される楽曲で、創作のパートナーとしてはR&Bの新星として注目を集めるラッキー・デイが迎えられた。この音源は同社HPでも視聴可能だ。
詳細公式ページはこちら
22年のモントルー・ジャズ・フェスティバル開催に合わせて、オーデマ ピゲはひとつのリミテッドエディションを発表。タペストリーダイアルをアレンジして、イコライザーグラフィックを模した「ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディション」は、21年に登場した原点回帰版とは再び一線を画し、ソリッド感を強調したケースデザインを改めて採用している。
ケースサイドからリュウズガードに繋がるスライドノブのような造形や、インターチェンジャブルのラバーストラップを留めるスタッズ表面のチェッカリングは、ダイアルと同様、イコライザーボードとの造形的な繋がりを感じさせるが、何よりエッジを効かせた各部のディテールが、この時計の緊張感を大いに盛り上げてくれている。
【オーデマ ピゲ 日本特別コンテンツ】
https://borninlebrassus.audemarspiguet.com/
Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000
https://www.webchronos.net/features/87092/
https://www.webchronos.net/features/87094/
https://www.webchronos.net/features/87096/