オーデマ ピゲ 止まらない躍進「オテル デ オルロジェ×ミュゼ」

2022.12.06

オーデマ ピゲ創業の地となったジュウ渓谷のル・ブラッシュ。「時計師の道」と呼ばれた山越えのルートでジュネーブと結ばれたこの地は、冬期には雪に閉ざされる隔絶された空間であると同時に、「複雑時計の揺りかご」とも称されたキャビノティエたちの聖域でもあった。オーデマ ピゲが伝統の地に建設した「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」と、「オテル デ オルロジェ」は、そうしたジュウ渓谷のルーツと触れ合う新たなる拠点だ。

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]


ジュウ渓谷のルーツと触れ合う新拠点

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

公式には2020年7月から一般公開されている「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」だが、コロナ禍の影響もあって、実際に日本から訪れるのは難しかった。近頃は海外からのビジターも増えているようで、ジュウ渓谷の自然と時計文化に触れる格好の拠点となりそうだ。

 オーデマ ピゲ創業の地であり、現在も生産の中心地となっているジュウ渓谷のル・ブラッシュ。2013年から開始されたアート・バーゼルとのパートナーシップでも、同社の支援するコンテンポラリー・アートは、この地の景観が大きなテーマのひとつとなっている。オーデマ ピゲの時計作りを育んできたジュウ渓谷の自然と伝統。それを体感する中心地が「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」だ。

 BIG(ビャルケ・インゲルス グループ)の設計による新ミュージアムは20年3月に落成し、同年7月から一般公開されてきたが、折悪しくコロナ禍の影響とも時期が重なり、日本からの来訪は事実上不可能となっていた。しかし22年には、ウォッチズ&ワンダーズが久しぶりのフィジカル開催となったこともあり、スイスとの鎖国もほとんどクリアな状況になってきた。筆者も22年の6月末に新型ムーブメントの本社取材をオファーしており、その合間を縫ってついにこのミュージアムを訪れることができた。

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ
ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

 創業時からル・ブラッシュに建つ旧本社社屋から繋がるミュージアムの展示は、螺旋状の回廊に沿って設えられている。その螺旋を少しずつ下ってゆく行程は、「複雑時計の揺りかご」と呼ばれたジュウ渓谷の中でも例外的に、創業時から超複雑系のクリエイションに特化してきたオーデマ ピゲの歴史を辿ることになる。

 時代を重ねながら辿り着いた螺旋の中心部には、それこそ綺羅星のようなグランドコンプリケーションの数々が鎮座するのだ。また螺旋の外周部は、広大な牧草地が見渡せる採光部となっており、窓際に面したワークベンチで組み立ての一端に触れることも可能。降り注ぐ外光の中に設置されたメティエ・ダール工房、グランドコンプリケーション工房で仕上げられてゆく作品群も圧巻だ。もちろんここは〝展示目的の工房〞ではなく、実際のハイエンドピースを手掛けている。

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

 また22年6月には、ミュージアムと隣り合う敷地に、待望の新ホテルもオープン。生まれ変わった「オテル デ オルロジェ」の設計を手掛けたのも、ミュージアムと同じBIGで、ジュウ渓谷の傾斜に合わせたジグザグの回廊が各部屋を繋いでいる。客室へ降りるのに、エントランスのある最上階からエレベーターを使うことも可能だが、この回廊を辿ってゆくのも楽しい。全ての客室は、ミュージアムで見た谷底の平原に面しており、遠くに眺めるジュウ渓谷独特の針葉樹林とともに、静けさに包まれる。そして朝を迎えると同時に、暖かな陽光に包まれるのだ。

オテル デ オルロジェ

新しい「オテル デ オルロジェ」の建物を手掛けたのは、ミュージアムと同じくBIG。内装はAUM設計事務所が手掛けたもので、ジュウ渓谷由来の木材や石材を使用。全ての客室は谷底にあたる平原に面しており、そこに降りてゆくのにジグザグの回廊を辿るのも楽しい。

 ホテルの前を通るのは、ジュネーブとジュウ渓谷を結んで時計産業の発展を支えた「時計師の道」。ここで終点となる鉄道のルーツは、切り出された氷(19世紀には貴重品だった)をパリまで運ぶために敷設されたものだ。ジュウ渓谷に時計産業を根付かせたものは、ジュラ山脈を越えてフランスから亡命してきたユグノーたちであった。彼らが雪に閉ざされる厳冬期に、微かな陽光を頼りに部品を作り続けた時計師一族の源流だ。スイス時計産業の発展を支えた19世紀のキャビノティエ。彼らを包んでいたジュウ渓谷の自然はそのままの姿でここにあるのだ。

オテル デ オルロジェ
オテル デ オルロジェ


DISCOVER AUDEMARS PIGUET’S
MANUFACTURE des SAIGNOLES

マニュファクチュール・デ・セニョル

 ル・ロックルにあったルノー・エ・パピを源流とする、オーデマ ピゲの複雑時計設計部門は、2021年11月に近隣地区へと移転し、新たに「マニュファクチュール・デ・セニョル」として稼動を開始した。スイスの設計事務所であるクニック・ド・モルジェが手掛けた建物は、渓谷の地形に対応したモジュール式の平屋構造で、製造工程の流れに沿って、文字通り“上流から下流”へのプロセスが確立されている。

 一方、ル・ブラッシュでは21年春から、デ・ジウリ&ポルティエ アーキテクト事務所が設計を手掛けた新工房「アルク」の建設が進められており、25年に落成予定。この新工房は、現在の本社工房である「マニュファクチュール・デ・フォルジュ」とも繋がる予定で、将来的な発展を見越したモジュール構造が採用される一方、周囲の自然環境との共存も十分に考慮されている。


【オーデマ ピゲ 日本特別コンテンツ】
https://borninlebrassus.audemarspiguet.com/

Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000


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