ゼニスの傑作ムーブメント「エル・プリメロ」、誕生50年の節目に開発された「エル・プリメロ 3600」。2021年、この新型クロノグラフムーブメントを搭載した「クロノマスター スポーツ」が発表された。高精度な時間計測を実現したこのモデルを実際に着用してみると、ファーストモデルの意匠を引き継ぎながらも大きな進化を遂げていることが分かった。
自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm)。10気圧防水。127万6000円(税込み)。
細部まで作り込まれた新型ムーブメント搭載機
1969年に誕生した、世界最初期の自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」。誕生から50年の節目である2019年には、「エル・プリメロ A386 リバイバル」「デファイ エル・プリメロ 21」「エル・プリメロ クロノマスター 2」が、50周年記念3部作として発表された。
この3モデルのうち、エル・プリメロ クロノマスター 2に搭載されたのが、新型ムーブメントの「エル・プリメロ 3600」である。2021年発表の「クロノマスター スポーツ」にはこのムーブメントが搭載され、レギュラーモデルとして本格的な展開を開始した。
クロノマスター スポーツのまったく新しい点は、文字盤を10秒で1周するクロノグラフのセンター針を採用したことだ。これがベゼルの目盛りを指し示し、10分の1秒を正確に表示する。
ステンレススティール製のケースにはポリッシュ仕上げが施されている。ケースと一体型のストラップは、ラバーストラップもしくはステンレススティール製ブレスレットの選択肢があり、クラスプは5段階で約1cmの伸縮調整が可能だ。交換には工具が必要だが、適度なケースサイズと相まって、手首にしなやかにフィットする。
ファーストモデルのデザインを引き継ぐインダイアル
ブルー、ライトグレー、ダークグレーの3つのインダイアルは、エル・プリメロのファーストモデル「A386」の特徴を引き継いだものだ。秒はオリジナルと同じく、9時位置のライトグレーのインダイアルで表示されている。
エル・プリメロ 3600では、クロノグラフカウンターの役割は従来から変更されており、3時位置のブルーのインダイアルに60秒積算計、6時位置のダークグレーのインダイアルに60分積算計がそれぞれレイアウトされている。
一般的なクロノグラフでは60分積算計ではなく30分積算計が多いが、60分積算計は通常の分表示のように1時間で1回転するため、経過時間を直感的に把握しやすい。アワーカウンターがないため、クロノマスター スポーツでの確実な測定は1時間以内が向いている。
それぞれの積算計は小さいながらに読み取りやすい。60秒積算計は1秒ごとに刻まれた目盛りが10秒単位で大きく区切られているため、一瞥するだけで経過秒を把握できる。セラミックス製ベゼルに記された10分の1秒目盛りを使用して、例えば24秒のうちの4秒について、10分の1秒単位まで計測することも可能だ。つまり、どの位置でセンター針が停止するかによって、10分の1秒を読み取ることができるのである。
歯車から再設計されたエル・プリメロ 3600
日常生活において、10分の1秒の精度を求める人は多くはないだろう。しかし、その精度に重要性を見いだす人のためにクロノマスター スポーツは作られており、それこそがゼニスの哲学なのである。この細部まで考慮された表示は、3万6000振動/時で駆動するエル・プリメロ 3600における、革新的な研究開発によって可能となっている。
エル・プリメロ 3600は、ベースとなった「エル・プリメロ 400」と基本的には同じ構造だが、4番車からカップリングホイール(中間車)を介してドライビングホイールを駆動していない点が異なる。その代わりにガンギ車のピニオンから動力を取ってクロノグラフを駆動する、特許取得済みのカップリングが採用されている。ガンギ車のピニオンから動力を取り、それを中間車で増速させることで、センター針は10秒間に正確に100ステップを踏み、360度回転、つまり文字盤を1周し、10分の1秒刻みで計測することができるのだ。
エル・プリメロ 3600のメカニズムと動力制御のため、歯車の歯の形状を含めたすべての歯車とシャフトは再設計を余儀なくされた。
10分の1秒という高速度で動く針はムーブメントにパワーを要求する。振り角を計測すると、完全巻き上げ時には平均277゜だった振り角は、クロノグラフ作動時には232゜に落ちるという結果にも表れている。日差はプラス2~3秒程度で安定感がある。再設計されたことにより、パワーリザーブも従来の約50時間から約60時間へと延長された。
またリュウズによる設定も変更され、1段引きで日付のクイックチェンジ、2段引きで時刻を調整できる。トップにゼニスのスターマークがあしらわれたリュウズは、操作性抜群だ。「エル・プリメロ クロノマスター 2」では6時位置に配されていた日付表示は、クロノマスター スポーツではエル・プリメロのオリジナルモデル同様、4時半位置に移動されている。
進化し続けるエル・プリメロ
エル・プリメロ 3600は、コンピューターを駆使して再開発された。これは、約50年前にエル・プリメロ 400が開発された際には想像もできなかったことだ。
新しい技術を駆使しながらも、ゼニスはふたつのプッシャーで駆動する水平クラッチを採用した、コラムホイール制御の伝統的なクロノグラフの設計を大切に受け継いでいる。水平クラッチで期待されるように、クロノグラフのスタートは的確で安定感があり、プッシャーの操作感も良好だ。
クロノグラフのセンター針が運針する際には、長い針と強いファセットを効かせたインデックスの存在感が発揮される。蓄光塗料により、暗所では時分針とアプライドインデックスが明るいグリーンに輝く。なお、クロノグラフの各針の先端は赤く彩られているが、蓄光性ではない。9時位置に配されたスモールセコンドの秒針の先端は黒く着色され、クロノグラフ針とは差別化されている。
エル・プリメロ 3600の駆動は、4本のネジ留めで固定されたサファイアクリスタル製のケースバックから鑑賞できる。水平クラッチや青焼きネジなどが組み込まれたクロノグラフムーブメントは、見ていて飽きない。視認するのは難しいが、ガンギ車とアンクルはシリコン製だ。ゼニスのマークであるスターが配された、オープンワーク仕様のローターがすべてをまとめ上げている。
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