ロンジン 復刻の名手 アーカイブスと向き合った真摯な復刻モデル作り

2022.12.13

2022年で創立190周年を迎えた老舗ブランド、ロンジン。同社の得意分野のひとつが、その豊富なアーカイブを用いた復刻だ。ロンジンはいかにして復刻の名手と呼ばれるに至ったか、最新作を例に探っていきたい。

ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル、ロンジン ウルトラ-クロン

(左)ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル
筆記体ロゴがエレガントな、ブランド創立190周年記念モデル。今作を特徴付けるブレゲ数字インデックスは、CNCマシンによって鋭く彫り込まれている。薄いケースは着用感にも優れた快作だ。自動巻き(Cal.L888.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径40mm、厚さ9.35mm)。3気圧防水。31万3500円(税込み)。
(右)ロンジン ウルトラ-クロン
再現度の高いデザインは言うまでもなく、現行機らしい卓越した仕上げは古臭さを微塵も感じさせない。6時位置に燦然と輝くロゴは高精度の証し。その意味は半世紀以上が過ぎた今も変わっていない。自動巻き(Cal.L836.6)。25石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約52時間。SS(直径43mm、厚さ13.6mm)。30気圧防水。47万5200円(税込み)。スペシャルボックス入りは51万1500円(税込み)。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
野島翼:取材・文 Text by Tsubasa Nojima
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]


「ロンジン ウルトラ-クロン」と「ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル」

ロンジン ウルトラ-クロン

中央に稜線を持たせた立体的なロゴが誇らしげだ。ブラックカラーのダイアルは、グレイン仕上げを施すことによって、実用機らしい表情が与えられた。ダイアル上にプリントされている“ULTRA- CHRON”の文字は、滲みなくシャープだ。

 機械式時計が再び脚光を浴び始めた1980年代以降、数々のブランドが取り組んできた“復刻”。単なる懐古調デザインではなく、特定のモデルにスポットを当てた復刻は、87年のロンジン「リンドバーグ」が先駆けだったのではないだろうか。以降、現在に至るまで、同社は復刻時計というカテゴリーの先頭を走り続けてきた。

 しかし、かつての同社の復刻においては、一部のマニアから要望が絶えない部分もあった。例えば、チェコスロバキア空軍やイギリス陸軍パラシュート部隊向けのミリタリーウォッチ等、マニア垂涎のモデルを復刻してきたが、オリジナルには存在しない日付表示と「AUTOMATIC」の文字を好まないマニアも存在したのだ。実用性を重視する“一般人”が主な購買層であるロンジンにとって、誰をターゲットに製品開発を行うべきか明らかであったのかもしれない。

ロンジン ウルトラ-クロン

サファイアクリスタル製のインサートを採用した逆回転防止ベゼル。1968年に登場した「ロンジン ウルトラ-クロン ダイバー」は、コーティングされたインサートを採用していた。オリジナルの雰囲気を損ねることなく現代的なアップデートを加える、復刻のお手本のような手法だ。

 近年、そんな同社のデザインにも変化が表れてきた。オリジナルの雰囲気を損ねる日付表示や表記を排除しただけでなく、より忠実な復刻を行うべく、3Dスキャナーを用いることで外装の再現度を飛躍的に高めたのだ。

 2022年発売された「ロンジン ウルトラ-クロン」は、1968年に誕生した高振動ムーブメント搭載機、「ロンジン ウルトラ-クロン ダイバー」の復刻だ。グレインダイアルやサファイアクリスタルインサートを用いた逆回転防止ベゼルは、オリジナルの意匠を踏襲しつつも現行機にふさわしい仕上がりを見せる。何よりも、クロノメーター認定を取得した10振動ムーブメントを新規開発したところに、「ウルトラ-クロン」を名ばかりにさせないという、自社の歴史への敬意が表れている。

ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル

深く彫り込まれた、優雅なブレゲ数字インデックス。そのシャープな造形から、創立190周年にかける想いが垣間見える。ロンジンの豊富なアーカイブから着想を得た意匠であるが、「ロンジン マスターコレクション」のモダンなケースと組み合わせた結果、新鮮さをも感じさせるモデルに仕上がった。

 またロンジンは、創造性を発揮しにくい、お手本ありきの復刻とは異なる取り組みも進める。好例が、「ロンジンマスターコレクション」のブランド創立190周年記念モデルだ。サンドブラスト仕上げのシルバーダイアル、ブルースティールのリーフ針、ブレゲ数字インデックス等、クラシカルなデザインを与えられているが、本作に明確なモチーフは存在しない。同社の長い歴史の中で紡ぎ出されてきた、懐中時計を含むアーカイブからエッセンスを抽出し、現代のロンジンを形作るコードとして再構築したものだ。同様の取り組みは、他ブランドにも見られる。しかし、その中でもロンジンが一歩抜きんでているのは、数々の復刻を手掛ける中で、自身の歴史を深く知り、そこから学び続けているからだ。

ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル

ぽってりと丸みを帯びたリーフ針や筆記体ロゴも、本作をエレガントに見せる要素のひとつ。サンドブラスト仕上げのダイアルに対し、見返し部分にヘアライン仕上げを施すことで、時計全体にメリハリを利かせている。



Contact info: ロンジン Tel.03-6254-7350


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