2022年11月11日、日本における新作発表とプレスカンファレンスのため来日した、H.モーザー インターナショナル セールス ディレクターのニコラス・ホフマン。年々拡大する需要に対し対応を急ぎながらも、ユニークな時計を生み出し続ける姿勢に変わりはないと語った。
Text by Kouki Doi(Chronos-Japan)
我々の顧客は“普通じゃない”時計を求めている
同社CEOのエドゥアルド・メイラン率いる現在のH.モーザーは、時計業界でも異色の存在だ。2020年より展開を開始した「ストリームライナー」はブランドを代表する大ヒット作となり、現在では生産が追いついていない状況が続いている。
2022年11月11日、このストリームライナーに加わった新作「ストリームライナー・トゥールビヨン レインボー」のお披露目イベントが日本で開催するにあたり、長くH.モーザーのセールスを担当しているニコラス・ホフマンが来日した。
1977年8月9日、イギリス生まれ。H.モーザー インターナショナル セールス ディレクター。時計・宝飾品業界での豊富な経験を生かし、2010年にH.モーザーへ入社。リージョナル セールス ディレクターに就任し、アジアおよび北欧、中欧、東欧を担当。16年からは、インターナショナル セールス ディレクター兼マネージング ボード メンバーに就任。その優れたコミュニケーション力や多文化対応能力でH.モーザーをより豊かなものにしている。
今回、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)2022で「パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトン」がトゥールビヨン部門賞を受賞し、その授賞式出席のために来日できなかったメイランは、ストリームライナーの第1作を披露した当時「ストリームライナーはパーペチュアルのようなアイコンになり、ブランドの成長に寄与してほしい」と発言しているが、その思いはわずか3年で現実のものとなった。
ホフマンは、ストリームライナーが発表される前のことを笑顔で振り返った。
「2019年の11月、完成したプロトタイプを見て、H.モーザーのチーム全員が沈黙してしまったことが印象的でした。見たことのないデザインに身を包んだ時計がいきなり目の前に現れ、自分はこれが好きなのか嫌いなのか判断できませんでした」
コレクション1作目の「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ」のことである。1920~30年代に登場し、活躍した高速列車の名を冠し、ステンレススティール製のケースからブレスレット、サファイアクリスタル製の風防に至るまで、滑らかな曲線で構成されており、今までのH.モーザーにはない斬新なものだったのだ。
彼はこう続ける。「しかし、腕に着けてしばらく眺めていると、段々と良いものだと実感するようになりました。ラグジュアリースポーツウォッチを勝手に形式化していた当時、ストリームライナーはあまりにも異形だったのです」。
たったの3年で、フライバッククロノグラフ、3針、トゥールビヨン、そしてパーペチュアルカレンダーと、搭載する機能も充実させてきたストリームライナー。話を新作に戻すと、今回披露されたのはレインボーのカラーサファイアがベゼルにセットされた華やかなモデルだ。H.モーザーには、貴石をセッティングした宝飾系のモデルが限定エディションで複数存在するが、いずれも使われている石は単色かワントーンのグラデーションカラーである。
ストリームライナーに加わった華やかなレインボーカラー。落ち着いたシグネチャーフュメダイアルには開口部があり 、フライングトゥールビヨンの動きを眺めることができる。自動巻き(Cal.HMC804)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.1mm)。12気圧防水。1716万円(税込み)。
ブランド初となったレインボーカラーの採用。その理由をホフマンはこう話す。
「これまでにも採用してきたジェムセットのノウハウを、遊び心を加えながらストリームライナーに反映したいというのもありますが、1番の目的は顧客のニッチな需要に応えるためです」
日本でも最近、男性の間でハイジュエリーをセットした腕時計が人気だが、世界的に見ても比較的若い男性がジュエリーウォッチを求める声が徐々に高まっており、それも全面にジュエリーをセットしたきらびやかなものではなく、ベゼルなど一部だけにセットした控えめなものを求めているそうだ。それはファッションの影響もあるが、人と被らない、特別なものに価値を見いだす若い世代が増えているからだろう。
では、この増えてゆく一方の顧客需要に、“Very Rare”を掲げるH.モーザーはどう対応するのか?
「我々は生産数を増やすため積極的に動いており、人材を増やしながら工作機械などの設備にも投資し、まさに今ファクトリーを拡大している最中です。2021の時点で50〜60人だった従業員は、2022年には80人以上に増え、来年末には120人を目指しています。それは時計師に限らず、セールスやマーケティングなどの全職種に言えることです」
H.モーザーは現状、東京のNX ONE GINZAやISHIDA新宿、大阪のoomiya心斎橋店など、限られた店舗において常時並んでいるのは、多くても数本程度である。また日本に限らず他国でも同じ状況であるそうだ。
ホフマンは、この状況を少しでも解消したいと強調する。「生産数を増やすことを目指していますが、それは決して大量生産が目的ではなく、高い品質を維持し続けることを第一としています。需要と供給のバランスをうまく図り、お待たせしているお客様のフラストレーションの解消も重要であると考えており、それに応えることが課題です」
ストリームライナーの成功で大きく変わるH.モーザー。生産本数が増えても、“Very Rare”の精神は変わらず、次々とユニークなモデルを生み出し続けるだろう。
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