ポルシェ・デザイン「クロノグラフ 1」限定版を相棒に、ポルシェ 911を試乗&着用レポート!

2022.12.10

ポルシェ 911の生みの親、フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェが自身のデザインスタジオを設立し、ブラックのクロノグラフ 1を世に送り出したのは50年前のことだ。ポルシェ・デザイン「クロノグラフ 1」の限定版を着けてポルシェ 911 タルガの特別仕様車に乗り、F.A.ポルシェの故郷、ツェル・アム・ゼーを抜け、アルプスで最も美しい峠まで駆け上がる。

クロノグラフ 1-911 エディション 50Y ポルシェ・デザイン

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
マルクス・クリューガー:写真 Photographs by Marcus Krüger
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]


ブラックをまとうふたつのアイコン

ポルシェ 911 エディション50Y ポルシェ・デザイン

ポルシェ 911の超近代的なコックピットに乗り込み、クロノグラフ 1を手首に着ければ、気分は映画「トップガン」のトム・クルーズに。彼も車を駆るとき、同じ腕時計を身に着けていた。

 雪の壁、岩、草木などの風景が、ホワイト、グレー、グリーンと飛び交っていく。峠を目指す道中、後ろから、前から、横から、次から次へとさまざまな色彩が押し寄せる。さらなるカーブが続く中、加速、ブレーキングを繰り返しながら時折、下の料金所でスタートさせた「クロノグラフ 1」に目をやる。

 オーストリア最高峰、標高3798mのグロースグロックナーの鞍部を越える「グロースグロックナー・アルプス山岳道路」は、アルプス山系で最も美しい峠と言われている。帰りはもっとゆっくり見ようと誓う。

 クロノグラフ 1を手首に着け、ポルシェ 911の近代的なコックピットに乗り込み、蛇行する道を渉猟していると、映画「トップガン」のトム・クルーズになった気分になる。トム・クルーズは、1986年の「トップガン」でも2022年の続編「トップガン マーヴェリック」でも、戦闘機の訓練中にポルシェ・デザインのクロノグラフを着用している。この腕時計がこれ以上クールに見えるシーンは、果たしてあるだろうか。

イェンス・コッホ

特別な「クロノグラフ 1」を着け、ポルシェ・デザインの本拠地で911 タルガ GTSを走らせるイェンス・コッホ。

漆黒に染まる

クロノグラフ 1-911 エディション 50Y ポルシェ・デザイン

一部、ブラックコーティングが施されたクロノグラフムーブメントと、実用的なクイックリリースシステムを備えたブレスレット。センターロックとポルシェ クレストを備えたローターは、911 ターボ Sのリムを精密に再現したミニチュアアートだ。

 ブラックのカーバイド・コーティングとビーズブラスト仕上げを施したチタンケースは、あらゆる光を飲み込んで反射を防いでくれるのがうれしい。文字盤の白黒のコントラストと、ネオンレッドのクロノグラフ秒針は、マッハ1のスピードでも、峠を駆ける速度でも、良好な視認性を約束する。ケース、ブレスレット、文字盤はオリジナルモデルを忠実に再現したものだ。

 フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェがデザインし、1963年に発表されたスポーツカーのアイコン、ポルシェ 911は美しいモデルだ。その彼が、自身のデザインスタジオである「ポルシェ・デザイン」を立ち上げたのは、今から50年前のこと。

 今日、我々がシュコダではなく、ポルシェ 911で峠道を行くのは、享楽主義者を気取るためではない。第8世代になってもなお、彼が世に送り出した当時のままのシルエットと丸いフォルムを備えたスポーツカーこそ、クロノグラフ 1にふさわしいからだ。

 ポルシェも同じ考えのようである。ポルシェ・デザインの創立50周年を祝うため、911 タルガ 4GTSの特別仕様車「ポルシェ 911 エディション50Y ポルシェ・デザイン」を発表した。ポルシェ・デザインのブランドカラーである黒を基調とし、チタン製のパーツを使い、クラシカルなチェック柄のシートを備え、センターアームレストのレザー部にはF.A. ポルシェのサインがエンボス加工されているなど、数々のディテールを備え、750台限定生産で登場した。

ポルシェ 911 エディション50Y ポルシェ・デザイン

特別仕様車「ポルシェ 911 エディション50Y ポルシェ・デザイン」に乗り、ブランドの本拠地、ツェル・アム・ゼーを駆け抜ける。ポルシェ・デザインの創立50周年を記念して発表された特別仕様車は黒を基調とし、チタン製のパーツを使うなど、数々の特別なディテールを備える。

 この特別仕様車を手に入れるということはどのような感覚なのか、説明してみよう。

 例えば、ロレックスの「オイスター パーペチュアル」を買うために貯金し、数年後、時計宝飾店でようやく手に入れたとしよう。だが、オーナーズイベントで隣の席になったユーザーが、そのオイスター パーペチュアルの約100倍の価値を持つと思われる、ロレックス「オイスター パーペチュアル サブマリーナー」の“COMEX”モデルを手首に着けているのを見た時、どのような感覚に襲われるだろうか。ポルシェ・クラブでは、限定モデルの911に乗ったオーナーが現れると、ほとんどのユーザーがそう感じるそうだ。

911 エディションの不満点

 残念なのは、この限定版クロノグラフ 1が、2505万円を支払って記念限定車「ポルシェ 911 エディション50Y ポルシェ・デザイン」をオーダーした場合のみ、購入できるという点である。

 だが、だからといって悲しむ必要はない。限定版のクロノグラフ 1はポルシェ 911のホイールリムを再現したローターとフライバック機構を備えた特別仕様だ。しかし、ポルシェ・デザインのローターを搭載し、ほとんど同じデザインのケースとブレスレットを持つレギュラーモデルを148万5000円で入手することができるのだ。このモデルは「クロノグラフ1-オールブラック ナンバードエディション」と呼ばれ、年産1000本を予定している。

 ちなみに2022年初めに発表された、ポルシェ・デザインの旧ロゴ、クローズドバック、オリジナルのタキメータースケールを搭載した500本限定モデル「クロノグラフ 1- 1972 リミテッド・エディション」は、発売されたと同時に完売となっている。

 車と時計は切っても切り離せないアイテムだが、我々が今回、オーストリアにいるのは偶然ではない。1972年、ポルシェ家がスポーツカーメーカーの役員を辞することを決めると、フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェは自身のデザインスタジオを開設した。

クロノグラフ 1

クロノグラフ 1
1972年、初代モデル。自動巻き(Cal.レマニア5100)。17石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径40mm)。フライバック機構搭載。10気圧防水。生産終了。
クロノグラフ 1-1972 リミテッド・エディション

クロノグラフ 1-1972 リミテッド・エディション
2022年、自動巻き(Cal. PorscheDesign WERK 01.140)。25 石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(直径40.8mm、厚さ14.15mm)。100m防水。世界限定500本。108万9000円(税込み)。完売。

 当初、本拠地はシュトゥットガルトだったが、約2年後にはザルツブルク州のツェル・アム・ゼーに移転した。自然をこよなく愛したフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェが幼少期を過ごした家が目の前にある場所である。72年に発表されたクロノグラフ 1を皮切りに、メガネやステーショナリーなど、多くのライフスタイルグッズが生まれた。

 我々は、F.A. ポルシェが2004年に退任した後、そして、12年に逝去してからそのままの状態で残されているアトリエを訪れた。壁には孫たちの描いた絵が飾られ、コレクション棚にはたくさんのモデルカーが並び、ダックスフントの彫像、製図板、愛用のパイプを載せた灰皿などがある。

クロノグラフ 1-オールブラック ナンバードエディション

クロノグラフ 1-オールブラック ナンバードエディション
2022年、自動巻き(Cal.Porsche Design WERK 01.140)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(直径40.8mm、厚さ14.15mm)。100m防水。148万5000円(税込み)。
クロノグラフ 1-911 エディション 50Y ポルシェ・デザイン

クロノグラフ 1-911 エディション 50Y ポルシェ・デザイン
2022年、自動巻き(Cal.Porsche Design WERK 01.240)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(直径40.8mm、厚さ14.15mm)。フライバック機構搭載。100m防水。特別仕様車「ポルシェ 911エディション 50Y ポルシェ・デザイン」のオーナーのみ購入可能。

 そして、机の上の目立つ場所には、1960年代初頭にポルシェが設計した、史上最も美しいレーシングカーと称賛されるポルシェ 904の木製モデルが飾られている。

 F.A. ポルシェが30年間仕事をし、数多くの設計を生み出した机の上で、彼が初めてデザインしたクロノグラフ 1を撮影できたのは感動の瞬間だった。この腕時計を見ると、スピードメーターのような計器として構想されたことがよく分かる。過剰な装飾は一切排され、あくまでも機能が主役となっている。クロノグラフのスタートボタンは操作しやすく、リセットやフライバックのプッシャーもわずかな力で操作できる。ねじ込み式リュウズも大きくて扱いやすく、秒針停止機能や日付早送り機能も搭載され、時刻合わせも容易に行うことができる。

フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェのアトリエ

フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェが2012年に逝去してからそのままの状態で残されているアトリエ。愛煙家のF.A.ポルシェは、時計やメガネだけでなく、パイプのデザインも手掛けた。

ドライビングとともに

 グロースグロックナー・アルプス山岳道路の入り口であるブルックまで、ポルシェ・デザイン・スタジオからわずか5分の道のりだった。しばらくすると、道は斜面を蛇行しながら上り始め、我々は標高2405mの地点に到達した。タルガ・ルーフは大きなリアウィンドウの下に電動で格納した。スポーツエグゾーストが奏でるサウンドはいかにも水平対向エンジンらしい。

 この黒いスポーツカーのリア部には、他の911と同様、ドライサンプ方式の水平対向6気筒エンジンが搭載されている。GTSは480ps、タルガは常に4輪駆動で、峠道でも十分な推進力とトラクションを発揮する。

クロノグラフ 1-911 エディション 50Y ポルシェ・デザイン

F.A.ポルシェにとって、腕時計もレーシングカーの計器同様、「素早く判読できること」が重要だった。1972年に誕生した初代クロノグラフ 1から、そのデザインコードは受け継がれている。

 一方、テストウォッチを駆動するエンジンはキャリバー01.240と呼ばれ、ムーブメントサプライヤーのコンセプト社が開発・製造したものである。カム方式のクロノグラフ機構を採用し、自動巻きで約48時間のパワーリザーブを備え、精度は独立機関であるスイス公式クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)が証明している。歯車の多くが透かし彫り状に仕上げられ、一部のブリッジにはブラックコーティングが施され、ポルシェ・デザインのロゴ “pd” が配されるなど、装飾も豊かだ。これらの機構の上で回転するローターはセンターロックとエンブレム(ポルシェ クレスト)を備える。プラチナカラーで塗装された911 ターボ Sのリムを精密に再現したミニチュアアートである。

 両者とも高い精度と性能を備えているが、決め手となるのはやはり「どのくらいマシンと一体となれるか」である。ポルシェ 911の18-way電動調節式スポーツシートは、横方向のサポートだけでなく快適な座り心地を提供する。クロノグラフ 1のメタルブレスレットも、時計本体をしっかりと心地よく留めてくれる。フォールディングクラスプは微調整が可能で、手首に合わせてブレスレットを10mmの範囲で5段階に調節できる。

 ラグの間のブレスレットの裏側には便利なクイックリリースシステムがあり、ボタン操作で簡単にブレスレットを別のストラップに交換することができる。クロノグラフ1にはチタン製のブレスレットに加え、長さの異なる2種類のブラックレザーストラップも付属している。

 峠の高みからの眺望はえも言われぬ美しさだ。ここまで来るのにどのくらいかかっただろう。正直分からない。氷河に覆われた山頂が雲の中に消えゆく光景のなんと魅力的なことか。景色を堪能した我々をヒュッテで待ち受けていたのは、オーストリアの有名なデザート、カイザーシュマーレンである。我に返りクロノグラフに目をやると、まだ動いている。止めるのを忘れたのだ。トム・クルーズであれば、このような結末にはならなかっただろうに。



Contact info: ドイツ時計 Tel.03-6277-4139


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