2018年に創業し、わずか数年でミドルレンジを代表するブランドのひとつとなったノルケイン。そんな同社のクラシックなGMTウォッチ、「フリーダム 60 GMT」をレビューする。ノルケインの実力とはいかほどか。次第に海外への渡航も緩和されつつある今、今作は頼れる旅先のパートナーとなり得る、注目の時計だ。
2022年12月10日公開記事
レビューを行った「フリーダム 60 GMT」。クラシックな面持ちながら、充実したスペックが魅力のモデルだ。ケースの縦の長さは実測で約49mm。サンレイ仕上げのブラックダイアルは、光源によっては柔らかなグレーにも映る。自動巻き(Cal.NN20/2)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径40mm、厚さ14.5mm)。100m防水。45万1000円(税込み)。
躍進を続ける超新星ノルケイン
まずは、ノルケインというブランドについて触れておきたい。ノルケインは2018年創業の若いブランドだ。立ち上げたのは、ブライトリング出身のベン・カッファー。スイス機械式時計文化の継承を使命に掲げ、19年の頭にスポーツウォッチの「アドベンチャー」と、クラシカルな「フリーダム」のふたつを発表。
同年の暮れにはフラッグシップとなる「インディペンデンス」を追加し、同社は以降、この3つのコレクションを軸に、ラインナップを拡充していく。これらのコレクションの名前は、そのまま同社のコアバリューも示している。
同社のラインナップは、いずれもミドルレンジに属する。この価格帯は、長い歴史を持つものから新興ブランドまで、まさに群雄割拠。しかしその中でも同社が確かな存在感を示しているのは、スイス有数のサプライヤーの技術力を結集させていることと、常に前進を続ける姿勢を持ち合わせているからだろう。これらは互いに相関関係にある。
ノルケインは、いわゆる自社一貫生産のマニュファクチュールではない。設計した部品をサプライヤーに生産委託し、それらを組み上げることで時計を作り上げている。スイス時計の歴史を鑑みれば、これこそが伝統的な時計製造と言えるだろう。
ここで重要なのが、サプライヤーとの関係構築である。どのくらい細かな要望を聞いてくれるか、生産ラインを割り当ててくれるかは、与信や関係性等に依存する。巨大資本に属する大口顧客であれば、ある程度融通を利かせやすいだろうが、ノルケインのように歴史が浅く小規模なブランドでは、地道に関係性を構築していく他ない。
同社は自らの信念やビジョンを共有し、育んでいったサプライヤーとの絆を基に時計製造を行ってきた。そして、その姿勢に共感した更なるサプライヤーが集い、ノルケインの時計を進化させていったのである。
一例は、20年に発表されたケニッシとのコラボレーションだ。また、22年にはジャン-クロード・ビバーを経営顧問に迎え入れ、新開発の構造と素材を用いたスポーツウォッチ、「インディペンデンス ワイルドワン」を発表している。マニュファクチュールがもてはやされる中、サプライヤーとの共存共栄の道を選び、それによって使命であるスイス機械式時計文化の継承を実現しているのだ。
着用したフリーダム 60 GMTの概要
今回レビューを行う「フリーダム 60 GMT」は、その名の通りフリーダムコレクションに属するモデルだ。このコレクションは、1960年代のスタイルを踏襲したクラシックなデザインを有しており、ボックスサファイアクリスタルやシンプルなラウンドケースにその特徴を見ることができる。
簡単に今作のスペックを見ていこう。機能は、時分秒による通常の時刻表示の他、第2時間帯表示と日付表示を持つ。ケースの直径はコンパクトな40mmながら、厚さは14.5mmと少々ボリュームがある。ラグ幅は20mmのため、社外ストラップの選択肢が広いのは大きなメリットだ。リュウズ及びケースバックはねじ込み式であり、これによって100mの防水性を達成している。
ムーブメントは、ケニッシ製のCal.NN20/2。C.O.S.C公認クロノメーターを取得した高精度に加え、約70時間のロングパワーリザーブを誇る。更に、耐衝撃性に優れる両持ちテンプを採用する。
レビューする個体には、ブラックのパーロンラバーストラップが装着されているが、その他にアルカンターラ®️、クロコスタイルラバー、ノータイドストラップと、ステンレススティールブレスレットが用意されている。
アルカンターラ®️は高級車の内装にも使用される人工皮革、ノータイドは海洋プラスチックを原料にした素材だ。同社は動物や海洋保護を推進しており、これらのラインナップからは、それを単に言葉として掲げるだけでなく実行に移していることが分かる。
堅牢な外装に散りばめられた、クラシカルなディティール
手に取って、そのデザインから見ていきたい。パッと見た感じには太いラグのためかモダンな印象を受けるが、1960年代のスイス時計に着想を得ているだけあり、随所にクラシカルな意匠が散りばめられている。
まずは、ダイアルを覆うサファイアクリスタル風防だ。丸みを帯びたふっくらとした立ち上がりや、柔らかな光がダイアルの縁を歪ませている様子が、まるでプラスティック風防のような趣を持つ。
ダイアルに目を移すと、インデックスの内端と時分針には、濃いクリーム色のスーパールミノバが塗布されていることが分かる。同社がオールドラジウムカラーと名付けているように、これは経年によって変色したラジウム夜光塗料を模したものだ。
その色調は、インデックスの方がより濃く、時分針はより白に近いように見える。真意は定かでないが、この差が意図したものであるのならば、ヴィンテージ感がくどくなることを嫌ったためではないだろうか。こうした夜光塗料は手軽にヴィンテージ感を与えることができるが、あまりに多用すると、あざとさが出てしまう。あえて控えめにすることで、メインではなくアクセントとして見せているのではないだろうか。
時分針はシリンジ型を採用している。この形状は、針の中腹に太さを持たせることで視認性を高めつつ、鋭く尖った先端が目盛りを指し示すことで、優れた判読性も兼ね備えている。かつてミリタリーウォッチにも多用された実用的なデザインだ。そのメリットを最大限に生かすべく、秒針やGMT針も含めた各針は、正確に各々のインデックスや目盛りに確実に到達した長さを持つ。
ダイアルは、控えめなサンレイ仕上げのブラックカラー。風防のカーブによって分かりにくいが、ダイアル自体もドーム型に仕上げられており、機械式時計黄金期へのリスペクトが見て取れる。内側に配された24時間リングと、先端だけ赤くペイントされたGMT針が表すように、今作のGMT機能はヴィンテージテイストを崩さぬ控えめなデザインだ。日中をホワイト、夜間をグレーで色分けした24時間リングは、ブラックカラーのダイアルにうまく溶け込んでいる。
幅の狭いベゼルを用いたラウンドケースも、古典的なデザインと言えるだろう。同社のインディペンデンスやアドベンチャーのスポーティなケースに比べると、一見没個性的に映るかもしれないが、その細部にはさまざまな工夫が見て取れる。
例えば、14.5mmという厚さを感じさせないケース構造だ。今作に搭載されるムーブメントは、厚さ7.52mm。必然的にそれを包み込むケースは厚くなる。しかし、その厚さをミドルケースばかりに寄せるのではなく、ベゼルや風防に厚みを分散させることにより、ミドルケース自体の厚さを軽減し、見た目のボリューム感を少なくしているのだ。
また、ラグの先端を斜めに断ち切った形状とすることで、ケースをコンパクトに見せている。ベゼルとミドルケースの径が揃えられていることも、凝縮感を増幅している。
上述の通りストラップはラバー製だが、パーロンストラップを模したパターンと、ノルケインステッチによって、ナイロン製に見間違えるほどだ。最厚部は5mmほどあり、ケースとのボリュームも調和がとれている。先端に取り付けられた尾錠は専用デザイン。サテン仕上げとポリッシュ仕上げを併用することによって、立体感のある仕上がりだ。