オメガが2019年に発表した、総重量わずか55gのスポーツウォッチ「シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”」。今回は、ケースやムーブメントにガンマチタンやセラマイズドチタンを採用し、新たな技術を盛り込んだ本モデルの着用レビューをお届けする。
手巻き(Cal.8928 TI)。29石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックス×ガンマチタン(直径41mm)。15気圧防水。668万8000円(税込み)。
ハイテクチタンで実現した、オメガの超軽量時計
革新的な軽量性に開発の焦点が当てられたオメガのスポーツウォッチ、「シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”」。開発にあたってオメガは2年以上を費やし、設計の細部に至るまで見直しを行った。この結果、新たな技術も誕生した。例えば搭載される手巻きムーブメントは、オメガ初のチタン製キャリバーだ。その実現が容易でなかったことは明らかである。
「ウルトラライト」の名を関した本モデルの重量は、ブラックのテキスタイルストラップを装備した場合、わずか55gである。ラバーストラップとチタン製フォールディングクラスプの場合は、実測で76gだった。過去に同様の着用レビューを行った「シーマスター プラネット オーシャン」のチタン製ケース、セラミックスベゼル、ラバーストラップ仕様のモデルは約3割増しの104g。シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”は、シーマスター プラネット オーシャンとまったく同じ素材で作られているため、オメガの努力によってかなり軽量化されていることがわかる。
なお、シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”のケースには主にチタンが使われているが、ただのチタンではない。ミドルパーツ、サファイアクリスタル製ケースバック、リュウズにはオメガで新しく開発された「ガンマチタン(γ-TiAl)」という合金が使われている。この素材は、チタンとアルミニウムの金属間化合物であるためチタンアルミナイド(TiAl)とも呼ばれる。50%から55%のアルミニウムを含有するため、既存のチタンより軽い。TiAlをベースとした合金の開発は1970年頃に始まったが、実用化に至ったのは2000年頃だ。
低密度でありながら堅牢な特性から、チタンアルミナイドは航空宇宙分野やスポーツ用品、自動車産業にも使用されている。チタンアルミナイドは従来のチタンよりも軽く、しかも硬い。ラグの裏面には、この特殊素材の使用を示す「γ-TiAl」の刻印がさりげなく施されている。
文字盤には、時計業界で最も一般的なチタン合金であるグレード5チタンが採用されている。軽量で耐食性に優れ、極端な温度変化にも耐えられる素材だ。グレード5チタンの色は、ステンレススティールによく似たライトグレーで、シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”では、チタンアルミナイドのケースボディと完璧にマッチしている。
チタンとセラミックスを絶妙に組み合わせた外装
オメガは、文字盤の素材を極限まで削減する研究と厳しいテストを長期間にわたって行った。これにより、時計の外観を犠牲にすることなく時計全体の重量を落とすことに成功している。
シーマスターの特徴である文字盤の水平ラインは、くぼみで表現されている。文字盤の中央に向かって先端が細くなるインデックスと、先端が矢の形状をした分・秒針は、ひと目でシーマスター アクアテラと分かる特徴だ。時分秒針はアルミニウム製である。針とインデックスにはブルーカラーのスーパールミノバが塗布され、暗所でも視認性を保っている。
文字盤の12時位置には、オメガのロゴとともに「Seamaster」の文字が配され、外周には15分毎の数字が色付けされている。なお、今回着用したのは赤色のコントラストが効いたモデルであるが、他にグリーン、ブルーもあり、全3色の展開である。
ベゼルに使用されているのはセラミックスだ。耐傷性に優れたこの素材はオメガの時計でよく採用されており、本モデルではチタン製のケースと文字盤に完璧にマッチするよう、独特な色合いに仕上げられている。見る角度や光の当たり方によってはケースと同じ色合いに見えることもあるが、基本的には文字盤やケースより少し暗い色合いになっている。
収納可能なリュウズを採用
シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”は、独自の内蔵式リュウズを採用している。リュウズの収納時、ケースを上から見ると流線形で左右対称のように見えるが、6時から12時の間が41mmであるのに対し、リュウズを含めた3時から9時で計測すると43.5mmと直径が大きくなる。リュウズが収められているケースサイドには菱形の膨らみがある。このリュウズはねじ込み式ではなく、わずかな力で押せばスライドして出てくるものだ。このユニークな技術と操作は、時計が手巻き式であるために十分に堪能することができる。
本モデルでは、オメガがほぼすべての新型ムーブメントに採用している実用的なタイムゾーン機能を搭載している。これにより時針は、1時間単位で戻したり早めたりすることができる。これは時間差のある場所へ旅行する際にも、現地時間の設定が迅速に行えるようになる、非常に実用的かつ現代的なものだ。設定後、リュウズはケースに軽く押し付けることで再び固定される。その感触は実に滑らかだ。
タイムゾーン設定は1段引き、巻き上げと通常の時刻設定は2段引きだ。リュウズを戻す際にはカチッと音がするため戻ったことが分かる。このリュウズにはもうひとつの利点がある。リュウズトップの赤いオメガロゴは、常に思い通りの向きに配置することができるのだ。ねじ込み式リュウズとは対照的に、伸縮型リュウズはケースに納められていても回転する。
セラマイズドチタンを採用したムーブメント
搭載される手巻きキャリバー8928 TIは、METASよりマスター クロノメーターの認証を受けたムーブメントだ。つまり、ムーブメントと時計が一連のテストを受け、1万5000ガウスまでの磁場に耐えるクロノメーターであるということが実証されていることを意味する。
シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”ではムーブメントにおいても、軽量化のための施策がいくつか施されている。キャリバー8928 TIはオメガ初のチタン製ムーブメントだ。キャリバー8928 TIは、テンプのリムだけでなく、地板やブリッジもセラマイズドチタンで作られている。これにより、サファイアクリスタルのケースバックから見えるムーブメントは、ケースとマッチする色合いをしているだけでなく、パーツ間の摩擦を軽減する軽量性をも備えているのである。
従来と遜色のない十分な精度
シリコン製ヒゲゼンマイ搭載のフリースプラングテンプの振動数は2万5200振動/時で、直結したツインバレルにより約3日間駆動する。オメガによれば、軽量化によってムーブメントの精度や性能が低下することはなく、同社は他の製品同様、本モデルにも5年間の保証を与えている。
今回のレビュー期間中に精度確認を行ったところ、わずかな偏差は見られたが、常にクロノメーター基準内のものであった。完全巻き上げ時に計時状態で日差わずか1.4秒、着用時には2.3秒であった。24時間後またはそれ以上巻き上げを行わない状況だともう少し偏差が見られた。ただその場合でも4秒を超えることはなかった。
価格相応の価値ある1本
本モデルに組み合わされているのは、個性的なパターンとアクセントとなるステッチが施されたブラックラバーストラップだ。ストラップの背面の波状部分が通気性を担保し、軽いだけでなく快適な着け心地も実現している。ラバーストラップの先端は、圧力を加えて曲げるチタン製クラスプに繋がっている。さらに軽さを求めたければ、付属のテキスタイルストラップに付け替えることも可能だ。
「シーマスター アクアテラ」の機械式モデルは、ステンレススティール製のエントリーモデルが60万円台からラインナップされている。そのことを考えると、シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”は税込み668万8000円で、超軽量であるがゆえにお値段は張る。しかし本モデルはそのサイズと落ち着いた色調により独特の気品を漂わせており、眺めるといつも幸福な気持ちにさせてくれる。
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