例年、多くの限定モデルを発表することで有名なグランドセイコー。本記事では2022年に発表された限定モデルをまとめて紹介する。計14本の限定モデルどれも、グランドセイコーや、セイコーと関わりの深い和光などの多くのアニバーサリーが重なった本年を象徴するような時計ばかりだ。
Text by Shinichi Sato
2022年12月18日掲載記事
2022年のグランドセイコーを代表するニュースは、「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」が発表され、ジュネーブ ウォッチ グランプリ2022にて特別賞のクロノメトリー賞を受賞したことだ。この他にも本年は、グランドセイコーに関連する様々なアニバーサリーが重なっている。
代表的なものは、現在のグランドセイコーのデザイン文法である「セイコースタイル」を確立した「44GS」の誕生55周年である。本年はこのようなアニバーサリーを祝う限定モデルが多く発表された。そこで既に完売したモデルも含め、2022年に発表されたグランドセイコーの限定モデルをまとめて紹介する。
世界的な高評価を受けた「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」
手巻き(Cal.9ST1)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間(内コンスタントフォース作動時間は約50時間)。Pt950×ブリリアントハードチタン(直径43.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。世界限定20本。4400万円(税込み)。
2020年の発表のコンセプトモデル「T0コンスタントフォース・トゥールビヨン」は、その独創的な設計思想によって世界の時計業界関係者の注目を集めた。「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」は、基本的な構成はT0を踏襲しつつ、ケースに収めて腕時計として完成させたモデルだ。このケースへの搭載に際し、小型化とコンスタントフォースの改良を目的にムーブメント部品の90%以上を再設計した上で、従来とは異なる手法で優れた仕上げが施された。
T0およびKodoの特徴をおさらいしよう。開発テーマは機械式時計で可能な限りの高精度を実現することであった。これに対するグランドセイコーの回答は、主ゼンマイのトルク伝達を均一にするコンスタントフォースと、トゥールビヨンのキャリッジを同軸上に配置することであった。これは世界初の試みである。その効果は、テンワの振り角の変動をコンスタントフォースにより抑え、トゥールビヨンによって姿勢差の軽減も同時に実現することだ。
このコンスタントフォースは1秒間に1回作動する。これにより、8振動(2万8800振動/時)のT0およびKodoの作動音は16ビートを奏で、聴覚をも刺激する作品に仕上がっている。ただ、T0ではコンスタントフォースのリズムが不安定になることもあった。そこでKodoのCal.9ST1では、再設計と製作精度の向上により作動効率を向上させ、正確に刻音と同期するように改良が施されている。その結果、理論上も実際も極めて優れた精度を実現するに至った。
世界限定20本として発売されたKodoは、ジュネーブウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)2022にてクロノメトリー(等時性)賞を受賞した。この賞は、該当モデルが存在する時のみ贈られる特別賞で、過去の受賞歴には精度を徹底的に追求したモデルが並んでいる。
すなわち本作の、一見、話題性を狙ったようにも見える構成は理論的に優れ、それを正確に作動させていることが評価されたことを意味している。これはグランドセイコーの機械式時計技術が世界的に認められたと言ってよいだろう。本作については見るべきポイントが非常に多いため、特集記事をご覧いただきたい。
https://www.webchronos.net/features/77407/
「44GS」55周年を記念する5つの限定モデル
次に、44GSの55周年を祝う記念限定モデルを見ていこう。
悠久の時の流れを表現した「SLGH009」と「SLGA013」
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定550本。115万5000円(税込み)。
「ヘリテージコレクション 44GS 55周年記念限定モデル」の「SLGH009」と「SLGA013」は、果てしなく続く悠久の時の流れをダイアルの有機的なパターンで表現したモデルだ。デザインは、現在のセイコーのデザイン文法であるセイコースタイルを確立した44GSから多くの要素を継承し、それぞれに次世代を担う異なるムーブメントを搭載している。
ダークブルーダイアルのSLGH009は、20年発表の次世代を担うメカニカルムーブメント、キャリバー9SA5を搭載する。9SA5の特徴のひとつは、地板を拡大して自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに配置する薄型設計であり、その効果により本作の時計の仕上がり厚さは11.7mmを実現している。ダークグレーのダイアルのSLGA013は、同様の設計思想を自動巻きスプリングドライブに適応したキャリバー9RA2を採用する。これはキャリバー9RA5のパワーリザーブ表示をケースバック側に配することで針の取り付け位置を下げたもので、SLGA013は時計の仕上がり厚さが12.1mmに抑えられている。
それぞれ、深みがありながらダイアルに刻まれたパターンによる陰影が映えるように調色されている。また、ケースとブレスレットはグランドセイコーとして初めて「エバーブリリアントスチール」を採用した。これは、従来のステンレススチールよりも白く美しく、耐食性にも優れている特徴がある。
ともに世界限定550本である。
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA2)。38石。パワーリザーブ約120時間。SS(直径40mm、厚さ12.1mm)。10気圧防水。世界限定550本。104万5000円(税込み)。
“桜隠し”を表現する「SBGW289」
「ヘリテージコレクション 44GS 55周年記念限定モデル SBGW289」は、春の季節に桜が咲く中、雪が桜の花の上に積もっている様子を指す“桜隠し”を表現したモデルだ。桜隠しは、グランドセイコーの機械式モデルを製造する「グランドセイコースタジオ 雫石」が位置する東北地方で用いられる季語である。なお、グランドセイコースタジオ 雫石の詳細については特集記事をご覧いただきたい。
https://www.webchronos.net/features/52945/
本作では、桜と雪の折り重なりという儚く美しい情景から受けたインスピレーションを繊細な型打ち模様とグレイッシュなピンク色で表現している。本作のケースデザインは、44GSの特徴である平面で構成された力強いシェイプを継承しながら、現代の44GSモデルの中で最も小型な直径36.5mm、厚さ11.6mmとなる。また、このプロポーションを実現するために、手巻きのキャリバー9S64を採用している。本作は世界限定1200本(国内150本)である。
手巻き(Cal.9S64)。24石。パワーリザーブ約72時間。SS(直径36.5mm、厚さ11.6mm)。10気圧防水。世界限定1200本(国内150本)。62万7000円(税込み)。
信州の雲海をテーマとした「SBGP017」
「ヘリテージ コレクション 44GS 55周年記念限定 クォーツ特別精度モデルSBGP017」は、グランドセイコーのクォーツモデルを製造する「信州 時の匠工房」が位置する信州にて、さまざまな気候条件がそろった早朝にのみ望むことができる壮大な雲海をダイアル上に表現している。
クォーツ(Cal.9F85)。SSケース(直径40mm、厚さ10.7mm)。10気圧防水。世界限定2000本。44万円(税込み)。
型打ち模様は幾重にも重なった雲を、淡い青色は空を反射した雲を思わせる。ムーブメントはキャリバー9F85であるが、本作に搭載されるのは年差±10秒の標準モデルに対し年差±5秒まで調整された特別精度品である。その証しとして、ダイアルの6時位置にゴールドカラーの「ファイブ・ポインテッド・スター」が配されている。
また、グランドセイコーとしては珍しく、クォーツモデルながらシースルーバックを採用している。この採用に際して、受け板固定ねじに青く輝くテンパー処理が施された。本作は世界限定2000本である。
“月天心(つきてんしん)”を表現した「SBGY009」
「ヘリテージ コレクション 44GS 55周年記念モデル SBGY009」は、月が天の真ん中にあることを示す“月天心”を表現したモデルである。月天心は中国の古い詩で用いられた表現で、その様子は静かでさわやかな自然の美であると詠まれている。
手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。30石。平均月差±15 秒(日差±1 秒相当)。SS(直径40mm、厚さ10.5mm)。パワーリザーブ約72時間。10気圧防水。世界限定1500本。93万5000円(税込み)。
本作のダイアルは、放射状の繊細な型打ち模様がほのかに浮かび上がる深いネイビーカラーを採用し、中天に輝く満月をゴールドカラーのGSロゴによって表現している。また、静かな様子と呼応するように、秒針がスムースに移ろいゆく手巻きスプリングドライブのキャリバー9R31を採用する。
「信州 時の匠工房」製の9R31は、ひとつの香箱のなかにふたつの動力ゼンマイを用いたデュアル・スプリングバレル構造により、約72時間のパワーリザーブを備えている。本作は世界限定1500本である。
和光のアニバーサリーイヤーを祝う限定モデル
2022年は、銀座四丁目の2代目時計塔の竣工から90周年であり、株式会社和光の設立75周年でもある。これらを記念する限定モデルも発表された。
時計塔90年を祝う和光限定モデル「SLGH015」
「エボリューション9 コレクション 時計塔90年 和光限定モデル SLGH015」は、1932年竣工の銀座和光の2代目時計塔90周年を祝う限定モデルだ。銀座四丁目交差点にそびえる和光本館とその時計塔は、和光のシンボルとしてだけでなく、銀座のシンボルとして親しまれてきた。
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm)。10気圧防水。完売。
本作のベースモデルは、グランドセイコーの次世代を担うキャリバー9SA5を搭載するエボリューション9であり、記念すべき年を祝うのにふさわしい。また、90周年と「9」に共通点がある点は面白い。
ダイアルは、和光本館の外壁に使用されている御影石を表現した、柔らかなシャンパンゴールドのパターンを採用している。また、特別な仕様として、9時のインデックスの横には透明印刷で「90TH」の文字がささやかに描かれている。その文字が光の当たり具合で浮かび上がってくる様は、まるでシークレットサインのように持ち主だけが楽しめる仕掛けとなっている。
発売日が「時の記念日」である6月10日であった点にも注目。SLGH015にはブラウンのクロコダイルレザーストラップが付属し、付け替えることでシックな雰囲気を楽しむこともできる。SLGH015は和光でのみ購入可能なモデルで、すでに完売している。
和光の設立75周年を記念した「ヘリテージコレクション 和光75年 限定モデル SBGE289」
「ヘリテージコレクション 和光75年 限定モデル SBGE289」は、株式会社和光の設立75周年を祝う記念限定モデルだ。自動巻きスプリングドライブのキャリバー9R66を搭載するGMT表示機能付きモデルで、ダイアルは秋の空のような明るく澄んだ青色を示す日本の伝統色「御空色(みそらいろ)」である。
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41mm)。10気圧防水。世界限定75本。完売。
これは、平和の象徴である青空を表現しており、諸説ある和光の由来のひとつとされる「平和な時代の到来を願うこと」から連想したものだ。型打ち模様で表現されているのは秋の到来を告げるうろこ雲である。
GMT針は、記念すべき年を祝うようなピンクゴールドカラーで、GMT針が指し示すフランジ部の「7」と「5」の文字もピンクゴールドカラーとなっている。SBGE289にはネイビーのクロコダイルレザーストラップが付属し、付け替えることでダイアルカラーと呼応するエレガントな雰囲気を楽しむことができる。すでに完売。
高島屋 横浜店でのみ購入可能な「エレガンスコレクション SBGE293 高島屋 横浜点限定モデル」
百貨店限定モデルは和光以外からも販売されている。2022年に発表されたものとして代表的なのが、高島屋 横浜店限定モデルをうたった「エレガンスコレクション SBGE293」だ。
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40.2mm、厚さ14.0mm)。10気圧防水。高島屋 横浜店限定30本。80万3000円。
海もあれば山もあり、オフィス街も存在するなど、いろいろな顔を持つ横浜の風景。その中でも最も横浜という単語から連想するであろう“水辺の街”をテーマにした文字盤が特徴的だ。サンレイ仕上げが施されたラッカー塗装の美しいブルー文字盤は晴れ渡る青空の下、光によって表情を変える海を表現したもの。そこに水辺での光の煌めきを示すシルバーカラーのダイアルが配された。
搭載されるムーブメントはGMTにパワーリザーブインジケーターを組み合わせたキャリバー9R65。時針の単独調整と日付の送り戻しが可能で、月差も±15秒と高精度なスプリングドライブを採用する同作は、日常生活のみならず、海外への渡航の際にも高い利便性を発揮してくれる。