数年の間で大きな盛り上がりを見せる時計市場は、現在も続いている新型コロナウイルスの世界的な蔓延による影響を受けている。今回は、老舗オークションハウス「ボナムズ香港」時計部門のディレクターを務めるシャロン・チャンが、時計オークションの結果から、およそ3年間の時計市場の変化について分析する。
Text by Sharon Chan(Bonhams Hong Kong)
(2022年12月20日掲載記事)
3年前とは大きく異なる時計市場
新型コロナウイルスの世界的な蔓延は、少なくとも3年以上は続いている。その影響はまだ収まっておらず、この3年間で中古の時計市場は浮き沈みを何度も経験した。
ボナムズが行った時計オークションのおかげで、3年ぶりに香港在住以外の時計コレクターと直接会う機会があった。興味深いのは、コレクターが時計の売買に熱中しているにもかかわらず、時計市場の状況が3年前とは大きく異なっていることだ。
新型コロナウイルスが猛威を振るう約2年もの間、オークションのバイヤーは美術品や現代アートの長期的な価値を認識し、国際市場は感染症の危機の最中でも外部の影響を受けず、かなり安定した状態を保っていた。
近年、稀少価値の高い時計が記録的な高値で取引されていることもあり、中古時計市場は新たな盛り上がりを見せている。しかし、2022年の前半はロシア・ウクライナ間の戦争や世界的なインフレが国際株式市場を直撃し、多くの時計購入者が手探りの状態で、それと同時に人気モデルの相場も変動していた。
例えば、グリーンダイアルと18Kイエローゴールドケースを組み合わせたロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」Ref.116508は、ピーク時には新作全体で100万香港ドル(約1698万円、1香港ドル=16.98円、2022年12月20日現在、以下同)以上だったが、現在は60万香港ドル(1019万円)前後だ。またオーデマ ピゲ「ロイヤルオーク 50周年モデル」のひとつであるRef.26240は、200万香港ドル(約3396万円)近くでスタートしたが、この数ヶ月で120万香港ドル(約2038万円)前後に下落している。
その一方で、ロレックスの「オイスター パーペチュアル デイトジャスト」や「オイスターデイト」など、ベーシックなヴィンテージモデルは安定しており、「オイスター パーペチュアル エクスプローラーⅡ」Ref.1665“スティーブ マックイーン”のようなレアモデルは、箱付きの完璧なコンディションならば高い値がつくだろう。
高い人気のカギは“稀少性”
人気モデルへの買い手のシフトは明らかだが、オークション市場では「稀少性が最も重要」という法則は変わっておらず、稀少なモデルは依然として高い人気を誇っている。例えば、2022年12月1日に行われたボナムズの時計オークションでは、20本しか生産されず、オークションにもほとんど登場しなかったパテック・フィリップの「ミニッツリピーター パーペチュアルカレンダー」Ref.5013に注目が集まった。結果、2901万1000香港ドル(約4億9274万円)で落札された。
また近年は、独立系のマイクロブランドに注目するコレクターが増えているようで、同オークションに出品された2本のH.モーザーはかなりの人気だった。LVMHグループがブランドを再始動させるという噂もあってか、ダニエル ロートの中でもレアな「スケルトン クロノグラフ」のサーモンダイアルモデルは、オークション前に予想外の高い関心を集め、最終的には落札予想学の10万8375香港ドル(184万円)を上回る価格で落札された。
加えて、パテックフィリップの「アクアノート」やA.ランゲ&ゾーネの「1815」など、ユニセックスのモデルやメンズウォッチに興味を持つ女性も増え、内覧会では女性たちが何度も試着する光景が見られた。
2022年のボナムズ香港が行った時計オークションは好調で、ボナムズのアジアで行った時計セール16年の中で最高の総額を記録した。1000万香港ドル以下の市場での地位を確認しただけでなく、時計愛好家、特に新規の若いコレクターからのミドルレンジの時計に対する高い需要があることは明確になった。
現在、中価格帯の時計に対する需要は高まっている。全体として時計市場は低迷しつつあり、かなりリーズナブルになり、競争も一時期より少しは緩和された。このような背景から、時計が好きな人ほど、積極的にオークションへ参加し、あらかじめ予算を決めてから入札を行うと、よりリーズナブルな値段で時計を手に入れることができる、とアドバイスしている。
著者「シャロン・チャン」プロフィール
シャロン・チャンは、アジアにおけるボナムズ時計部門のディレクターである。香港を拠点に、アジア太平洋地域の事務所と密接に連携し、同部門が年に10回開催するオークションの監督を務めている。
2017から18年、オークション事業に復帰し、ボナムズに入社する前にはプロフェッショナルとしてのキャリアを広げ、プライベートウォッチビジネスとクライアントコンサルティングを運営した。その豊富な経験から、世界中のコレクターとの強いコネクションを持ち、アジアにおける時計市場の拡大に重要な役割を担っている。
これまで多くの国際的なオークションハウスでのジュエリーと時計のオークションビジネスにおいて、17年以上の経験を積み、2011年から2016年にかけては、香港で時計オークションを指揮。売り上げを年々強化し、2013年にはアジアでの時計販売で最高額を達成した。また、世界最大級のプライベートウォッチコレクションの監督責任者を務め、2015年のオークションで600万USドルという新記録を打ち立てた。
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